“非財務データ”の解析で意思決定に変革を
企業活動における環境や社会貢献への取り組みが注目される一方で、適切な評価が難しいともいわれる。そこで非財務データを解析するシステムを開発したのがサステナブル・ラボ株式会社だ。代表の平瀬錬司さんに取り組みの背景や今後の展望を聞いた。
■印象論中心からファクトに基づく意思決定へ
経済効果の追求のみならず、SDGsやESG投資の視点が組み込まれた資本主義へと、投資や消費の判断が変わりつつある時代。それに伴い、新たな問題が生まれているとサステナブル・ラボ代表の平瀬さんは話す。
「資本主義により社会が発展し、我々はあらゆる選択ができます。ただ、情報が溢れすぎて適切な判断をするのが難しくなっています。
経済効果は、売上や利益などで分かりやすく評価できます。しかし、社会効果や環境効果は複雑に因子が絡み合って非常に分かりづらく、印象論に走ってしまう懸念があります。印象論が必ずしも悪いわけではありませんが、声が大きい企業が目立ちやすかったり、企業側の発信は良い面が見えやすく悪い面が見えにくかったりするのが現状です。
このような状況において、直感的に良い判断を下すのはほぼ不可能です。情報を整理して、わかりやすい見え方を提示すべきだと考えました」
そこで開発したのが、非財務データバンク「ESGテラスト」。機械学習で分析したデータを基に、有識者や専門家と協議のうえ、スコア化。上場企業2000社と47都道府県の環境・社会貢献度に関するデータを「気候変動」「働きがい・働きやすさ」「ダイバーシティ」など様々な角度で見ることができる。
投資判断をする機関投資家や経営判断をする上場企業経営層のほか、消費者、求職者などあらゆるユーザーの利用を見据え、事業を展開している。
■良い企業がもっと照らされてほしい
子どもの頃から、世界を救うヒーローに憧れていたという平瀬さん。高校生の頃には映画『アルマゲドン』に出てくる宇宙物理学者が地球を救う姿に憧れた。自らもこうなりたいと、大阪大学理学部に進学し物理学者を目指した。
だが大学に入ってすぐ、学者の才能が圧倒的に足りないことに気づき挫折した。そもそも自分は世界を救いたかったわけで、物理学者になりたかったわけではないと開き直るしかなかった。であれば、自分が情熱をもって取り組めることはなんだろう。平瀬さんはやりたいことを模索した。
そんなとき、東京の大学に進学した友人から、学生ベンチャーを経営していると聞いた。関西にいる友人たちからは聞いたこともない話。胸が踊った平瀬さんは、家もお金もない中で、夜行バスで東京に乗り込み、学生起業家のコミュニティーに交じった。
それからは何人かの学生起業家の仕事を手伝いながら、時折大阪に戻って勉学に励む日々が続いた。広告領域やIT、食品、農業、福祉など、ありとあらゆる業種のスタートアップを経験。大学では統計物理学を学んでいたこともあり、データ分析を手伝ったこともあった。
大学卒業後も何度か起業を経験した平瀬さん。起業家の仲間に囲まれる中で、ある思いを抱くようになったと語る。
「社会をよくしたいと頑張っている起業家とたくさん出会い、心から彼らを応援していました。ただ、彼らの思いはなかなか報われないんです。いい企業や事業がもっと照らされる社会であってほしい、そのために自分ができることはないかと考えました。そこで、ESG投資に目を付けたのです。
現在、社外取締役を務めていただいている京都大学客員教授の加藤康之さんとの出会いも大きかったですね。加藤教授は元々野村証券の金融工学研究センターでクオンツ(金融工学者)のトップを務めていた、いわば金融資本主義の極点を知る方。そんな彼が、これからはSDGs領域のデータ基盤が必要とされると応援してくれたんです。社会の在り方が変わろうとしていると、確信を持てました」
このサービスは間違いなく社会に必要とされる。自信をもって始めたものの、製品化に至るまでには数多くの苦労があった。仲間集めや資金集め、ビジョンの言語化など、ベンチャーが直面する壁はすべてぶち当たった。サービスの根幹部分で悩むことも多かったという。
「SDGsのほかにもTCFDやISO規格など、グローバルでさまざまな枠組みやイニシアチブ、基準があります。それらをどう整理して、どうまとめるのか指標づくりは非常に大変でした。私たちが手掛ける領域は唯一の正解がありません。働きがいの軸もあれば、ジェンダーの軸もあり、環境の軸もある。一方で、たくさんの軸を用意すれば、選択肢が多すぎて利用者の判断が難しくなります。バランスが非常に難しかったですね。
私たちが提供したいのは『良い判断』ができるツールです。好きな面や嫌いな面も総合的に見て、より良い判断に役立ててもらいたい。そのための全体像を見るツールとして、最適なデータ解析を検討しました」
そうして生まれたのが「ESGテラスト」。製品名は「照らす人」をもじったものだ。良い会社が照らされるような社会になってほしいという、平瀬さんやメンバーの願いが込められている。時代や状況に合わせて、今後も改良を続けていくという。
■グローバルに展開し、意思決定のスタンダードへ
学生時代より様々なチャレンジを続ける平瀬さん。その原動力を聞くと、意外にも「自分は弱い人間なのだ」と返ってきた。
「僕は納得できるものや自分の人生をささげられるものでなければ頑張れないんです。もし自分が食べていくためだけに仕事をするなら、すぐサボってしまうと思いますね。自分の信じ切れる目標だから、必死に自分を鼓舞して、なんとか頑張っているんです。死ぬときには自分なりに世の中を1ミリでもよくして、自分の人生をやり切ったと言えるようにしたいですね」
自分の信じ切れる目標に向けて、人生を走り抜けたい。そう語る平瀬さんは、サステナブル・ラボの今後について、3年以内にアジア・アフリカに進出、10年以内にグローバルの意思決定支援のデータ基盤にしたいという大きな夢を描いている。
「欧米にはすでに類似のサービスを提供している会社があります。しかし、世界全体を単一のものさしで測るのは無理があります。欧米には欧米の文脈があり、アジアやアフリカにはその地域特有の文脈があるのですから。ともにパートナーとして手を組みながら、非財務データがあらゆる意思決定のスタンダードとして用いられる社会を築きたいです」
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この記事は、日テレのキャンペーン「Good For the Planet」の一環で取材しました。
■「Good For the Planet」とは
SDGsの17項目を中心に、「地球にいいこと」を発見・発信していく日本テレビのキャンペーンです。
今年のテーマは「#今からスイッチ」。
地上波放送では2021年5月31日から6月6日、日テレ系の40番組以上が参加しました。
これにあわせて、日本テレビ報道局は様々な「地球にいいこと」や実践者を取材し、6月末まで記事を発信していきます。