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ワクチン特例承認の舞台裏 専門家に聞く

2021年2月14日 14:33
ワクチン特例承認の舞台裏 専門家に聞く

新型コロナウイルスの政府の政策決定や、ワクチン開発、医療現場などの最前線で奔走する専門家たちに、今更聞けない素朴なギモンから最新情報のアップデートまで聞く企画。第4回は、ワクチンや薬の承認を判断する厚生労働省の部会のメンバーを10年間務めた埼玉医科大学教授の前崎繁文医師に取材した。

■簡単には「了承」とならない部会

――ワクチン承認の部会とは?

薬やワクチンは、有効性と安全性が担保されれば承認となります。部会で、治験のデータを見て、有効性と安全性が担保されているか確認して、部会の委員全員の承諾がないとだめで、全員承諾という形で承認する形をとっていました。

――自分の担当分野で各自意見を述べる?

そうですね。例えば、私は感染症が専門なので抗がん剤のことはわからないですが、抗がん剤の副作用で感染症が起こる場合について、私が、この薬を使うとこんな感染症が起こるので安全性に問題があるのではないかと、意見することもありました。

――審議はスムーズに進む?

部会に諮る前に、PMDA(医薬品医療機器総合機構)という専門機関で有効性と安全性を確認します。PMDAの意見が私たちのところに上がってくるので、その意見が妥当か判定します。時にはPMDAの意見に、そうじゃないだろうと意見することもあります。

――部会で賛否の意見が飛び交うことも?

ありますね。ペンディングになることもあります。十分な証拠がまだないのでもう少しちゃんとみた方がいいとか。実際に、この間のアビガンがそうです。アビガンは部会にかかって、承認するにはまだ十分な科学的な根拠がないということで、日本の治験は終わったが、海外の治験と併せて最終的に承認しようとなりました。様々な薬でそういうことはありました。

■「特例承認」に重要なアメリカとヨーロッパのデータ

――今回のファイザーは、去年12月に承認申請し2か月弱で部会。かなり早い?

かなり早いと思います。ただ、今回は新しい感染症がターゲットですから、待つわけにはいきませんので、特例承認でスピーディーにいくのは当然でしょう。それと、アメリカとヨーロッパと日本は、治験データをそれぞれ信用して補填できるということが厚労省で決まっています。アメリカとヨーロッパのデータはある程度あるので、それを持ってきて承認するという作業になると思います。

――データを相互にみるのはアメリカ、ヨーロッパ、日本だけ?

そうです。ですから残念ながら中国とか、他の国のデータは(見ません)。

――承認の基準は各国で結構違う?

結構違うと思います。どこの国が甘いということはないと思いますが、少なくとも日本・アメリカ・ヨーロッパはかなり厳格な基準でやっているのは確かです。

■新型インフルエンザの「特例承認」も同じスピードだった

――新型インフルエンザの特例承認の際も同様のスケジュール?

その時もものすごく早かったです。今でも覚えていますが、(2009年の)12月末に部会があって、普通部会は長くても3時間くらいですが、その時は(午前中から午後まで)お昼を挟んで部会がありました。厚労省でお弁当食べた記憶がある。それだけスピード感もって使おうと厚労省も思っていたのだと思います。最終的な特例承認は、2010年の1月で、今回と同じくらいのスピード感で承認しました。

■「特例承認」でも承認プロセスは同じ

――「特例承認」で何かプロセスが省かれる?

プロセスはそんなに省かれるものはないです。かなりの治験データが上がってきますので、それを見る時間が、特例承認ではどうしても時間的余裕があまりないです。データを省くというより、データを見る時間がタイトだと思います。

―データや資料を各自読み込んでから部会で集まる?

はい。大体、資料が段ボール3つくらい来ますのでかなりのページ数になります。それを読み込んで。

■医療従事者として、待ちわびたワクチン接種

――この1年間、前崎先生自身も新型コロナの治療にあたってこられた。

医療従事者へのワクチン接種が始まることをどう感じる?それはもう、かなりの進歩だと思いますし、現状でこの新型コロナに対応できるのはワクチンしかないですよね。いくつか治療の手段はありますが、例えば(治療薬として使っている)ステロイドは免疫のもので、レムデシビルはエボラの薬です。新型コロナウイルスに対する薬は、現状はないわけです。だから本当にコロナウイルスに対して、というのは今回のワクチンが初めてです。やはりワクチンが現状では一番の決め手だし、これが一番の武器だと思います。

■ワクチンなしの感染対策は、必ずどこかで破綻する

――ワクチンがない中では医療従事者の負担は大きかった。

それはもうかなり。特に第一波の時はものすごく負担でした。何をすればいいかもわからないし、情報も少ないし、治療薬も何を使えばいいかわからなかった。第二波では、軽症の方も多かったですが、第三波の今は、いよいよ本当の感染症になったなと思います。

感染防御に関しては、第一波でトレーニングできたので、今はそんなに恐れることはないですが、それでも、感染防御はやはりどこかで必ず破綻するところがある。例えば緊張が切れるとか、急な患者さんが入ってくるとか。そういう時に、パーフェクトな感染防御ができない時もあります。

どういう感染防御がいいかわかっていてもできないこともあり、そこに、感染する可能性がある。そう考えると、ワクチンで自分の体の中に抗体があるというのは、内側の感染防御になるし、外側の個人防御(感染対策)とあわせて、かなり安心して医療ができるのではないかと思います。

■「すべての医療従事者にワクチンを打ってもらいたい」

――ワクチン接種で、医療に向き合う精神的負担は違う。

それは全然違うと思います。僕は医療従事者にはすべて打っていただきたい。感染症を専門としている医療従事者だけでなく、すべての医療従事者です。というのは、病院や医療機関のクラスターは、どちらかというと専門外のところで起こっているんです。例えば、整形外科や内科だとか、普通は感染症が身近にない先生のところで起きる。ワクチンを打てば、自分自身も守れるし、医療機関でのクラスターも抑えられるかもしれないので、ぜひ早めに打ってもらいたいです。

■プロフィール
前崎繁文
埼玉医科大学感染症科・感染制御科教授。2016年までの10年間、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会のメンバーとして、ポリオワクチンの承認や、新型インフルエンザワクチンの特例承認を審議。