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天皇陛下のアメリカ訪問“青春の卒業旅行”

2021年11月14日 9:58

ひとつの瞬間から知られざる皇室の実像に迫る「皇室 a Moment」。今回は、天皇陛下がイギリス留学を終えて訪ねたアメリカ旅行について、日本テレビ客員解説員の井上茂男さんと共にスポットを当てます。“21日間にわたる青春の卒業旅行”とも言える旅でした。

■レーガン大統領も歓待

――こちらはどういう場面でしょうか?

1985年10月11日。浩宮時代の天皇陛下が、ホワイトハウスにレーガン大統領を訪ね、面会された時の写真です。当時の新聞報道によれば、10分にも満たない短い時間でしたが、大統領は執務室に陛下を迎え、「ようこそアメリカにお越しくださいました。アメリカはかなり広い国なので、いろいろな土地でいろいろな人に会って、有益な旅行をされるよう期待します」と歓待しています。1983年から2年に及んだ天皇陛下の英国留学からの帰りに訪ねたアメリカ旅行を見ていくと、この訪問もその後の国際親善を考える上で重要なことがわかります。このアメリカ訪問は、21日間というとても長い旅でした。訪ねた都市は、ワシントン、ニューヨーク、ボストン、ニューオーリンズ、デンバー、ロサンゼルスなど、東部から南部、そして西部へと全米に及んでいます。

まず、イギリスからアメリカに入る際に搭乗された飛行機に注目です。18年前に引退した「コンコルド」という超音速旅客機です。
ニューヨークでは国連本部を訪れ、当時のデクエヤル事務総長と面会されています。このときは安全保障理事会の会議場なども視察されました。陛下は2013年に開かれた「水と災害に関する特別会合」で日本の皇族として初めて国連本部で基調講演をされていますが、国連との結びつきはその28年前から始まっていたわけです。 


■ブルック・シールズさんとも面会 部屋にポスター貼るほどの大ファン

また意外な人との出会いもありました。映画「エンドレス・ラブ」などで一世を風靡した女優、ブルック・シールズさんです。陛下は、英国留学中、部屋にポスターを貼るほどの大ファンでした。シールズさんは当時、プリンストン大学で学んでいましたが、陛下がこの大学を訪れた際、オックスフォード大学で親交を深めていたアメリカ人留学生のお兄さんがこの大学の教授だったこともあり、その紹介でサプライズの面会が実現したそうです。陛下は、シールズさんが「外へ出ると皆が私を注目するけれど、大学の中では誰も気にとめないのでうれしい」と話した事に対し「まるでオックスフォードでの自分の経験と同じだなあと感じた」とその感想を話されています。

■大型トラクターの運転、かつらも体験 歴史・文化・自然にも触れる

また太平洋戦争中の困難を乗り越え、アメリカ社会に根付いていった日系人にも会われました。コロラド州では12万平方キロという広大な農場を持つ日系人の農場を訪ね、陛下は勧められてトウモロコシ畑で大型トラクターの運転も経験されています。同行した日本テレビの記者の著書によると、農場主と陛下は楽しそうに畑を移動していきましたが、あわてたのはアメリカの警護陣です。どんどん遠ざかるトラクターを大慌てで追うハプニングもあったそうです。 

陛下は歴史・文化そしてアメリカならではの都市生活にも触れられました。こちらはワシントン郊外、18世紀のイギリス植民地時代の町並みが残るウィリアムズバーグです。植民地時代の生活を再現した街では昔ながらのかつらを被られる珍しい場面もありました。 

雄大な大自然も体験されています。アメリカとカナダの国境にあるナイアガラの滝です。陛下も一般の観光客同様、黄色いレインコートを着て滝つぼに下り、間近からこの大瀑布を見上げその圧倒的な水量と音に驚かれています。

西部コロラド州では、ロッキー山脈国立公園をジープで訪問されました。有名なグレイトレイクという湖では、岩の上に登ってカメラマンに向かって射撃の時のようなポーズをとられる珍しいシーンもありました。

■ニューヨーク・五番街では自身のクレジットカードで買い物

そしてアメリカを代表する大都市、世界経済の中心のニューヨークには4日間滞在されました。

世界的な高級ショッピングストリート五番街では、買い物も楽しまれました。書店でシールズさんの写真集を求め、レコード店では、店員に尋ねながらレコードを買い求められる場面もありました。買われたのはオペラ「椿姫」。クレジットカードを自分の財布から取り出し、買い物されるとても貴重なシーンも映像に残っています。カードはイギリス留学中、オックスフォードではご自分で買い物もされましたので、その時にお使いになっていたようです。「NARUHITO」とアルファベットでサインされたそうです。

また、様々な市民の楽しみも体験されています。ニューヨークのブロードウェーではミュージカル「42ndストリート」をご覧になり、終演後は、出演した俳優さんたちと記念撮影に応じられています。このとき、俳優から「結婚していますか?」と聞かれ、「No!」と即答されて笑いを誘う場面もありました。

南部ルイジアナ州のニューオーリンズでは、本場のデキシーランドジャズを小さな満員のホールで楽しまれました。一緒に手拍子をされる様子も残っています。

旅の後半、西海岸ロサンゼルスでもアメリカならではの場所を訪問されています。本場のディズニーランドでは、ミッキーとミニーに出迎えられ、ゲストブックにサインされました。昭和天皇も訪ねた場所です。

映画の都・ハリウッドでは、有名なチャイニーズシアターの前にあるハリウッドスター達の手形のプレートを訪れ、陛下はマリリン・モンローのサインと手形に手を重ねられました。さらに、映画のテーマパーク・ユニバーサルスタジオも訪れ、スター・ウォーズやETなど特撮映画の撮影方法の説明を受けたり、乗り物に乗って映画さながらのシーンを体験したりと映画の都を楽しまれました。言葉や文化の壁を越えたエンターテインメントに触れ凄く堪能されているのがわかります。イギリス留学中は、勉強中心の生活でしたから、留学を終えて、最後の自由を満喫されたのだと思います。

■25歳 “青春の卒業旅行” 満喫された「最後の自由」

旅を締めくくる記者会見ではアメリカの印象を語り、自らに言い聞かせるようにこう話されています。 

「アメリカの広さ、自然や都市のスケールが大きいことが印象的でした。また、アメリカ人は大変オープンで親切であると思います」「日本に帰ればいろいろな公務があると思いますので、留学生活のような自由さがないことは自分として心構えができています」 

陛下は、皇太子時代、ニューヨークには南米からの行き帰りに1泊したり、国連本部での講演で滞在したり、ロサンゼルスに全米日系人博物館を訪ねたりしていますが、他の都市を訪ねるということはありませんでした。それが不思議でしたが、21日間のアメリカ旅行を振り返ってみると、これ以上の親善訪問はないわけです。マクドナルドのハンバーガーを食べ、「とてもおいしかった」と感想を話されたのもこの旅でした。時に陛下は25歳。”青春の卒業旅行”とも言え、その後の国際交流、友好親善に生かされたのは間違いないと思います。