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性加害 20年治療続けても「自分には再犯リスクが」 “当事者”が語る日本版DBSに「足りない点」

2024年5月11日 8:33
性加害 20年治療続けても「自分には再犯リスクが」 “当事者”が語る日本版DBSに「足りない点」

東京都に住む加藤孝さん(61)は、中学時代から30代までに10人以上の子どもに性加害をしたという。38歳の時、子どもの命を奪ってしまうかもと恐ろしくなり警察に自首、強制わいせつ未遂の罪で執行猶予・保護観察付きの有罪判決を受けた。それから20年以上加害行為をしていない。

適切な治療などにつながれば再加害は防止できると強調するが、「性依存症」の診断を受けた加藤さんは今でも治療を欠かさない上、電車内でこどもがいる車両を避けるなど予防法を駆使して、「きょうも性加害をしなかった」と1日1日を積み重ねる状態だという。国会で日本版DBS (性犯罪歴がある人はこどもと接する業務に最長で20年間就けないようにする仕組み)を含むこども性暴力防止法案の審議が始まったが、加藤さんは自身の経験から、20年の期限では不十分ではないかと話す。

■交番に自首「このままだと命さえ奪いかねないと…」

性加害をしていた頃は、子どもだって気持ちがいいだろうという全く間違った考えを持っていました。これ(性加害)はまずいだろうと思いながら、バレなきゃいいやと考えてしまっていました。38歳の時、脅すために粘着テープなどの凶器を持っていたんですけど、男児が嫌がって逃げた後、このままだと、自分は子どもの命さえ奪いかねないと。交番に自首したのは助けを求める心境だったと思います。

──子どもに性加害してはいけないと気づいたきっかけは

被害経験者の手記を読んで、自分がしてきたことは人を傷つけてしまっていることだと初めて気づきました。それまでは、自分がしていることを正当化することに一生懸命になっていましたが、被害者に向き合うことで方向転換できました。

児童虐待のことを魂の殺人と言いますけど、まさに自分がしてしまったことはそういうことなんだと気がついて、償いきれない傷、癒やしきれない傷を与え、人生を破壊してしまった申し訳なさでいっぱいです。一生背負っていくことだと思っています。

■実名で取材に応じるワケ「どのように変われたかを」

実際の当事者が、正直に自分の経験を語り、どのように変われたのかというメッセージを発信すると、自分でも変わることができるかもしれないと希望を与える力があると思っています。それは、加害を防ぐ確率を上げることになり、結果として子ども性暴力根絶の役に立つと考えています。

一番伝えたいのは、性依存は完治しないけれど、回復でき、性加害を防ぎ続けることはできるということです。あれだけ加害行動を続けた自分が、20年以上加害をせずにいます。加害をしてしまったり、繰り返してしまっている人には、私だって変われたんだからあなたも変われる、だから勇気を持って加害行動を止めるための方法を活用して、加害を止めてほしいです。

■「なぜ性加害をしてはいけないのか」 認識は全くなかった

──加害行動を止めるため、どんなことをしているのか

まずは、なぜ子どもに性加害をしてはいけないのかを学ぶことが大事です。僕自身も加害を続けてしまっている間は、そういう認識が全くありませんでした。最初に加害をしてしまったのが中学生の時で、自分には治療が必要だと気づいたのが40歳手前ですから、四半世紀かかりました。それだけ問題をきちんと認めることができなかったわけです。

僕自身、子ども時代に重度の感情的虐待を母から受け、苦しい時、当時は性的なことだと知らず、自慰行為をすると気が休まり、それが自分にとってポジティブな経験として記憶されていたことも、被害者が気持ちいいと感じるのでは、と正当化してしまった背景にあります。

最後の加害をして勾留されている間に、性犯罪について書かれた資料で学び、再犯防止のための認知行動療法を受けました。ストレス要因は何か、自分にとって心理的に何が問題なのかを掘り下げていかないと、加害が止まっても、それだけで問題の本質には対処できず、性犯罪を繰り返すリスクは下がらないと思います。僕の場合は、心理的なストレスから逃れて自分が楽になるために、依存症行動をとっていました。

あとは、性依存症の自助グループに参加し、自分の感情面を言語化して整理する取り組みも行っています。性依存症のほかにもアルコール依存症、発達障害などの診断も受けているので、精神科医療、カウンセリング、精神科の訪問看護も利用して、日々の自分のコンディションをチェックしてもらっています。

