妊娠中に接種の医師「接種で不妊はデマ」
新型コロナウイルスの疑問に答えたい!「ワクチン接種で不妊になる?」妊娠中にワクチンを接種し男児を出産した、ハーバード大学医学部助教授・内田舞医師に聞きました。
――新型コロナワクチンを接種すると「不妊になる」という情報が流れています。本当ですか?
正しくありません。ワクチンを接種して不妊になったという報告はありません。「デマ」です。
――「正しくない」という根拠を教えてください。
このデマは、ワクチンを打つと私たちの免疫が、やっつけるべきコロナウイルスのスパイクたんぱく質と胎盤のたんぱく質を間違えて胎盤のたんぱく質を攻撃してしまうのではないか?という根拠のない話が発端だとされています。
しかし、検証の結果、この2つのたんぱく質はぜんぜん似ておらず、ワクチンの胎盤への悪影響は確認されませんでした。
――誰がどんな科学的根拠に基づいて流した情報なのか、探ってみることも大事ですね。
ワクチンは、人が接種する前に動物実験も行っています。ワクチンを打ったネズミも正常な妊娠をし、生まれた赤ちゃんも異常はありませんでした。臨床研究に参加しワクチンを接種した人の中にも、妊娠された方が多数いらっしゃいます。
アメリカでは、すでに私を含む12万人以上の妊婦さんがワクチンを接種していますが、接種後、流産率が自然発生率を上回ることはなく、ワクチンが妊娠に与える悪影響は確認されていません。ですから、妊娠中、妊娠を計画の方も接種可能です。また、男性不妊に関しても、このワクチンは精巣、精子などに悪影響を及ぼす報告はありません。
※厚生労働省も、「承認された新型コロナワクチンで、妊娠、胎児、母乳、生殖器に悪影響を及ぼすという報告は、現時点ではありません」としています。
※妊娠中のワクチン接種について6月17日付で日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本産婦人科感染症学会は、「希望する妊婦さんはワクチンを接種することができます」という声明を出し、接種するかどうかは、妊婦検診先の医師やかかりつけ医に相談してほしいなどとしています。
――近況についても聞かせてください。3人目のお子さんの妊娠中に新型コロナウイルスワクチンを接種しその際の写真を公開、周囲の反応は?
1月、勤務する病院のソーシャルメディアで拡散されました。医療のリスクを考えることは私にとっては日常で、私の中では科学的に打っても大丈夫という自信を持っていました。当時まだ日本では、どんなワクチン?という時期で、妊娠中の接種の安全性に関しても「論理的に説明を聴いても気持ちが付いていかない」という方が多く、「引かれた」感じもしました。しかし、それでも、「妊婦さんでも打てるのか!」とポジティブに受け止めてくださった方の方が多かったと思います。
――アメリカ・ボストンの現在は?
アメリカの中でも医療機関も多く、ワクチンの接種率が9割以上と高い地域で、普段の生活は怖くなくなってきたなという感じがします。接種者同士で友人とマスクなしで会えるようになり、やっぱり人との交流って大事だなと思わされています。
まだ、接種できない子どもが心配です。しかし、私たち大人がワクチンを打てば、私たち大人から子どもに感染させるリスクはかなり低くなりますよね。ワクチンを打った大人が繭のように子どもを囲んで守る、コクーン(繭)戦略といいます。
イスラエルでは成人の接種率が上がるにつれ、未だ接種していない子どもたちの感染率もどんどん下がりました。それでも、イスラエルでは、あれだけのワクチン接種が広く進んだにもかかわらず、デルタ株が入ってきたことで、子どもたちにクラスターが発生し始めています。ですから、やはり子どもの接種も重要だなと思います。完全には終わったとは思えないなって、まだ少しドキドキはしていますね。
――妊娠、出産を予定している方、妊婦さんに向けてメッセージを。
妊婦さんはもし感染してしまった場合の重症化リスクは、一般女性よりも3倍も高く、感染による長期の呼吸困難や発熱がおなかの中の赤ちゃんにも悪影響を与えると報告されています。ですから、妊婦さんは感染予防をしっかりすることが大事ですし、その一環としてワクチン接種を積極的に選択肢の一つに入れてみてください。
しかし、不安定なコロナ禍での妊娠は私自身も経験したので、ワクチンに対して不安な思いが消えないというお気持ちもよくわかります。もし、妊婦さんが接種しない選択をされた場合には、そんな妊婦さんの周りに繭を作って守ってあげるために、パートナーや産科医療者の方が接種することも重要です。妊婦さんを守るのは妊婦さんだけの責任ではなく、妊婦さんを囲む方々みんなの責任ですね。
不妊のデマに関しては、人の希望と弱みを突いた本当に意地悪なものだと感じます。いつか子どもを作りたいと思っている人は、少しでも不妊になるような影響があることは絶対に避けたいと思う。それに付け込んでいますね。
妊娠や育児に関して、特に女性は家族に関する責任ある判断を迫られることが多いにもかかわらず、その判断をするための科学的な情報やサポートが与えられないことが多すぎると私は感じます。なので、私の妊娠中の接種体験や科学的な情報の発信が少しでも誰かのサポートになってくれれば嬉しいです。
■内田舞医師:ハーバード大学医学部助教授マサチューセッツ総合病院小児うつセンター長