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中村隼人「自分を追い込んでいました」

2021年1月26日 20:49
中村隼人「自分を追い込んでいました」

古典作品のみならず、新作歌舞伎やスーパー歌舞伎などで、立役として存在感を放ち、その端正な顔立ちを生かしテレビドラマなどでも活躍する中村隼人さん。「自分が義経として、その作品を支えていかなければいけないと強く感じました」。昨年12月、新型コロナウイルス感染対策のため、隼人さんは京都・南座で大きな役の代役を勤めました。昨年を振り返りながら、歌舞伎への思いを語っていただきました。

【市來玲奈の歌舞伎・花笑み/第5回・中村隼人さん】

■「聞いている、見ているよりも、演じるのは経験として全然違う」

――昨年9月から久しぶりの舞台に立たれていますが、心境はいかがですか。

「(2020年)3月から半年間、舞台から離れていたので、今まで当たり前だと思っていたものが当たり前ではなかったんだなと。すごく嬉しかったですね」

<12月には新型コロナの影響で、父・中村錦之助さんが演じる義経の代役を勤めた隼人さん。錦之助さんもまた別の役を勤めることに。>

――南座で2日間代役を勤められました。その時の心境は。

「もともと舞台が再開された時から、(何かあった場合の)代役を決めるようになったんです。僕も9月から(松本)幸四郎さんや(片岡)仁左衛門さんの代役をするために、“セリフを覚えてください、稽古しておいてください”ということだったので、12月もそういうことだと思っていました。そうしたら本当に代わると言うことだったので、聞いてから初日まで1週間なくて…。でも、そんなに緊張しなかったですね。2日間しかなかったので、自分が思うとおりにやろうという気持ちでした。一番感じたのは、聞いている・見ているよりも、やる(演じる)のは経験として全然違うと思いましたね」

「古典の大きい役で、父親と共演するというのはあまりなかったので、嬉しかったです。父親も代役だったので、自分が義経としてその作品を支えていかなければいけないと強く感じましたね」

――昨年の自粛期間中はどのように過ごされていましたか。

「凄く落ち込んで、家でずっと3日間くらい、誰ともしゃべらずにぼーっとしていて……。でもそれではダメだと思って、浅草に稽古場を借りて、師匠を呼んで、長唄・三味線・鼓の稽古をしながら、日本刀の稽古もしたり、習字を始めたりとか。考える時間があると落ち込んでしまうので、考える時間がないくらい自分を追い込んでいました。他には“どうぶつの森”をやっていましたね(笑)」

――新しく始めたことやマイブームは。

「ゴルフですね。家にいることが多くなって、体を動かすことが少なくなっていたなかで、先輩に声をかけていただいて。負けず嫌いなので、ある程度になるまでやりたいなと。スコアを100以下にしたいですね」

■「やっぱり目指すべきは歌舞伎座」

<例年1月は浅草公会堂にて、“若手歌舞伎役者の登竜門”といわれる「新春浅草歌舞伎」が上演されています。次世代の歌舞伎役者が有名作品の大きな役に挑む場で、新年の幕開けを飾る華やかな場としてファンからも愛されていますが、今年は中止に。>

「新春浅草歌舞伎は高校2年生から連続で出させていただいていて、最初の思い出が朝、学校に行って、早退して浅草歌舞伎に出て、終わったらまた学校へ戻ってというもので……。世代交代もあって、(尾上)松也さんを筆頭に平成生まれの歌舞伎俳優が入った時に、歌舞伎座で普段、大先輩方がなさっている役を僕らが勉強させていただく、公演させていただくようになって、毎年12月は誰に習おうかというのをみんなで相談していたので、高校生の時からの思い出がある公演がないというのは寂しいですよね」

<中止になった浅草新春歌舞伎のメンバーとともに、1月の歌舞伎座公演「壽 初春大歌舞伎」の第一部で「壽浅草柱建(ことほぎてはながたつどうはしらだて)」に出演します>

――今回は歌舞伎座に、新春浅草歌舞伎に出演しているメンバーが集結していますね。

「でもやっぱり目指すべきは歌舞伎座でしたから、(浅草でやった役)これをいつか歌舞伎座でやりたい、このキャストでやりたい、と夢を持ってやるので、歌舞伎座に出させていただけることがありがたいなと思います」

「『寿曽我対面』という、誰もが知っている日本三大敵討ちの一つの曽我物語の作品を、浮世絵をもとに舞踊に直したもので、荒事・和事・実事・女方、歌舞伎の役どころ全てが入っていて、人気のキャラクターたちが踊りを踊るというような作品です。お正月らしい華やかさもあり、衣装のきらびやかさ台詞も少し入っていて内容も分かりやすくなっているので、楽しんでいただけるかなと思いますね」

――歌舞伎を若い世代に広めていくには?

「興味を持ってもらわないとなかなか難しいと思いますね。どうしても歌舞伎って、『言葉が難しそう』『眠そう』というイメージを持たれるけれど、間違っていないと思うんです。そういう難しい演目だけではないし、興味を持ってもらって見ると見方が変わってくると思います。だからこそ、僕ら若い歌舞伎俳優は、興味を持ってもらえるようなアプローチの仕方、お客様が見たいと思えるような作品作りをしていくことが近道かなと思っていますね」

――2021年の抱負を教えてください。

「自分は古典芸能でエンターテインメントのお仕事に携わっているので、まだまだ難しい状況は続くと思いますが、一人でも多くの人を明るく、笑顔に、元気にできるように自分の仕事をきっちりとやって、歌舞伎をどんどん広めていきたいなと思います」

◇◇◇
明るく現場を盛り上げながら、真っ直ぐに歌舞伎への思いを語ってくださった隼人さん。「news zero」での取材以来、1年ぶりにお話を伺いました。歌舞伎を初めて見る方に向けてのメッセージを求められると、「スーパー歌舞伎などのキャッチ―なものを見るのも面白いかなと思います。古典をどれ見たらいいかなと思われる方は……(僕が出ている)歌舞伎座の今月の第一部ですよね。」と、しっかりと宣伝してくださるお茶目な一面も。以前に取材させていただいた時に、趣味は料理とお話されていましたが、得意料理は和食で、最近は“金目鯛の煮つけ”を作ったとのこと。

印象的な力強いまなざしからは、「これからの歌舞伎界を引っ張っていく」、そのような情熱を感じました。ストイックに突き進み、次世代を担う隼人さんに注目です!

次回は中村鶴松さんにお話を伺います。

【中村隼人(なかむら・はやと)】
1993年11月、二代目 中村錦之助の長男として生まれる。2002年2月、『寺子屋』の松王丸一子小太郎で初代中村隼人を名乗り初舞台。スーパー歌舞伎2『ワンピース』や『オグリ2』ではダブル主演を果たした。歌舞伎以外では、NHK BS時代劇『大富豪同心』で主演を務めた。

【市來玲奈の歌舞伎・花笑み】
「花笑み」は、花が咲く、蕾(つぼみ)がほころぶこと。また、花が咲いたような笑顔や微笑みを表す言葉です。歌舞伎の華やかな魅力にとりつかれた市來玲奈アナウンサーが、役者のインタビューや舞台裏の取材で迫るWEBオリジナル企画です。