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発酵技術で無駄を出さない循環型社会へ

2021年5月20日 19:16
発酵技術で無駄を出さない循環型社会へ

発酵技術を利用して、捨てられる資源を化粧品やハンドスプレーなど「価値ある商品」に生まれ変わらせる。未利用の資源をアップサイクルすることで循環型社会を目指すスタートアップ企業「ファーメンステーション」の取り組みと代表の想いに迫る。

■発酵技術で、付加価値の高いエタノールをつくる

耕作放棄地や休耕田を再利用して作られたオーガニック米や、食品工場から出される“食品残さ”などの未利用資源。それらをエタノールに変換し、新商品として再生させることで、循環型社会をつくろうとしているファーメンステーション。“発酵=ファーメンテーション”という社名の由来の通り、発酵技術が売りの会社だ。

同社で代表取締役を務める酒井里奈さんによると、ファーメンステーションの特徴は、独自の技術を用いることで、高品質のエタノールを作れることだという。

「一般的には、エタノールは大量生産商品に使われるため、安価で安定した品質で作ろうとする企業が多い。それに対して、ファーメンステーションでは、付加価値の高いエタノールをつくることに重きを置いています」

岩手県奥州市の休耕田を耕して育てた無農薬・無化学肥料のオーガニック米を発酵・蒸留させてエタノールを精製するという。ほんのり米の香りがするという原料は、自社ブランドのハンドスプレーに使われたり、化粧品メーカーに販売されたりしている。活用されていなかった休耕田から、新しい価値が生まれているというわけだ。

また、エタノールを精製する際にできる発酵粕や米もろみ粕も、捨てずに利用。ハンドクリームや洗顔石けんを作ったり、牛やトリなど家畜の飼料として使われたりと、循環している。

最近は、米以外の未利用資源にも着目しており、リンゴの搾りかすや捨てられるバナナから作ったエタノールで、ルームスプレーやアロマディフューザー、ウェットティッシュなどを開発している。

酒井さんは「再利用するだけでなく、発酵でより良いものに生まれ変わらせています」と話す。

「りんごの絞りかすは、そのままではおいしくないので商品になりませんが、発酵・蒸留させるとりんごの良い香りがするエタノールになり、付加価値がより高い化粧品などに変換できます。捨てられるものをそのまま処理するのではなく、微生物の力を借りることで、アップサイクルしているわけです」

アップサイクルとは、廃棄物など不要とされているものを、アイデアや技術の力で、付加価値の高いものに転換すること。さらに、そのプロセスで生まれる発酵粕なども再利用することで、無駄なものを出さずに、循環型社会を構築している。

■食品ロスの中でも非可食部の問題に取り組む

酒井さんは、金融業界で働いていたが、たまたまテレビで放送されていた番組で、生ゴミを発酵させてバイオ燃料にする技術を知った。「捨てられてしまうゴミを活用して、付加価値のあるものを作れたら、きっと社会の役に立つだろう」と考え、一念発起して東京農業大学の応用生物科学部醸造科学科に入学。そこで発酵技術を学んだことが、起業の契機になった。

「もともとは余ったゴミを発酵させ、エタノールをバイオ燃料としてエネルギーに変える技術を学んでいました。しかし、エネルギー事業は採算が取れないこともあり、現在は用途を変えて、化粧品や日用品などの原料としてエタノールを活用する事業を進めています。発酵とアイデアで未利用資源を新しい価値ある製品に変えていく、循環型社会実現に向けた事業です」

事業性と社会性を両立することが、会社の存在意義としても組み込まれている。酒井さんが取り組みたい問題は、食べられる食品の廃棄ではなく、食べられない部分の廃棄問題だという。

「食べられる食品の廃棄は、消費者の努力や他の会社の事業でも解決できる可能性が高いと考えています。しかし、例えば絞り粕のような、非可食部の廃棄はまだまだ可能性がある分野です。それも、単純に処理するのではなく、アップサイクルできれば、事業としての可能性も広がります」

技術を、他の人が目を向けていない領域で活用することで、独自のポジションを築いた。

■企業や地域と共に、未利用資源活用の輪を広げる

ファーメンステーションでは、発酵技術をベースとして、さまざまな企業とパートナーシップを組んでいる。たとえば、象印マホービンとは、炊飯ジャーを開発する際に炊飯試験で炊いたごはんを原料としてエタノールを精製し、除菌ウェットティッシュを商品化した。

今後は、未利用資源をつなげるプラットフォームを目指しているという。

「これまでは個別に企業と提携してきましたが、アップサイクルされた原料を、未利用資源を出した企業が必ずしも使う必要はないと考えています。例えば、未利用資源を出さなくても、私たちの活動に賛同してくれる企業がいます。そういう企業に原料として使ってもらうこともできます。私たちが未利用資源のプラットフォームになり、さまざまな企業から未利用資源を集め、そこで再生されたエタノールをさまざまな企業に提供する。多対多で組み合わせることで、より循環する社会に貢献したいです」

中心となる発酵技術を基に、世界への展開を考えているという。さらに、地域活性化にも繋がる可能性を見出している。

「私たちが事業を手掛けた岩手県奥州市では、見学ツアーやイベントなどを開催し、多くの人が訪れて地域に多様性が生まれ、元気が出ています。未利用資源を活用する世の中を皆さんと一緒に作って、これからも社会に貢献していきたいですね」

※写真は蒸留で取り出されたエタノール

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この記事は、日テレのキャンペーン「Good For the Planet」の一環で取材しました。

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