“フルーツ不作” “カカオ豆高騰” 温暖化でスイーツの原料が危機 シェフや地元企業が始めた気候変動をチャンスに変える新たな取り組み
深刻さを増す温暖化の影響は、華やかなスイーツの世界にも影を落としていました。甘い世界の裏側で起きた危機を救おうと、シェフや地元企業が動き出しています。
暑すぎてフルーツが不作 農家の苦悩をスイーツにして消費者へ
2024年5月、長野県の洋梨畑にいたのは、名古屋の老舗喫茶「カフェタナカ」の田中千尋シェフです。
一つの枝に多くの実を付けるはずの洋梨が、去年の春は全く実を付けていなかったのです。畑を視察した田中シェフも「めっちゃやばい。お菓子屋さん同士で取り合いになる」といい、危機感を募らせていました。
フルーツたっぷりのタルトが自慢のカフェタナカ。シェフ自ら生産者の元へ足を運び、厳選した素材をスイーツにしていますが、去年の秋、農家から届いた洋梨には、ある異変が…。暑すぎたことで、日に焼けて変色したり、変形したりしていたのです。
近年、温暖化が叫ばれるようになり、日本の平均気温は100年あたり1.4℃上昇したと言われています。気象予報士の石橋武宜さんも、「何といっても去年の特徴は夏ですね。かなり気温が高くて、全国的に猛暑の日が多かった。全国的に平年よりかなり高くて、気温が上昇したというのが一つです」と話します。
最も暑い夏となった2024年。温暖化の影響を目の当たりにし、農家の苦悩の声をスイーツにして消費者に届けたいと考えた田中シェフ。そこから試行錯誤が始まりました。
カフェタナカ 田中千尋シェフ:
「とにかく繊細な洋梨をショコラと合わせていったら、次のおいしさが生まれるのではないかと思って。試しにスパイスとハーブとテストしたいなと…」
12月上旬、名古屋市北区にあるカフェタナカ本店の厨房に、田中シェフの姿がありました。作っていたのは新作のチョコレートです。
カフェタナカ 田中千尋シェフ:
「洋梨と一緒に、もうひとつイチジクを(作る)。イチジクも暑すぎて生育がよくなかったんです。規格外のイチジクを頂いて、赤ワインで煮て、ショコラにしようと思っています」
洋梨はホワイトチョコにミントを組み合わせ、イチジクはピューレ状にしてプチプチ食感を残しました。
付けた名前は「共に生きる」。多くの人に農家の現状を知ってほしいという、田中シェフの切実な願いが込められています。
南国原産のカカオを日本で栽培!? 気候変動をチャンスに…
ジェイアール名古屋タカシマヤで開催中のチョコレートの祭典「アムール・デュ・ショコラ」でも、気候の変化で、ある問題が起こっていました。それは、チョコレートの原料であるカカオ豆の価格高騰です。
パティスリー・サダハル・アオキ・パリ 青木定治シェフ:
「異常事態。(カカオの)値段が3倍」
レ・トロワ・ショコラパリ 佐野恵美子シェフ:
「3年前に比べると約2倍にカカオが高騰していて、今までは缶で販売していたんですが、コストを下げて紙の新しい箱を作って提供しています」
「レ・トロワ・ショコラパリ」では、チョコの個数を減らすことで値段は据え置きに。ベルギーのブランド「セントー」では、商品はそのままでリーフレットなど他の部分で経費を削減しています。
このカカオ問題に、ちょっと変わった視点で取り組むお菓子店がありました。滋賀県近江八幡にある「キャンディーファーム」のハウスで育てていたのは、カカオやバニラなど南国の植物です。しかし、なぜ滋賀県でカカオなのでしょうか?
シェフたちが始めていたのは、温暖化に合わせたカカオの生育研究。実は、気候の変化によって、これまで育たなかった地域でカカオが育ちだしているのです。以前は台湾がカカオ栽培地でしたが、現在は沖縄まで北上していると、山本さんは話します。
クラブハリエ 山本隆夫グランシェフ:
「ここで自分の知識を学んで、育てられる地域へ行ったときに指導できると思うんですよ。カカオ農園に『こんなチョコ作ってほしい』と直接言える人になりたい。農家さんとお話して、しっかり育てたいというのが目標ですね」
カカオを守る取り組みをしているのは、シェフだけではありません。三重県多気町でカカオを育てていたのは、地元の製油会社「辻製油株式会社」です。現地で作り方を学び、徹底した管理の下、カカオ栽培を成功させました。※「辻」は「一点しんにょう」が正式表記
辻製油株式会社 辻利文さん:
「日本が温暖化になりつつあるので、環境に即したものを作るために始めた。カカオが足りないという話も出ているので、国産のカカオを作ることができれば、消費者にお届けできると思った」
※「辻」は「一点しんにょう」が正式表記
建築廃材を燃料として利用したビニールハウスで、環境負荷のより少ないカカオ供給を目指しています。
1粒のチョコレートに込められた作り手たちの思い。みなさんはどう受け止めますか?