ぶどう枝葉を捨てずにコスメに 副業で挑戦
長野県上田市で取れるワイン用ぶどうの副産物を原料としたエシカルコスメを製造・販売する北林 健さん(46)。大手飲料メーカーで働きながら、副業として事業を運営。北林さんが広げたい“エシカルな暮らし”への思いを聞いた。
■捨てられていたぶどうの副産物を活用した化粧品
北林さんは、自然由来の成分にこだわった美容乳液の販売を行う。原料に、ワイン用ぶどうの枝葉が使われていることが特徴だ。ワイナリーでは、従来、品質の良いぶどうを栽培するために枝葉は剪定(せんてい)され、燃やされたり、捨てられたりしていた。それらを提供してもらい、化粧品の原材料の一部にしている。
「ワインには使われない枝葉にもポリフェノールが含まれています。そこに着目して、原材料としてなんとか利用できないかと開発を進めてきたところ、『レスベラトロール』というポリフェノールの一種を抽出できました」
レスベラトロールは、ポリフェノールの一種で、ブドウの果皮に多く含まれている成分。肌の老化などの抑制作用、血流改善効果などがあるとする研究結果も報告されている。赤ワイン1杯の中に多いものでも1mg程度しか含まれないといわれるこの成分を高濃度で取り出すために、北林さんは品種・栽培方法・部位などを研究し、商品化したという。
「この成分を取り入れることで、自然由来でも品質の高い化粧品づくりを目指しました。また、オーガニック精油だけで香りを調合することにもこだわっています。肌年齢が気になる方や、ナチュラルな美しさを引き出したいと考えている方をはじめ、女性だけでなく男性にも使ってもらいたいです」
■健康への意識から事業化に踏み切る
子どもの頃からアレルギーで、おなかを壊しやすい体質だったという北林さん。昔から自然由来でつくられたものや手作りの食生活を心がけており、“健康”は就職時の軸にもなった。
「就職活動のとき、化粧品か飲食の会社に行きたかったんです。外から人を美しく整える美容、中から整える飲食、どちらも人がいい状態にある健康に関わるものです。名前も“健”ですし、美容と健康にはずっと興味がありました」
悩んだ末、飲食の領域を選び、大手飲料メーカーに就職。商品企画や、バイオ、健康、SDGs推進など、様々な仕事を担当。健康をテーマにしたプロジェクトにも関わり、乳酸菌飲料やアルコール0パーセントのビールの開発にも携わったという。
その興味は、仕事にとどまらず、自身でも健康や持続可能な社会に関わる事業に取り組みたいと考えるようになる。社外のスタートアップ支援プロジェクトに応募するなど、その活動は本格化。市場調査をする中で“エシカルコスメ”に可能性を感じたという。
「マスマーケットになるかはわかりませんが、ナチュラルなワインが好きな人やエシカルな意識がある人は一定いて、だんだん広がっていくと感じています。個人の事業として取り組むにはチャンスがあると思いました」
そんな時に、農薬や化学肥料を一切使わない農法でぶどうを作るワイン生産者と出会った。
「仕事の関係でたびたび足を運んでいた長野県・上田市のワイナリーで、ワイン生産者の田口航さんと出会いました。田口さんは、化学合成農薬や除草剤を使用せずにぶどうを作り、できる限り酸化防止剤も使用しない、ナチュラルなワイン造りを手掛けていました。その中で、剪定された枝葉は燃やされたり、捨てられたりしていると聞き、この枝葉に含まれる成分をいかせないかと思いつきました」
事業化に踏み切るまでには、同じく自然由来のものが好きで、ナチュラルワイン愛好家の妻の存在も大きかったという。
「妻は最も身近なユーザーでした。ワインを飲んだあとに、面倒なのでスキンケアをしないで、そのまま寝てしまうことがよくあります。洗顔後に1本だけでスキンケアが簡単に済む美容乳液が、ワインユーザーの心をつかむはずと思いました」
ワインをキーワードに、まずはワイン販売店や飲食店、ワイン愛好家の人に届けていきたいという。
■環境にも人にも優しいものづくりを
事業はスタートしたばかり。今後も“真・善・美”を追求したものづくりを続けたいと考えている。
「“真・善・美”という観点から、倫理的な方法で、心から善いと思えるような、美しさにつながる商品を提供していきます。自然の力を頂きながら、自然環境に恩返しする、持続可能な優しい循環型社会のループを自然と人の間に作っていきたいと思います」
環境への負担が少ない原料を使いながら、人にも優しい商品を作る。自然由来のもので美しさを引き出し、ライフスタイルの選択で持続可能な自然を守る。ブランド名の「 Earth∞You (アースアンドユー) 」には、自然と人が循環していく意味を込めている。
また、今後は自然由来のものをもっと手に入りやすくしたいという思いもある。
「私自身、できるだけ自然由来のものを手にしたいと思っています。オーガニックな食べ物など、増えてはいるものの、まだ手に入りづらい。それなりに選んだり、探したりしないと見つかりません。ナチュラルなものが、身近で手に入るような世の中になったらいいなと思います。
ただ、完璧というのはなかなか難しいとも思います。全てにこだわりすぎていたら、開発費が高騰して値段も高くなってしまい、手に取りづらくなってしまいます。マニアックに行き過ぎるよりも、生活を一歩よくできるようなものを作っていきたいです」
北林さんの循環型社会への挑戦は、これからも続く。
◇
この記事は、日テレのキャンペーン「Good For the Planet」の一環で取材しました。
■「Good For the Planet」とは
SDGsの17項目を中心に、「地球にいいこと」を発見・発信していく日本テレビのキャンペーンです。
今年のテーマは「#今からスイッチ」。
地上波放送では2021年5月31日から6月6日、日テレ系の40番組以上が参加しました。
これにあわせて、日本テレビ報道局は様々な「地球にいいこと」や実践者を取材し、6月末まで記事を発信していきます。