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元社員の証言から見えたアパート階段崩落

2021年5月22日 19:14
元社員の証言から見えたアパート階段崩落

わずか築8年。誰がこんな事故が起こることを予想できただろうか。今年4月、東京・八王子市のアパートで外階段が崩れ落ち、落下した住人の女性が死亡した。原因は、階段に使われていた木材の腐食だとみられている。

次第に明らかになってきたアパートのずさんな施工――。その背景に一体、何があったのか。施工会社の元社員が日本テレビに重い口を開いた。

■「いつか落ちるだろうな」元社員が語る実態

待ち合わせ場所の神奈川県内の喫茶店に男性が現れたのは、平日の午後だった。事故が起きたアパートを施工した則武地所(神奈川県・相模原市)の元社員A氏。則武地所で数年間働き、事故当時も在籍していたが、その後、会社の破産申請とともに解雇されたという。一通り取材意図を話すと、A氏は会社の実態を語り始めた。

「『建物が曲がってるな』、『階段の施工が雑だな』と日々感じていました。階段の踏板に乗ると曲がるほど薄かったり、溶接が不十分だったり。とにかく早く仕上げることがメインだったんで品質とかを無視した施工でした」

ずさんな施工を日常的に行っていたという則武地所。

「階段に関しては『素人がやっているような階段をかけているな』と日頃、思っていました。ところどころしか溶接をしないんで、ひどいなと。作業をしているのがプロではなくて、業者を呼ばないで、社員がなんでもやる。見よう見まねでやっていた感じでしたね」

A氏の口から語られたのは、建築会社としてのプロ意識のない会社の体質だった。A氏はさらに続けた。

「アパートの通路の勾配がかなり急であったり、前に建てた物件は水が入って床がたわんでいたり、というのはありましたね」
「古い物件に補修に行った時には、階段がさびていたり、防水加工がされていなかったり…いつか落ちるんだろうな、いずれ大事故になるだろうなと」

しかし、そうした異変があっても会社側に改善をしようという姿勢は見られなかった。こうした体質を如実に示す場面があったという。それは上司と階段を設置する工事での会話だった。アパートの階段が明らかに曲がっていたため、「大丈夫ですか?」と上司に聞いたA氏。すると返ってきたのは耳を疑うような言葉だった。

「引き渡せれば、こっちとしては関係ない」。

今回なぜ取材に応じたのか。A氏は絞り出すようにこう話す。

「事故が非常にショックだった。今後、こういうことがないようにしないといけない。会社もすごくひどいなと。被害者への対応がすごくひどい人たちだなと思いました」

遺族や住人への謝罪、そして会社の被害者への対応に不信感が募ったからだという。

■事故後に判明したずさんな施工の数々

八王子市のアパートで階段が崩れ落ち、住人の大手里美さん(58)が死亡した事故。あの日、買い物を終え、3階の自宅に帰ろうと階段を上っていた大手さん。その日常は一瞬にして奪われた。

そして事故後、則武地所のずさんな施工が次々と明らかになった。国土交通省によると則武地所が手がけたアパートは都内と神奈川県の166棟。代理人弁護士によると、このうち実に57棟ものアパートで腐食や劣化が確認されたという。

「引き渡せば関係ない」。まさにあの言葉の通りの施工が各地のアパートで行われていたのだろうか。責任を果たそうとしないまま、則武地所は今月13日、破産手続きを申請、手続きの開始が決定した。

腐食や劣化が見つかったアパートは今後どうなるのか。実は、A氏は、八王子市のアパートでの事故後に神奈川県内のアパートに駆けつけたという。「とりあえず危なくないように、大工さんと階段を直してくれ」、そう会社から指示されたからだ。

A氏が撮影した写真の中には、木の板が腐ってボロボロになっているアパートの階段の写真もあった。この場所は、まだ築7年だという。

■アパートに行ってみた

後日、その階段があるアパートを訪ねた。閑静な住宅街にある3階建ての木造アパート。遠目にも、その不自然さが目に入った。階段の踊り場が真新しいむき出しの木材になっている。さらに近づくと、そこには雨で濡れたシミも確認できた。A氏らが急きょ、抜けそうな階段の踊り場を新しい木の板で“応急処置”をしたものだという。

さらに都内の別の木造アパートも訪ねた。こちらはまだ築5年。この階段も、一部が腐食していて、裏から見てみるとボロボロで、さびが目立つ。階段を固定する金具もサイズが合っていないように見える。

今もこのアパートには多くの人が住む。アパートの1階の部屋でひとり暮らしをする19歳の女子大学生に話を聞いた。聞けば今年2月からここに暮らし始めたという。

住んでいる女子大学生
「アパートが建ってからそんなにたっていないですけど、正直怖いです。いつ階段が落ちてもおかしくないのかなと思います」

当面は引っ越す予定はないということだが、女子大学生は不安な表情を隠しきれないでいた。

■警視庁捜査1課が捜査へ

事故から1か月あまり。渦中の則武地所をめぐっては現在、警視庁捜査1課が業務上過失致死の疑いで家宅捜索するなど捜査を進めている。ある捜査幹部はこう話す。

「押収した設計図には『鉄骨階段・木材部分は防腐処理』と書いてあったのに実際は防水、防腐処理はされていなかった。ずさんな施工体制だったのは明らかだから、しっかりと捜査と尽くして責任を追及していく」


画像は崩れ落ちた八王子市のアパート階段(視聴者提供)