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【#みんなのギモン】「嫌な顔された」「舌打ちされた」 なぜエスカレーターは歩いちゃいけない? これだけの理由

2023年7月22日 10:05
【#みんなのギモン】「嫌な顔された」「舌打ちされた」 なぜエスカレーターは歩いちゃいけない? これだけの理由
渋谷駅 多くの人が“右側を歩行”

通勤や通学の慌ただしい時間帯、駅などのエスカレーターでつい歩いてしまうという人もいるのではないでしょうか?2021年10月、埼玉県ではエスカレーターを立ち止まって利用することを義務づけた条例が施行。一時は歩く人が減ったものの、再び条例前の状態に戻っているといいます。そもそも、エスカレーターはなぜ歩いてはいけないのでしょうか?取材をすると「歩く人が加害者になるケース」もみえてきました。(報道局 調査報道班 及川光昭)

■都内は“左側”に並んで利用  “右側”は歩く人も…

東京・世田谷区を走る東急田園都市線。午前9時、駅のエスカレーターではこんなアナウンスが…

「危険ですので、駆け上がったり駆け下りたりしないで下さい」

ホームに向かう、下りエスカレーター。利用者が左側に並んで乗っているのですが…

「ダダダダダッ」

空いている右側を多くの人が駆け下りて行きます。

“この電車を逃すと、次の電車は6分後…”。記者もこれまで、急いで電車に乗りたい時など、エスカレーターの右側を歩いてしまうことがありました。

■SNSでは議論沸騰 協会「エスカレーターの歩行は禁止」を呼びかけ

日本エレベーター協会や鉄道事業者などは、つまずいたり転倒したりするおそれから歩行の禁止を呼びかけていますが、SNSではエスカレーターの乗り方をめぐってこんな書き込みも・・・。

「エスカレーターの右側で止まる人なに?歩けよ!」
「エスカレーターの右側で止まるやつのせいで電車逃してキレそう」

一方で…

「右側を歩く人なに?止まれよ!」
「エスカレーターは右だろが左だろがどっちにも立てば良い」
「娘と一緒に並んで立っていたら嫌な顔された」

長年、議論が沸騰するテーマです。

■条例施行も“減らない歩行者”  調査した専門家「ダメだと理解していない」

一部の自治体では条例があります。埼玉県では2021年10月から、エスカレーターは左右を問わず立ち止まった状態で利用することを義務づけた全国初の条例が施行されました。また2023年10月からは、愛知県名古屋市でも同様の条例が施行されます。

埼玉県の条例の導入で効果はあったのでしょうか?大宮駅で実態を調査をした、筑波大学の研究チームはこう語ります。

筑波大学・水野智美准教授
「条例前は、エスカレーターを歩く人は約6割でしたが、条例施行から3か月後には約4割まで減りました。しかし、1年後には再び6割まで増加し、条例の前に戻りつつあります」

条例の施行後も、歩行者が減らない理由については―

「条例前に戻った背景の1つは“条例の慣れ”が考えられます。条例が施行されても罰則はないので、結局、『歩くことがダメなんだ』ということを理解していないのではないのでしょうか」

■なぜ“歩行”はダメ? 協会「加害者になるケースも」

なぜエスカレーターは歩いてはいけないのか?水野准教授に聞くと、危険性だけではない理由がみえてきました。

筑波大学・水野智美准教授
「交通弱者など、例えば、左手が不自由な方は、右側に立って手すりにつかまりたい人がいます。また、子どもと手をつないで横に並んで乗りたいけれど、歩く人がいるために並んで乗れないなどの問題もあります」

横に並んで乗れないと、親が小さな子どもと手をつないで乗れないため、危険だといいます。日本エレベーター協会も、“保護者”が接触された際、幼児を守れない可能性があると指摘。

さらに…

日本エレベーター協会
「高齢者の場合、若年者よりも反射運動力や筋力等が低下している可能性があります。歩行者と接触した場合、手すりを握ることや、バランスを保つことが出来ず、転倒などのリスクが高くなると思われます」

協会は年齢や性別を問わず、誰もが転倒するリスクがあるといいます。

「エスカレーターは、歩く人が後方から接近してくるため、無防備の状態ですので、とっさの反応が出来ずに転倒する危険性があります」

また、“歩行”することで、突然“加害者”になるケースもありえるといいます。

「接触した際に持っていた手荷物が落下し、前後の人にぶつかるという2次・3次災害に拡大する可能性もあります。その場合、歩行者側が加害者と認定され賠償責任が発生するリスクも認識する必要があります」

■8割が「反対側に立って乗りにくい」“ 片側空け”で右側にスペースが

協会の調べによりますと、2018年1月から 2019年12月までにおきたエスカレーターの事故で最も多いのは「階段上」の転倒が最も多く、608件。転倒するリスクはデータからも裏付けされています。(出典:日本エレベーター協会「エスカレーターにおける利用者災害の調査報告」より)

また、アンケートでは、「歩くのをやめた方がいい」と答えた人は約9割いる一方で、「エスカレーターを歩行してしまう」と答えた人は約6割いるといいます。さらに、「エスカレーターの片側だけ長い列になっているときがあるが、反対側に立ち止まって乗りにくい」と答えた人は約8割という結果でした。(出典:「エレベーターの日 安全利用キャンペーン アンケートの集計結果について 2022年度」より)

■視覚障害がある男性「足音で、命綱となる“声”が聞こえない」

この“片側空け”によって、エスカレーターの利用に支障をきたす方もいます。

兵庫県に住む、油谷英俊さん(60代)。全盲で、光はかすかに見える程度だといいます。油谷さんは通院のために、駅のエスカレーターを利用する際、ガイドヘルパー(移動の介助)の付き添いがなければ乗れないといいます。

視覚障害がある油谷さん
「兵庫県では、エスカレーターは右側に立って乗ります。左側は空いていますが、横にガイドヘルパーさんと並んでしまうと塞いでしまうので、社会の暗黙のルールを気にしてしまい、ガイドヘルパーさんと上下に並んで乗っています」

ガイドヘルパーの声を頼りにエスカレーターを利用するという油谷さん。困っているのは、歩行者の“足音”です。

「ガイドヘルパーさんは危険を回避するために、私に『エスカレーターが終わります』などと声をかけてくれるのですが、サラリーマンの革靴の音がガタガタと大きな音をたてて歩くので、ガイドヘルパーさんの声がけが聞こえにくい。“声”は私にとって命綱なんですが聞こえなくなるんです。全ての情報がガイドさんから入りますので、声が聞こえないことは致命傷です」

危険は、歩行者の足音以外にも潜んでいるといいます。

「乗るときは右手で手すりにつかまり、左手は杖を持ってます。本来、杖は軽く持って段差などの情報は手の平で感覚を確認するのですが、ある日、左側から歩く人がいて“杖を蹴られてしまった”ことがあります」

歩行によって妨げられる“聴覚と触覚”からの情報。
さらに…

「片側が空いていたのでガイドヘルパーさんと並んで乗っていたら、下から駆け上がってきた人に“舌打ち”をされました」

左右問わず、立ち止まって乗れるようになってほしいと願う油谷さん。
歩く人がいる現状について望むことは…

「視覚に障害がある立場からすると、ガイドの声が聞こえにくいことや、歩行者との接触は危険なので歩かないでほしい。
安心して並んで乗りたいので、片側を空けるという暗黙のルールがなくなってほしいですね」

エスカレーターを歩くことの問題は様々ありますが、ひとつひとつが切実です。記者もエスカレーターに乗る際、あらためて思い返したいと思います。

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