漁師も“働き方改革”……常識一変「完全受注漁」とは 売り上げ2倍、労働時間は半減 「町おこし」でも収入アップ目指す
会社員から海の世界に飛び込み、かつて長時間労働をしていた岡山県の漁師がいます。「完全受注漁」を始めると働く時間は半減し、売り上げは倍増。家族との時間も増えました。受注漁の仕組みや、新たなチャレンジである町おこしの取り組みを取材しました。
熱々のだしをかけ、お茶漬けとしても楽しめる「黒鯛(だい)あぶり石焼丼」。弾力のある食感と、さっぱりとした甘みが特徴の黒鯛ですが、岡山・玉野市では水揚げされてもあまり食べられてきませんでした。今この魚で、町おこしをしようとしている男性がいます。
漁師歴13年の富永邦彦さん(37)。取材した日に港を出たのは明るくなった午前6時前ですが、以前は違いました。
富永さん
「時には夜の12時に出港したり。(帰るのは)夕方です。夕方4時とか5時。しんどかったです」
父親が漁師の美保さんと結婚し、会社員から海の世界に飛び込んだ富永さん。待ち受けていたのは、1日約16時間にも上る長時間労働でした。その生活を変えようと考えたのが「完全受注漁」です。
富永さんは「ECサイトを通してスマホで注文が確認できるようになってます。僕は注文を受けてから漁に行く漁師なので」と話します。
以前はとってきた魚を市場に卸し、仲卸などを経由して私たち消費者の元に届けていましたが、まずはSNSなどを通して飲食店や一般家庭から注文を受け付け、それから漁に出ます。
注文分だけを水揚げし、発送まで全て自分たちで行います。そのためコストが減り、売り上げは2倍になりました。
富永さん
「(発送は)1日10箱から20箱。朝出て昼には帰ってという日が続くようになりました。時間がつくれるようになったことで、まず本当に、自分自身の体が楽になった」完全受注漁で売り上げは2倍に増えた一方で、働く時間は約半分に減ったといいます。
販売の仕方にもこだわりがありました。「基本おまかせ、『漁師のおまかせ』っていう鮮魚ボックスをやっているんですけど…」と富永さん。魚を余らせない、海にやさしい受注漁です。「年々魚が減ってきているなっていうのは実感していますね」
船の上で、とりすぎてしまったら「全部逃がします。売れないことはないんですけど、あえてとる必要もないのかな」と富永さんは言いました。
そして富永さんが新たに始めたのが、町おこしです。観光協会や飲食店の経営者らが集まった会合で、「玉野に来て黒鯛食べようって、もっていけるんじゃないかな」と提案。おむすび店の経営者は「(黒鯛を)食べないから。知らないんですよ」と言いました。
富永さんが目を付けたのは、鮮度が落ちるのが早く、地元でもあまり食べられてこなかった地魚の黒鯛です。飲食店などでご当地メニューとして売り出そうとしています。
会合で「よくとれる魚に付加価値がついた方が、漁師さんの収入に直結すると思う」と訴えた富永さん。町を盛り上げ、さらに漁師の収入アップも目指す取り組みは、これからも続きます。
藤井貴彦キャスター
「富永さんは完全受注漁を始めてから効率よく働けるようになり、家族との時間も増えたということです」
シシド・カフカさん(ミュージシャン・『news zero』木曜パートナー)
「フードロスの減少にもつながりますし、これぞ素敵な働き方改革だなと感じました」
「時間にも体力にも余裕ができることによって、新たな夢を抱けて、『地元にとって』や他の漁師の方々の働き方にまで考えが及んでいく。こうした取り組みが、新たな動きにつながっていくのだなと思いました」
(6月6日『news zero』より)