×

「男臭くいい雰囲気持つ役者に」中村橋之助

2021年10月2日 14:30
「男臭くいい雰囲気持つ役者に」中村橋之助

八代目中村芝翫さん・三田寛子さん夫妻の長男として生まれた中村橋之助さん(25)。『九月大歌舞伎』第三部「東海道四谷怪談」で大きな役に挑みました。先輩方や演目への思い、また家族の温かいエピソードなど、今回はリモートでお聞きしました。

====

■「空間を壊してはいけない、しっかり存在しなければいけない」

――九月大歌舞伎、舞台に立つ心境はいかがですか。

「今回は片岡仁左衛門のおじさまと坂東玉三郎のおじさまの38年ぶりの『東海道四谷怪談』に小仏小平・佐藤与茂七という大役に、歌舞伎座で出させていただいているということで、毎日いつも以上に必死ですね。とても勉強になっています」

 観劇するお客さんだけではなく、橋之助さん自身もとても感慨深いという今回の演目。いつもとは緊張感がまた違うとのこと…。

「だって最後の決まるところ(場面)なんて、前に仁左衛門のおじさま、後ろに玉三郎のおじさま、間に僕ですから、めちゃくちゃ緊張してますよ。お客様方が38年ぶりの『東海道四谷怪談』を凄く楽しみにされている、ものすごく期待をもって劇場にいらっしゃっているという空気感が、幕が閉まっていても裏の舞台でも感じるので、その空間を壊してはいけない、しっかり(役として)存在しなければいけないっていう緊張感がありますね」

――演じている2役のうち、与茂七は橋之助さんにとって初めての役ですよね。

「子供の時から(十八世)中村勘三郎のおじと父(芝翫さん)の東海道四谷怪談をずっと見ていて…。“本所砂村隠亡堀の場”の与茂七は、意味があるようでなくて、ただただ色男が出てくる。“はい、僕イケメンです”って言って出てくるような役なので(笑) おじの足の出し方とか鮮明に覚えているし…。もうお話をいただいた時はめちゃくちゃ嬉しかったです。“え、与茂七、僕!?”って。」

 歌舞伎以外にミュージカルなど、幅広く舞台で活躍している橋之助さん。そこには共通するものがあるといいます。

「お客様の心をつかんだり、呼吸や声の出し方だったりというのは変わらないというか、根本は演劇ですし、心という部分では同じだなと思いますね。実は、玉三郎のおじさまに“ミュージカルに出させていただくんです”と相談したら、“歌ってごらんなさい”って言われて、1回歌をご指導いただいたんです、役者は耳が良くないといけないと普段から言われるので、歌舞伎もミュージカルも(声の)出力方法が違うだけで持っているものは同じなのかなと思いますね」


■「僕と福之助がワチャワチャしていて、横で歌之助が冷たい目で見ている」

――コロナ禍で新しく始めたことは。

「(取材の)お話いただいた時に中村福之助(二男:宗生さん)の記事を見たんですよ。本当に申し訳ないんですけど、新しく始めたことと言えば、宗(福之助さん)と一緒でフォートナイトしかないんですよね(笑)これね、福之助はそこまで言ってなかったですけど、毎日夜8時くらいから朝10時くらいまで、宗とずっと電話しながらやってましたからね」

 第8回に出演してくださった二男・中村福之助さん。その際、福之助さんの“僕は平和主義”という言葉が印象的でしたが、長男・橋之助さんからは言いたいことがあるそうです。

「平和主義なの!?確かに取り持ってくれることもありますけど、それこそ福之助の(記事を)見た時に、『弟と兄は思ったことをズバズバ言う』とか言ってましたけど、一番言うのは福之助さんですから!取り繕ってるんですよ!」

「大体、僕と福之助がワチャワチャしていて、横で(三男の)歌之助が冷たい目で見ているという。歌之助さん、一番冷静です。でも僕と福之助の楽しいポイントは、その冷静な歌之助を爆笑させたり、喜ばせたり、シャイながらに腹抱えて笑うみたいなことをどっちができるのかを楽しんでいますね(笑)」

■「ちゃんと“でっかいエビ”が入っている天ぷら!」

――お父さん(芝翫さん)の存在は。

「僕にとっては目標ですし、父のようにならなくてはいけない。父に対しては、父と中村福助のおじの成駒屋の中にいる橋之助として、しっかり父の戦力にならなくてはいけない。でも、まだまだ父におんぶに抱っこになってしまっているので、この年になって申し訳ないという部分も多いです。父にも、“国生はよく焦ってしまうから、焦らずに”ということはよく言われるんですが、もう焦らずに一個ずつ、父のようになりたいなって思わせてくれる存在ですね」

 お父さんに似ていると言われることが多くなってきたという橋之助さん。最後に
どのような歌舞伎俳優になりたいか、目標を聞きました。

「僕は“でっかい天ぷらなのに、中を開けたらエビこんなの(小指サイズ)!”みたいな役者にはならないように(笑)ちゃんと“でっかいエビ”が入っている天ぷら!身が詰まっている役者にならないと!と思っています」

「最終的な目標は、兄弟3人で歌舞伎座をひと月開ける、というのが目標ですが、まだまだ、遠い遠い先なので、天ぷらの話もありましたけど、しっかりと基礎ができて古典ができる役者になりたいなと思います。男臭くて、いい香りがする、いい雰囲気を持てる、そんな大きい、太い立役になりたいと思っています」


◇◇◇
“舞台に立たせていただいて幕が開くことは変わりない、その変わりないことが、ありがたいことである”と、コロナ禍での舞台への思いを語った橋之助さん。自粛期間を機に、兄弟3人でお互いの芝居、今後の方向性などを話し合えるようになったそうです。「兄弟3人で劇場を開けたい」まさに第8回の取材で、福之助さんも話していました。3兄弟の絆、そして成駒屋を担う長男・橋之助さんの今後に注目です!

【中村橋之助(なかむら・はしのすけ)】
2000年9月、初代中村国生を名乗り初舞台。2016年10月、四代目中村橋之助を襲名する。

【市來玲奈の歌舞伎・花笑み】
「花笑み」は、花が咲く、蕾(つぼみ)がほころぶこと。また、花が咲いたような笑顔や微笑みを表す言葉です。歌舞伎の華やかな魅力にとりつかれた市來玲奈アナウンサーが、役者のインタビューや舞台裏の取材で迫るWEBオリジナル企画です。