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【解説】災害時の車中泊避難は安全か?駐車場所は?エコノミークラス症候群のリスクは?

2022年4月14日 21:40
【解説】災害時の車中泊避難は安全か?駐車場所は?エコノミークラス症候群のリスクは?
熊本地震で車で避難する人たち(出典:熊本災害デジタルアーカイブ/提供者:兵庫県たつの市)

今年もまもなく大雨や台風のシーズンがやってきます。災害が起きたときにどこに避難すればよいのか?行政は小学校などに設置する指定緊急避難場所に避難するように呼び掛けていますが、実際は避難場所が狭くて入りきれないなどの理由から車で過ごそうという人が多くいます。はたして、車中泊避難は安全なのでしょうか。

■災害時は車に宿泊しての避難が多いのが実状

2016年に発生した熊本地震。

熊本県の調査によると、市町村が開設した指定緊急避難場所に避難した避難者は、本震の翌日(4月17日)には18万3882人に及びました。

このほかにも避難場所以外の施設や自宅の軒先などに避難した人が非常に多く、特に多かったのが商業施設の駐車場・公園・グラウンドなどに駐車した車での避難でした。

熊本県が行ったアンケート調査では、避難した人のうち8 割以上の人が指定緊急避難場所以外に避難し、その約半数は車中泊避難でした。

そもそも災害時にはいかに避難すべきなのか、かつて行政は小学校などの行政が指定した避難場所への避難を呼び掛けてきました。

しかし、2019年の台風19号の際にも車で避難する人が多く発生。

さらに新型コロナも発生し、避難場所での感染拡大の懸念も出てきたことから、国は避難のあり方を見直して、安全な場所にある友人や親戚の家、さらにホテルなど、住民が自主的に避難場所を確保することも推奨するようになりました。

そんな中、車での避難は、余震が怖い、プライバシーを確保したい、幼い子どもやペットが一緒だから、コロナへの感染が心配などと、手軽に選択される傾向が強くなってきています。

しかし、車での避難にはいろいろな危険や不便もあるので注意が必要です。

■車で避難中に災害にあって死亡するケースも!

河川が氾濫したり、土砂が崩れてきたりして台風や大雨の災害時には車での移動は危険がつきものです。2019年の台風19号の際に屋外で死亡した50人のうち、27人もの人が車で移動中に被災したものでした。その大半が水没したことによる災害です。

自動車は水深が10㎝を超えるとブレーキ性能が低下、水深20㎝~30㎝でドアは水圧で開かなくなり、30㎝を超えるとエンジンがストップ、50㎝を超えると車体が浮いて流されることもあります。

アンダーパスにたまった水に車で突っ込んで、そのまま逃げられなくなるケースもあります。

やむを得ず車中泊をする場合は、安全な場所に駐車することが最も重要です。

駐車しようというスペースが、河川が氾濫した場合にも浸水しないのか、土砂崩れが起きるような崖のそばでないか、ハザードマップなどで十分確認することが大切です。

■エコノミークラス症候群に注意が必要

内閣府の震災関連死の報告書では、熊本地震の際に43歳女性がエコノミークラス症候群の疑いで死亡したケースや、避難中の車内で74歳の女性が疲労による心疾患で死亡したケースが報告されています。

エコノミークラス症候群は長時間、同じ姿勢をとり続けることで、膝の裏の静脈の血行が悪くなり、血栓ができて肺まで行き着き、危険な症状を引き起こす病気です。

2004年の新潟中越地震の際に注目を浴び、新潟大学の報告書によると大学が把握しただけでも肺塞栓症(エコノミークラス症候群)を発症した人が7人いて、そのうち4人が死亡しました。亡くなったのはいずれも40~50代 の女性です。

車中泊をしていて朝になって車から降りたとたんに突然倒れて病院に運ばれ死亡したケースも。家族によると、夜間にトイレには行ってなかったということです。その後の調査で血栓が見つかった人たちはいずれも車中泊を3日以上している人たちでした。

車中泊をする際にはこまめに水分を補給し血行をよくしておかないと、血液がドロドロになり、血栓が生じる原因となるので注意が必要です。

■一酸化炭素中毒や、熱中症・低体温症にも注意が必要

冬の大雪の中、車で避難して長時間アイドリング状態にしていると、一酸化炭素中毒の危険性が高まります。特に車のマフラー付近に雪が積もると、排気ガスが車内に入ってきて中毒になるケースが多く発生しています。こまめに車の窓やドアを開けて空気の入れ替えを行うとともに、マフラー周りを除雪する必要があります。

長時間車で避難する際には、エンジンを止めざるを得なくなりますが、車内の温度管理も重要です。夏場は車内の温度があがって熱中症になるので、適度にエンジンを動かしてエアコンで冷やす必要があります。外の気温が25度以下でも、日中には1時間ほどで車内の温度が40度を超えてしまうことも。

また、寒い時期には低体温症を起こす危険があります。いずれもウィンドシェードやカーテンなどを使ってガラスから伝わる日差しや冷気を遮ることが重要です。寒いときは車内にシートを敷き、寝袋などでしっかりと体を保温するようにしましょう。

■食事の提供など行政の支援を受けられない可能性にも注意を

車中泊避難では、行政による支援を受けられない可能性が高いことにも注意が必要です。

行政による食料の配布などの避難者支援は、行政が指定した避難場所に避難した人たちに対しては確実に行われますが、車中泊避難をしている人たちはだれが避難しているのか行政では把握できないのが現状で、そのままでは車中泊避難の人たちは、支援を受けることはできなくなってしまいます。

車中泊避難をしながら食料などの支援をもらうためには、行政のスタッフや避難所を運営する人などに、誰がどこに避難しているのかを確実に伝えなければなりません。そのうえでどこで支援をしてもらうことができるのかをしっかり確認することが必要になってきます。

そのほかの入浴支援などの被災者支援についても、自ら情報を収集することが必要です。

■車で避難するなら事前の準備が大切

この春、愛知県内の市町村の防災担当の職員らのグループが、災害時車中泊避難のガイドブックを作成し、公開しました。

車中泊避難をするには、事前に防災用品などの準備が大切だと指摘しています。

とりまとめた岡崎市役所の穴井英之さんは「避難所避難は収容能力に限界があるのが現実で、車中泊避難する人たちにもケアが必要だと痛感している。これまでガイドとなる情報提供もなかったのでこのガイドブックを取りまとめた。車中泊避難を奨励するものではないが、車中泊避難せざるを得なくなった時には参考にしてもらいたい。」と話します。