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校則を第一歩に 中高生むけ「主権者教育」

2021年6月8日 18:55
校則を第一歩に 中高生むけ「主権者教育」

「主権者教育」をテーマに活動する古野香織さん(25)。自分自身が社会の担い手になれることを知ってほしいという思いで、現在は中高生を対象に主権者教育を広めている。自身が主権者になったときの“戸惑い”と、目指す世界を聞いた。

■若者の主権者意識向上を目指して活動

2015年に公職選挙法が改正され選挙権年齢が満18歳以上へ引き下げられたことにより、主権者教育のニーズが高まっている。一般的には、若者の政治参加を促すため政治について紐解いていくのが主権者教育とされることが多いが、身近な問題についても議論し、声を上げていくことも重要だと古野さんは考える。

「自分の意見を届けることで社会の作り手になれるのだと、少しでも多くの日本の若者に実感してほしい。そういう思いで、若者向けの主権者教育に取り組んでいます」

いくつかの取り組みをする中で、スウェーデン民主教育をヒントにした主権者教育を、大学院生のときから続けている。大学院時代、若者の投票率が高いと言われるスウェーデンの授業や選挙活動を視察したことがきっかけという。

「スウェーデンの若い人たちの社会参画意識の高さを感じました。自分は世の中の作り手なんだという意識がものすごく強かったんです」

その秘密は主権者教育にあった。学校は「子どもたちを市民として育てる民主主義の担い手」としての機能が強いという。小学生のうちから給食について話し合い、中高では校則について議論したり、政治家を招いて政治について話す授業があるというのだ。

帰国後、現地で行われていた主権者教育をモデルに、政治について考えるワークショップに高校生向けに開催した。大学院を卒業した現在もワークショップの活動は続けている。

もう一つの活動軸は、所属する認定NPO法人カタリバの「ルールメイカー育成プロジェクト」である。
このプロジェクトでは、学校の中で生徒が主体となって先生や保護者と話し合いを重ね、校則やルールを見直す。大学院卒業後、NPO法人カタリバに勤めた古野さんは、全国12校でこのプロジェクトに参加している。各地で“ブラック校則”が叫ばれている中、対立ではなく対話を重視して、みんなが納得する答えを作り、合意形成することを目指す。

「『なぜこんな校則があるんだろう?』と違和感を持っていても『どうせ3年間で卒業してしまうから、このままでいいや』『先生に言っても、無駄だし・・・』となんとなく受け入れてしまう中学生・高校生が多いように感じています。でも、自分たちが動くことで校則を動かすことができる。自分たちが意見を言うことで、自分が属する社会に影響を与え、変えられるということを実感してほしい。そうすることで、より主権者意識をもって社会に関わる人が増えると考えています」

■突然選挙権を手にしたとき、どうしていいか分からなかった

政治に関心を持つきっかけは、政権交代を目の当たりにしたことだった。

「当時は政治について知識はなく、政治でこんなに世の中って変わってしまうんだと漠然とした不安を抱きました。そこでもっと政治について勉強したいと考え、政治学を学べる大学に進学しました」

さらなる転機が訪れたのは、19歳のとき。改正公職選挙法が改正され、選挙権の年齢が引き下げられた。大学の教授に同行し参議院の議会を傍聴しており、全会一致で改正が可決された瞬間に居合わせた。

しかし、選挙権を手にした古野さんは戸惑ったという。70年ぶりに選挙年齢が引き下げられ、若者世代への期待に希望を感じた一方で、政治について勉強したことがないのに、どこまで政治状況を調べて投票すれば良いのか不安だった。

「今まで大人の言うことを聞くことが全てだったのに、ある日突然、若者も意見することが大事だ、社会に参加しようと言われたのです。自分が一票投じたところで何になるのだろうか。私も含め、周りの友人も戸惑いました」

投票者しての葛藤を経験した古野さん。そこから、主権者教育をテーマに活動を始める。

当初は、同世代や中高生に選挙の仕組みを教えたり、模擬選挙を行ったりすることで、政治を身近に感じてもらうことを目指していた。一方で、本当に届いているのか悩んでいたという。

「実施後のアンケートでは政治が身近に感じられるようになりました、と書いてくれてるんですが、本当に心から感じているのか不安でした。また自分の意見に対して価値がないと思っている生徒も多い印象を受けました」

自分の意見は社会を動かすことができる。そう生徒に思ってもらうために選挙の啓発活動以外の選択肢を模索していた古野さん。生徒と話す中で、校則の可能性を感じたという。

「いきなり世の中について考えようといっても難しい。しかし、自分たちの学校の校則に対してしっかり意見をもっていたのです。そこでファーストステップとして、まずは身近な校則から主権者教育のアプローチをしようと考えました」

■身近なところから主権者としての意思決定を体験してほしい

古野さんは、政治や校則だけではなく、地域のことやLGBTなど興味がある身近な問題に対して意見を交換してほしいと考えている。その意見に対して周りから反応がくるという経験を重ね、自分の意見にも価値があるということ、そして自分とは違う意見が存在することに気づいてほしいと語る。

「異なる意見を尊重した上でみんなが納得する答えを探してほしい。他人の意見に無関心で自分だけが幸せなルールを作ってはだめなんですよね。自分の意見を言わずに問題をスルーするのも違う。自分の意見を主張し、他者を尊重した上で意思決定をできる主権者がより良い社会を作るには必要です。そうした主権者意識のある社会の担い手が増えていくことで日本は民主主義国家としてより良くなっていくと思います」

古野さんは今後も若者向けに主権者教育を続けていく。「ルールメイカー育成プロジェクト」の成功事例を積み重ね、生徒が介在することで開放的に学校のルールを見直せることを世の中に認知してもらうことが目標だ。そしてこのムーブメントが全国に広がり、当たり前になることで、日本全体の主権者意識の向上につなげたいと考えている。

「政治は頭がいい人がやるもの、自分はそれに乗っかればいい。そうではなく、世の中に自分も積極的に関わっていこうという主権者意識がある人が増えた方がもっといい社会になると思うんです。これからもそういう若者を増やすために、そして日本全体の主権者意識向上のために、主権者教育を広めたいと思います」

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この記事は、日テレのキャンペーン「Good For the Planet」の一環で取材しました。

■「Good For the Planet」とは

SDGsの17項目を中心に、「地球にいいこと」を発見・発信していく日本テレビのキャンペーンです。
今年のテーマは「#今からスイッチ」。
地上波放送では2021年5月31日から6月6日、日テレ系の40番組以上が参加しました。
これにあわせて、日本テレビ報道局は様々な「地球にいいこと」や実践者を取材し、6月末まで記事を発信していきます。