「女子力、高いね」悪意がなくとも潜む偏見
性別にまつわる思い込みや偏見「ジェンダーバイアス」。発言する人が意識していなくても、日頃の会話の中に表れることがある。例えば、「女子力、高いね」という言葉が典型例かもしれない。
■悪気なく使ってしまう「女子力、高いね」
「女子力、高いね」と誰かに言ったことはないだろうか?
女性に対する褒め言葉だったり、話のキッカケとして使うケースが多いかもしれない。しかし、悪気がなくとも、言われた相手は心の中で違和感を持つこともある。
「“女子力”に当てはめられやすい話題は、料理や家事、育児などのケアや、化粧やネイルなどの外見にまつわることが多いように思います」と語るのは、作家・コラムニストの犬山紙子さんだ。
お笑い芸人・チュートリアルの福田充徳さんは、自身の体験を語った。
「バラエティー番組などで、家事全般ができたり、美容に詳しい女性との会話で、合いの手を入れる感じで“女子力”という言葉をついつい使ってしまいがちですね。自分はあまり深く考えずに良い意味で発言していますが、もしも相手の受け取り方が違うのであれば、世の中全体ですり合わせていかなければいけないことかなと思います」
「確かに、『女子力が高い』と言われたときは、どちらかというと褒めるニュアンスなので『それはちょっと違いますよ!』と否定しにくいし、リアクションにも困りますね。だからこそ“女子力”という言葉が、いまも残っているのかもしれません。女性だけでなく、料理やオシャレが好きな男性もいるので、自分の好きなことが“女子”で括られてしまうのは悲しいですよね。私自身は料理が苦手なので“女子力”は低いのですが、それは女子というよりも個人の話だと感じます」(犬山さん)
■「女子力が高い」という言葉の裏側にあるものとは?
「女子力が高い」という言葉は、職場でも交わされることがあるだろう。例えば、休み時間に女性社員がお茶を入れたり、飲み会の席で料理を取り分けたりするとき、褒め言葉として使われる。そして女性の中にも、そう言われたいと感じる人もいるとの見方もある。
だが、この言葉の背景には「褒め言葉」以外の意味づけもあるという。日本テレビ解説委員で、大学院でジェンダーを研究する小西美穂が指摘する。
「『女子力が高い』の背景に、思い込みや決めつけが介在していないのか考えてみる必要があります。男性の視点で『女性はこういう役割を担ってほしい』という願望や、性別による役割を期待しているところが課題だと思います」
立ち止まって考えてみれば、「女子力」という言葉が使われがちな場面であっても、実際にはその人が持つ「個人力」だ。いま子育て真っ最中の犬山さんは、こう懸念する。
「自分の子どもには、できるだけ“女子力”という言葉を使いたくないと思っています。というのも、大人であれば会話の文脈から、“女子力”が“個人の力”だと分かるでしょうが、子どもの場合は初めて聞く言葉なので、そのイメージがそのまま刷り込まれて定着してしまうからです」
■「女子力」と同じ構図の「女子○○」と「○○女子」
「女子力」と同じように、性別に関わる思い込みに起因する言葉がある。例えば、「女子○○」「○○女子」などの言葉だ。鉄道が好きだと「女子鉄」、歴史が好きだと「歴女」、理系の女子なら「リケジョ」。よく耳にする言葉だろう。本来は、男女の枠が関係しない趣味や専門性の話なのに、わざわざ「女子」と付けられると、モヤモヤした気分になる人もいるそうだ。犬山さんは、疑問を投げかけた。
「自分の友人は『女流作家』と言われるのですが、なぜ『女流』という修飾語がつくのかな? と不思議に思うこともあります。『女子アナ』も同じです。逆に『男子アナ』とは言いませんよね」
「『女芸人』もそうですね。まあ芸人の世界が男社会なので、そういう呼び方になってしまうのだと思います」と福田さんも続けた。
スポーツの世界でも同じような事例があると教えてくれたのは、サッカー元日本代表の中澤佑二さんだ。「サッカーでも、ジャッジで『女性審判』と言われているのを聞いたことがあります」と記憶をたどった。
“女子○○”という修飾語は、そのジャンル全体の中で女性が少数派であること、マイノリティーであることの表れと見ることもできるだろう。言葉として分かりやすいため、そのように分類してしまうのだろうが、マイノリティーをカテゴライズすること自体、価値観をアップデートできていない証しかもしれない。
もし「○○女子」と言われたときは、逆に「○○男子」と置き換えてみて、「女子鉄」「男子鉄」のように、そこに違和感や引っかかるものがあれば、何らかのジェンダーバイアスが潜んでいる可能性がありそうだ。意識しておきたい。
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この記事は、2021年3月27日に配信された「Update the world #3 ジェンダーバイアス」をもとに制作しました。
■「Update the world」とは日本テレビ「news zero」が取り組むオンライン配信番組。SDGsを羅針盤に、社会の価値観をアップデートするキッカケを、みなさんとともに考えていきます。