【解説】処理水放出に中国反発…水産物の根拠なき“全面禁輸” 安全性は…世界各国より“厳しい基準”
東京電力・福島第一原発の処理水の放出が24日から始まっていますが、これに反発している中国は日本の水産品の輸入を「全面禁止」とし、その影響が広がっています。
放出開始から一夜明け、東京電力の小早川社長は福島県内の自治体を訪問しました。25日午前9時ごろに南相馬市の市長と会い「今後も最大限の緊張感を持って対応する」と話していました。これに対して市長は、風評被害対策などを求めた要望書を手渡しました。
そして、いわき市の沼ノ内漁港では処理水放出から初めての朝を迎え、この日も港は新鮮な“常磐もの”が水揚げされ、活気に包まれていました。
いわき市の仲買人
「(価格は)高いよ」
――値段が変わったりは
いわき市の仲買人
「ない」
取引価格に大きな変化は出ていないことに漁業関係者はひとまずほっとしていました。
そこで25日の「知りたいッ!」のポイントは次の2点です。
◇安全性どう伝える?
◇根拠なき「全面禁輸」
汚染水からほとんどの放射性物質を取り除いたものが処理水ですが、トリチウムという放射性物質は取り除くことができないため、海水で薄めて今回、海へ放出することになりました。
これまでも測定はしていましたが、今後はさらに海水などの「トリチウムの濃度」が気になるところです。
そもそも、国が定めた海に放出する際の安全基準は「1リットルあたり6万ベクレル」ですが、今回はさらに厳しく、「1リットルあたり1500ベクレル未満」という基準にしています。
これはWHO(=世界保健機関)が定める「飲料水」の基準となる濃度「1リットルあたり1万ベクレル」よりもはるかに低い基準です。その上で海洋放出の放出口から一番近い沖合1キロ付近の濃度を見てみると、直近では0.1ベクレルから1ベクレルの間くらいです。そして、東電が発表した放出後、初の測定結果ですが、基準値は大きく下回っていて、異常はなかったということです。
日本だけでなく世界各地に原子力施設はありますが、各国はどれくらいのトリチウムを排出しているのでしょうか。経済産業省によると、中国の陽江原発では112兆ベクレル。フランスのラ・アーグ再処理施設は1京ベクレルと桁違いの排出量です。
これに対して、日本の福島第一原発はというと、今年度は約5兆ベクレル、来年度以降は22兆ベクレル未満とする計画です。こうして30年程度かけて全ての処理水を海へと放出する予定です。
処理水の放出に対しての安全性について、私たちはどうやって知ることができるのでしょうか。1つは、東電が公開している「処理水ポータルサイト」というWebサイトがあります。
サイトの中の「海域モニタリング」というところをクリックすると、海水のトリチウム濃度や、福島第一原発周辺の魚・海藻などのトリチウム濃度などのモニタリング結果がわかるようになっています。
また、東電ではYouTubeでヒラメを飼っている水槽のライブ映像を公開しています。水槽は2つあり、片方は通常の海水を使って飼育しているヒラメ。もう片方は処理水を入れた海水で飼育しているヒラメです。
これは東電が処理水の海洋放出の安全性を目に見える形で伝えるために行っている活動で、ライブで公開されています。
また、水産庁も福島第一原発から5キロほどの海域で2匹ほどの魚をつかまえ、トリチウム濃度などの測定を行っています。これから1か月は毎日、魚を採取して、その分析結果をホームページで公表するとしています。
いろいろ努力は重ねていますが、それでも政府は、“風評は必ず発生するもの”と考えていて、値下がりした水産物や漁業の継続支援などに対して800億円をあてて、風評被害対策を行うとしています。
■中国で「塩」の買いだめ…4トンの塩が1時間で売り切れた店も
そしてもう1つのポイントが中国による「根拠なき『全面禁輸』」です。
24日に中国の山東省や上海などで撮影された映像では、店の前に大行列ができていました。行列に並んだ人たちの目当ては「塩」です。海洋放出をうけて塩の買いだめが発生して、ある店では4トンの塩が1時間で売り切れたといいます。
さらに中国国営の新華社通信の記事には「生態環境の破壊者 世界の海の汚染者」という文字が書かれた、海が汚染されるイメージのイラストが掲載されました。
中国は処理水を「汚染水」と呼び続けていて、海洋放出に反発してきましたが、24日に実際に放出が始まると、対抗措置としてすぐさま日本の全ての水産物の輸入を禁止すると発表しました。
これに対して日本政府は、即時撤廃を求める申し入れを行いました。実際にどのくらい影響があるかというと、去年の日本の水産物の輸出額は総額3873億円で、このうち中国が一番多くて871億円でした。4分の1近いこれが全てストップする。さらに2番目に多い香港も、これから日本の10都県からの輸入を禁止するということです。
■中国側が「政治のカード」として利用か…東電の“企業体質”が反発の口実にも
なぜ中国がここまで反発するのか。まず前提としてハッキリしていることですが、日本政府は「中国の主張は科学的根拠がない」と明言しています。SNSでの偽情報などにも目を光らせています。
いろいろ理由はあるのでしょうが1つには、中国側が政治のカードとして利用しようという面もあると予想されます。
実は中国も痛いところを突いてきていて、「日本側のデータは改ざんや隠ぺいの常習犯である東京電力のものだ。日本側が『処理水』と呼ぶ核汚染水が安全だという説は、どうすれば国際社会を納得させることができるだろうか」と3月21日の外交部会見で疑問を呈しています。
長年にわたる東電の企業体質が、反発の理由になる「口実」を与えてしまった形です。
しかし、処理水の放出については東電だけでなく、原子力規制委員会やIAEA(=国際原子力機関)も安全に行われているか、モニタリングデータに異常がないかチェックし続けています。様々なレベルで信頼性については担保しようとしています。
◇
事故から12年たって始まった処理水の放出は、原発の廃炉と地域の復興に向けた、極めて長いプロセスの一環です。今もたれているという最大限の緊張感を数十年にわたって維持しつつ、正しいモニタリングと誠実なデータの公開を続けていくことが問われています。
(2023年8月25日午後4時半ごろ放送 news every.「知りたいッ!」より)