ペットたちの“背番号” 「マイクロチップ」義務化から半月 見えてきた課題
ペットの犬や猫にマイクロチップの装着を義務付ける法律、改正動物愛護管理法が6月から施行されました。
今回の改正法によって、安易にペットが放棄されている実態や、災害時に被災地にペットが取り残されてしまう問題などの解決に効果が期待されています。制度施行から半月。取材をすると、運用に向けた課題が浮き彫りになってきました。(取材:社会部 堀川純)
マイクロチップは直径2ミリ程度、長さ1センチ程度の円筒形の電子機器です。獣医師が専用の注射器を使って犬や猫の皮下に埋め込みます。この場所に読み取り装置をかざすと、このペットに固有の15桁の番号が表示されます。
ペットが保護された際、15桁の番号を読み取り、その番号を元に誰が飼い主なのか分かるようになっているのです。
これによって、無責任なペットの飼育放棄に歯止めがかかることが期待されています。このマイクロチップを有効に活用していくために重要な”義務”があります。
■「販売業者」と「飼育者」 それぞれに課される義務とは
今回の改正法では、すでにペットを飼っている人などにはマイクロチップの装着は努力義務とされています。一方で、今後新たにペットを売る販売業者と買う飼い主にはそれぞれ新たな義務が生じます。
①販売業者の義務
ペットショップやブリーダーなどの販売業者は、店頭での販売前にペットにマイクロチップを埋め込む義務が生じます。さらに、マイクロチップを埋め込んだペットの情報、例えば、性別や品種、毛の色などの特徴を"国のデータベース"に登録することが義務付けられます。
②購入者(飼育者)の義務
ペットを購入し、飼い主になった人は、購入から30日以内に自身の名前や住所、電話番号などの情報を、同じく“国のデータベース”に登録することが義務付けられます。
販売業者と購入者の双方が、それぞれの義務を果たさなければ、この制度は絵に描いた餅になってしまうのです。
さらに重要になってくるのが、すでに自主的にペットにマイクロチップを装着していた飼い主の登録情報を、国のデータベースに移行することです。
改正法の施行以前に、自主的にペットにマイクロチップを装着していた飼い主は相当数に上るのです。
■民間団体のデータベースから国への移行…わずか3%
日本国内では1998年から、日本獣医師会の「AIPO(アイポ)」など複数の民間団体が、すでにマイクロチップの登録事業を行っています。
これまで自主的にペットにマイクロチップを装着していた飼い主は、こうした民間団体のデータベースに情報を登録していて、その数は日本国内で約340万匹分に上ります。
この約340万匹のペットの飼い主に対し、環境省は、データを一元管理するために、登録情報の国のデータベースへの「移行」を呼びかけています。
しかし、日本獣医師会によるとこれまでにデータの移行を行った飼い主は、全体のおよそ3%。約10万人に過ぎないといいます。(6月10日時点)
このままだと国のデータベースだけでなく複数のデータベースにペットの登録情報が分散しているため、自治体などがペットを保護した場合、それぞれのデータベースにいちいち照会を試みる必要があり、飼い主の捜索に時間がかかってしまうのです。
環境省の狙い通りに進まないペット情報の一元化。
背景には、民間のデータベースでは自治体や警察などの行政のみならず、民間の獣医師でも見ることができていた情報が、新たな国のデータベースでは民間の獣医師では見ることができなくなるなど、使い勝手が良くないことがあります。
環境省の担当者は「利用者により利便性を感じてもらえるようにアップデートを重ね、さらなる施策を検討していきたい」としています。
「AIPO」を運営する日本獣医師会では、民間から国のデータベースへのデータ移行を呼びかけるとともに、無料でのデータ移行期間を延長するなどしています。
■殺処分は2万4000匹…念願の「義務化」
ペットへのマイクロチップ装着を巡っては、20年近くもの間議論され続けてきた経緯があります。
きっかけとなったのは、多くの犬や猫が迷子となり保護された、1995年の阪神・淡路大震災です。地震災害の多い日本において、被災地に残されたペットの飼い主の捜索は、大きな課題となっています。
また、災害時における飼い主捜しとともに、問題の背景にあるのは、飼い主による安易な飼育放棄です。
環境省によると、2020年度に迷子や飼育放棄によって自治体に引き取られた犬や猫の数は約7万2000匹。そのうち約2万4000匹は飼い主や引取先が見つからず、殺処分されました。
年間2万匹以上の尊い命が失われているこの実態こそが、今回マイクロチップの義務化を進めなくてはならない最大の理由といえます。
■走り出した新制度 よりよいものにするために…
マイクロチップの義務化。さらにペットの登録情報を、国のデータベースに一元化しようという国の取り組みは始まったばかりです。
迷子の犬や猫を見つけたら、マイクロチップを読み取り、国のデータベースで照会。するとすぐに飼い主が分かる。
そんなシステムを実現するためには、飼い主自身がペットの登録情報を、国のデータベースに責任をもって移行するという“命を守る”ための手続きの徹底が求められます。