自然エネルギーで地球温暖化を食い止める
「実質自然エネルギー100%」をうたう電力を販売する「ハチドリ電力」。運営責任者の小野悠希さん(26)は地球温暖化の解決を掲げ、構想から1年たたずにサービスを開始した。家庭や法人が電力を切り替えることで、社会全体のCO2排出量削減を目指す。
■電力を変えることで、地球温暖化を解決
地球温暖化の要因と言われているCO2排出量の増加。日本全体の排出量の中で、約4割と一番大きな割合を占めているのが、石油、石炭等の一次エネルギーを消費されるエネルギー(電力など)に転換する「エネルギー転換部門」である。
この問題に対して、株式会社ボーダレス・ジャパンが運営するハチドリ電力は、CO2排出が「実質ゼロ」の電力提供により課題解決を目指す。
電力取引市場では、発電方式を選べず、再生可能エネルギー由来の電気のみを指定して購入することができない。そこで、CO2排出をしない電気に「再生可能エネルギー指定の非化石証書」が付与され、これを売買する制度がある。この非化石証書と電気を組み合わせて供給することで、実質的にCO2排出ゼロの電気を供給しているとみなすことができる。ハチドリ電力はこの仕組みを利用して電力を販売している。
運営責任者の小野さんは、社会的インパクトの大きさを次のように語る。
「現在の日本は、電気を使えば使うほどCO2を排出している状況と言えます。この電気を自然エネルギーに変えれば、社会に大きな変化を起こせるんです」
また、ハチドリ電力は電気代の1%を、自然エネルギーの発電所を増やすための基金「ハチドリ基金」に充てている。自然エネルギーの普及にも貢献できるシステムだ。さらに電気代の1%は、提携しているNPOなどの社会貢献活動に寄付できる。現在11カテゴリ約60団体と提携しており、利用者が寄付先を自由に選べる仕組みとなっている。
料金設定においても安心。大手電力会社よりも低価格の料金プランを採用している(※ハチドリ電力調べ)。
「私たちの目的は地球温暖化を止めることであって、お金儲けをすることではありません。電気代が安くなって、しかもその一部を社会貢献に活用できれば、切り替える理由になると思います」
2020年4月にサービスを開始して以来、沖縄・離島エリアを除く全国に展開。個人・法人合わせて約4200件の契約を獲得しているという。
■当事者だけでは解決できない問題に、自分の人生を費やす
小野さんは元々、ソーシャルビジネスに関心を持っていたわけでも、環境に関心があったわけでもなかった。価値基準は「面白そうか」。大学生の頃は、直感で面白そうだと思ったコミュニティーに飛び込み、多くのインターンやボランティアを経験した。
大学2年生の夏に、知人の誘いでミャンマーの農場とバングラデシュにある工場を見学した。普段の生活で出会うことがない人たちのために人生をかける人たちと出会った。その姿がかっこいいと思った。
とはいえこの時は単なる憧れにすぎなかった。変化が表れたのは、帰国後にアプリを作らないかと誘われたときだったという。
「以前だったら、すぐに飛び込んでいました。でも、そのとき『誰の、なんのためになるんだろう』と考えたんです。ソーシャルビジネスに出会ったことで、自分の判断軸が『面白そうか』から、『誰のためにやるのか』へと変化していました。
どんなビジネスでも『誰かのため』の要素はあります。でも、ソーシャルビジネスが扱う社会問題は、当事者だけでは解決できないものばかり。いつしか自らの時間をソーシャルビジネスに費やしたいと思うようになり、ボーダレスジャパンに入社しました」
しかし、具体的な「どんな社会問題を解決するか」が定まっていなかった小野さん。自分が何をしたいのか模索するため、まずはミャンマーの小規模農家の貧困問題に取り組んだ。だが、すぐには見つからなかった。2年目に別の事業部に参画するものの、ピンと来ない。模索する毎日が続いた。
そんな時、あるニュースが全世界で話題となった。2019年、スウェーデンの16歳の少女グレタ・トゥーンベリさんが環境問題へのスピーチを行ったのだ。
「調べてみると、動植物が地球温暖化で絶滅の危機にさらされていることを知って。人間のせいならば、人間が何とかしなきゃいけない。人生をかけてやりたいことを見つけた瞬間でした」
すぐに事業を構想し始めた小野さん。だが、あまりの問題の大きさに解決策は全く思い浮かばなかった。そこで代表の田口一成さんに相談したところ、ボーダレス・ジャパンでも電力事業の立ち上げを構想していることを知り、真っ先に手を挙げた。
2019年の年末に事業の話が持ち上がり、2020年4月にはリリース。8月には電力を提供した。
「本当に大変でしたよ。全くの素人で電力業界に参入したわけですから。でも地球温暖化という問題を解決するためだから、諦める選択肢はありませんでしたね」
■微力の積み重ねで、社会は変えられる
ハチドリ電力というサービス名は、「ハチドリのひとしずく」という南米の物語が由来となっている。
「森が燃えて、森の生き物が逃げ惑う中、ハチドリだけはくちばしで水をひとしずく運んで、火に落とすんです。動物たちは『そんなことをして何になるんだ」と笑いますが、ハチドリはこう答えます。『私は私にできることをしているだけ』と。
一般家庭が電気を変えたところで、環境は変わらないと思われるかもしれません。たしかに微力です。でも微力は無力ではないんです。それが積み重なれば、社会は変わると信じています」
社会を変える。そのためにハチドリ電力は、2030年までに全世帯のうち3.5%を自然エネルギー100%に変えることを目標に掲げている。3.5%という数字を掲げる理由は、社会運動でよく用いられる指標であり、達成できれば社会が変えられると言われているからだという。今後は環境負荷の少ない自社の発電所の設置など、さまざまな取り組みを進める予定である。
小野さん自身の目標としては、今はハチドリ電力に全力を尽くすと語りつつ、こう付け加えてくれた。
「地球温暖化を解決するために、エネルギー部門は大きなインパクトがありますが、それだけで解決できるわけではありません。自然エネルギーの普及をやり切れたら、次は環境教育なども考えています。あらゆる切り口で課題解決を図りたいですね」
地球温暖化の解決を人生のミッションに掲げる小野さん。社会起業家の挑戦は続く。
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この記事は、日テレのキャンペーン「Good For the Planet」の一環で取材しました。
■「Good For the Planet」とは
SDGsの17項目を中心に、「地球にいいこと」を発見・発信していく日本テレビのキャンペーンです。
今年のテーマは「#今からスイッチ」。
地上波放送では2021年5月31日から6月6日、日テレ系の40番組以上が参加しました。
これにあわせて、日本テレビ報道局は様々な「地球にいいこと」や実践者を取材し、6月末まで記事を発信していきます。