■自助グループ “伝える側”が助けられることも

──自助グループではどのような支え合いをしていますか。

自助グループの根幹となる活動は、ミーティングです。性依存症の経験やどう自分が変わってきたか、苦しんでいることなどを共有します。自分について言語化することで心理的な問題を整理して、対処していく場になります。

治療プログラムを既に経験した人が、未経験の人に(防止)方法を伝えることもあります。伝える側も、自分が持っていないものは人に渡せないわけで、伝えながら「ここは自分も抜けていた」「最近危ないな」と気づくことがあり、相互支援になっています。自助グループの活動内容を、関係機関や弁護士、医療機関に伝える活動もしています。

■専門家「再犯リスクが一番上がるのは…」

これまで3000人以上の性加害者の治療に関わり、「子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か」(幻冬舎新書)などの著書がある、精神保健福祉士・社会福祉士で大船榎本クリニック精神保健福祉部長の斉藤章佳さん(44)に、加害者治療の必要性を聞いた。

性加害を繰り返している人たちの再犯防止は可能です。医療機関では一応病名がつきますが、病気だから仕方ないということではない、ということが重要です。加害行為の責任は彼らにあるからです。

治療には、世界共通の科学的エビデンスに基づいた再発防止のプログラムが存在し、彼ら(加害者)は、それぞれのリスクレベルに応じたプログラムを行います。刑務所でも同じように行っていますが、大きく違うのは、クリニックの場合は治療契約で決められた期間が終了した後も、メンテナンスプログラムとして治療が継続できること。理想は、刑務所の中でプログラムを受け、出所後も受け続けることです。適切な治療機関に繋がることで、これ以上被害者を出さない、しっかりプログラムを受ければ必ずやめ続けることができます。

──加害者治療について知ってほしいことはなんですか。

一番再犯リスクが上がるタイミングは、出所後すぐや保護観察期間が終了するタイミングです。刑務所でプログラムを受けている人でも、今までの全く引き金のない環境から急に社会へ出るので、一気にハイリスク状況に陥ります。だからこそ、出所後に連続性のある社会内処遇に繋げていくことが重要です。

適切な相談機関があり、その後仕事に就けて、再発防止に取り組みながらよりよく生きるためのルートに乗れるように伴走する専門家や専門機関に繋がっていた方が安心だと思います。適切な刑罰とエビデンスに基づいた治療をセットにすべきという考え方が、さらに広がってほしいと思います。

■加害経験者がみる日本版DBS 20年の期限を“無期限”に

5月9日、国会で審議入りした「こども性暴力防止法案」。その柱となるのが「日本版DBS」だ。教員や職員に性犯罪歴がないか、学校や保育所などに確認を義務付ける制度だ。痴漢や盗撮などの条例違反も含む性犯罪歴のある人は、服役した場合は刑の執行終了から20年、罰金刑の場合は、刑執行終了から10年、子どもと接する業務につけなくなる。性加害経験者の加藤さんはこの法案について、足りないと思う点があるという。

法制化されるのは、子どもへの性暴力を根絶する意味でとても大きな進展だと思います。ただ、僕自身の経験から二点足りないと思うことがあって、ひとつはどの期間までを対象とするか。僕は(性加害をしなくなって)20年超えてますけど、今でも自分に再加害のリスクがあると思います。

20年経ったから制度の枠から外れてしまうのではなく、期限を設けずに(規制)対象とすべき。性依存症は回復はしていくけど、一生治癒はしない、もう治ったから大丈夫だというのはあり得ないし、危険な考えです。1日1日再加害をしない日々を積み重ねていく。今日も電車内に家族連れがいて、女児がいたので、僕は一緒になるのを避けて別の車両に移るという対処をしています。

もうひとつは規制対象の範囲です。僕は家庭教師や障害児介助ボランティアをした際、加害してしまいました。今回の法案では、どちらの職種も規制の対象外です。僕は見ず知らずの子どもに加害してしまったこともありますから、包括的に子どもへの性暴力を根絶するためには、枠組みをもっときちんと整備する必要があると思います。でも、それを完璧に整えるのは大変なので、とりあえず法律を作るというのが大きい成果になるとは思っています。

──職業選択の自由に反するとの声もあります

職業の選択の自由の制限があっても構わないと思います。全ての職業に就くことを禁じられるわけではないし、第一に考慮すべきは子どもの人権です。自分が加害したことがあるのに、わざわざまた子どもに近づく職業を選択するのは、認識が甘すぎると思います。認知行動療法でも、子どもと一対一で接することは絶対に避けることが提唱されていました。だから、不用意にそういう機会を許してしまうのは、非常に危険なことだと考えています。

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