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ルワンダでシングルマザーの雇用を創る

2021年6月22日 20:31
ルワンダでシングルマザーの雇用を創る

■オンラインのつながりから見えた新たな可能性

ルワンダの首都キガリの空港から車で10分ほどの場所にあるキミフルラという地域。ここで山田さんは「KISEKI corporation」という会社を運営している。「地域のお母さんが笑顔で暮らせる社会を創る」をコンセプトに、レストラン事業や、併設する日本人宿の運営、現地の幼稚園への支援事業、日本人ボランティアへのプログラム提供など、様々な取り組みを行っている。

活動のベースであるレストランKISEKIでは、現地のスラム街に暮らすシングルマザー20人を従業員として雇っている。ここで働くことで、子どもに学校に行く機会と食事を与えられるという。

レストランと日本人宿はコロナ禍で去年9月に一時閉店。代わりに始めたのが、ルワンダと日本をつなぐオンラインプログラムだ。利用者が月額を支払い、オンライン上で国際交流するサービスで、収益は従業員の給料や幼稚園の支援費となる。

「例えばオンラインのベビーシッタープログラムというのがあるのですが、これは緊急事態宣言で外出できない日本の子どもたちのために始めました。KISEKIで働くお母さんたちと絵を描いたり、歌を歌ったり、語学を教わったり。子どもが画面の前でじっとできなくても、大らかなルワンダ人は全然気にしないんですね。オンラインで、家族の様にゆるくつながっています」

また、力を入れている現地の幼稚園支援も、オンラインへの切り替えで発見があったと語る。

「これまでは私たちが幼稚園に出向き、自前で運動会を開いたり工作を教えたりしていました。ですが今は日本やシンガポールのトップクラスの教育者とコラボをして、オンライン上で質の高いカリキュラムを提供できるようになったんです。貧困地帯でも平等に教育を受けられるようになりました」

1994年の民族紛争により、80万人以上が死亡したと言われるルワンダ。近年は、急速な経済成長率や女性の社会進出、ITの活用が注目されている。その一方、実社会では未だ貧富の格差が大きいと山田さんは話す。

「男女共に無職の人が圧倒的に多いですね。メディアではキラキラした部分が取り上げられますが、学歴も経験もなく取り残される人が大勢いるのが現状です。KISEKIの周りも、庭付き5LDKの豪邸がたくさんある一方、すぐ横にスラム街が隣接しています。そんな歪みの中で、できることを実行していきたいです」

■働く女性たちを地域のリーダーにしたい

元々国際協力に興味があり、大阪外国語大学(現大阪大学)でアフリカ地域文化学科を専攻した山田さん。将来は、世界の貧困を解決したいと漠然と考えていた。

在学中には自転車にハマり、自転車で単独アフリカ縦断を敢行。帰国後は出版社に就職し、営業や同社が経営するレストランの立ち上げなどを経験する。その後、一般社団法人を設立して、自転車でのツーリズムを企画運営した。

結婚して長男を出産し、夫の転勤でシンガポールへ移住したが、しばらくして夫が独立し事業を立ち上げることに。夫婦共に大好きだったアフリカに拠点を移すことに決めた。

2017年、現在の場所で最初に始めたのが、富裕層向けの高級日本料理店だった。日本人の寿司職人がいる店として評判を呼んだが、現地スタッフたちが備品を盗んだり仕事を怠けたりと頭を抱えていた。

そんなある日、真面目に働くシングルマザーのスタッフに「あなたのような人がもっといるといいのに」と話した。すると、翌日には50人ほどのシングルマザーが職を求めて集まったのだ。すぐにスタッフを入れ替え、店もカジュアル路線に変更することにした。

「当初から、毎日レストランのゴミを漁りに来る子どもたちの姿も気になっていました。彼らは私の息子と同じくらいの年齢。同じ親として、子どもに食べ物を与えられない心境を想像すると胸が苦しくなりました。それを解決するためには、母親の職が必要だと思ったんです」

2018年からシングルマザーを中心に再スタートをきったKISEKI。文化や慣習の違いで試行錯誤の日々は続いたが、働く女性たちの大きな変化を山田さんは感じている。

「貧しい環境で育ってきた彼女たちは、我慢と忍耐の人。だから仕事でトラブルが起きても、飲み込むことが多かったんです。でもそれでは問題が解決するどころか悪化してしまう。だから、物事は行動すれば変わるんだということを根気強く伝えました。小さな失敗と成功を繰り返し体験した結果、今では主体的に業務の提案をしてくれるようになりました。KISEKIで働く女性たちには、いつか地域にインパクトを与えられるリーダーになってほしいです」

■自分の目の前の世界を徹底的に変える

今、山田さんが喜びを感じる瞬間は、彼女たちの口から子どもの話を聞く時だという。

「ここで働く女性たちの一番の夢は、子どもが元気に大人になって、家族が平和に暮らすこと。学校の成績表を見せてくれたり、勉強したことを教えてくれたり。そんな子どもの成長が一番の幸せだと嬉しそうに話す母親たちの姿を間近で見ることが、私にとって至福の時です」

2021年10月には、子ども食堂も開設予定だという。幼稚園に通えず給食が食べられない子どもにも食事を提供し、妊産婦に優しい食事の提供や栄養指導も行うつもりだ。

「レストランの価格に少し上乗せをして、子ども食堂に回す仕組みを考えています。お客さんが食べた分で『子どもたちが◯食分食べられる』ということを提示するダイレクトな取り組みです。単に料理を出すだけでなく、より子どもたちに利益を還元できる形を模索しています」

まずは、今自分が居る地域から変化を起こしたいと山田さんは力強く語る。

「『世界を変えたい!』という言葉をよく耳にしますが、世界とは一体どこなのかが大切だと思うんです。キミフルラという限られた地域、今はそこが私の世界です。まずはここを徹底的に変えることで成功モデルを作りたい。そして、いつかルワンダに限らず世界各地でこのモデルをベースに地域貢献の取り組みが広がると嬉しいですね」

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この記事は、日テレのキャンペーン「Good For the Planet」の一環で取材しました。

■「Good For the Planet」とは

SDGsの17項目を中心に、「地球にいいこと」を発見・発信していく日本テレビのキャンペーンです。
今年のテーマは「#今からスイッチ」。
地上波放送では2021年5月31日から6月6日、日テレ系の40番組以上が参加しました。
これにあわせて、日本テレビ報道局は様々な「地球にいいこと」や実践者を取材し、6月末まで記事を発信していきます。