三陸の海に“海洋熱波” 海面水温“異常上昇”…伊勢エビにも異変…桝が目撃【バンキシャ!】
2024年の世界の平均気温が観測史上、最も高くなることがほぼ確実になったと、EUの気象情報機関が発表しました。さらに、世界で最も海面水温が上がったという調査結果がある、東北・三陸の海で起きた「海洋熱波」とは…。桝太一キャスターが取材しました。【バンキシャ!】
◇◇◇
9日、早朝。
桝太一キャスター
「もう魚市場の電気がついている」
桝が向かったのは、宮城県・石巻漁港の市場。
「たくさんの魚がすでに水揚げされています。これなんか、これからおいしい季節じゃないでしょうか。立派なアンコウですね。そしてヒラメ、カレイも揚がっていておいしそうですね」
こうした三陸の海の“常連”に交ざっていたのが…三陸の海になじみの薄い生き物たち。
「その中に伊勢エビが入っていますね」
生息地の北の限界が「茨城あたり」とされていた、伊勢エビも。
桝キャスター
「伊勢エビをさっき見かけたんですけど、いるもんですか? この辺って」
宮城・大崎市 鮮魚店を経営
「普通はいません」
さらに、水揚げされていたのは…
桝キャスター
「おおお! タチウオだらけ」
西日本での漁獲量が多いことで知られるタチウオ。
「タチウオって東北でとれたことはあったんですか?」
石巻魚市場 佐々木 茂樹 社長
「今まではなかったです。ここ4~5年で水揚げが急激に増えた魚種のひとつです」
桝キャスター
「へえー」
宮城県では2024年、タチウオの漁獲量が、7日時点で451トン。これは10年前の約65倍だ。(2014年は年間7トン/宮城県水産技術総合センターによる)
いま三陸の海で、何が起きているのか。
◇◇◇
2023年6月からの1年間で、海面水温がどれだけ上昇したかを表すデータ(提供/東北大学・杉本周作准教授)。日本の三陸沖は、平均で6℃、海面水温が上昇。これは観測史上初めての記録で、世界で最も海面水温が上がった海になったという。
海洋や気象の変化に詳しい専門家は…
東北大学 杉本 周作 准教授
「最近よく使われる言葉として、『海洋熱波』という言葉があります」
桝キャスター
「すごい言葉ですけど、どういう定義なんでしょうか?」
杉本准教授
「(海洋熱波は)水温が高い状態が数日以上続くという、期間をもって定義されるものになります。三陸沖でこれだけ大きな海洋熱波が持続しているのは、非常に珍しいことだと思います」
◇◇◇
海洋熱波が起きている、その海に…桝が潜った。
桝キャスター
「不思議です、この光景は」
9日、桝が潜ったのは、宮城県女川町の海。
「三陸の海がどんな風に変わってしまっているのか、潜って見てきます」
「そろそろ水底につきます。だいたい水深は15メートルくらいですね」
桝がみつけたのは、様々な海の生き物たち。
「あー、いました、いました! “女川のアイドル”ダンゴウオちゃんです。この子はもう女川の海の象徴ともいえる存在ですよね」
「あー、ミナミハコフグの幼魚だ、かわいい! 私の一番好きな魚です」
中でも桝の目を引いたのは…
「ハタタテダイだ! いやー、こんなのもいるのか」
三陸の海には生息しないとされてきた、カラフルな“南の魚”。
「11月の三陸の海に。不思議ですね、この光景は」
するとそこに…
「あれ、伊勢エビですね。しかも、まあまあなサイズでは」
水温20℃前後の暖かい海を好む伊勢エビが。
「これくらい大きいサイズになるのは珍しいですね。伊勢エビの子どもが黒潮に乗ってくることは知られていますけど、東北の海に定着しちゃっているんですかね」
「おーい、ここは伊勢じゃないぞ、三陸だぞ」
さらに…
「あ、ここにもいるぞ! ここにも伊勢エビがいます」
伊勢エビが、三陸の海で成長していた。
「いやー、不思議な光景でした。『何でおまえいるの?』っていうのが結構いましたね。三陸の海に潜っているのであってるよな? しかも11月…」
一緒に潜った地元のダイバーは…
ダイバー 高橋正祥さん
「伊勢エビもやっぱり増えましたね。年々サイズが大きくなってきている」
桝キャスター
「今まではこんなに普通に見かける感じではなかった?」
ダイバー 高橋正祥さん
「5、6年前くらいから小さい伊勢エビはいたんですけど、大きくなってきたのは初めてかなと思います」
「生き物も変わってきていると正直感じます」
◇◇◇
8日、隣の福島県でも。(いわき市/いわき・ら・ら・ミュウ)
バンキシャ!
「大きい伊勢エビがたくさんいます」
1キロを超えるほどに大きく育った伊勢エビ。
福島県では伊勢エビの漁獲量が年々増えていて、2023年はおよそ9.3トンに。6年前の15倍以上になっている(福島県水産海洋研究センターによる)。
2023年7月にオープンした店では、多くとれるようになった伊勢エビを、“磐城イセエビ”と銘打って販売。名産品にしようと動いている。
上野台豊商店 上野台優 代表取締役
「伊勢エビだと伊勢のイメージが強いので。伊勢だけじゃなくて、いわきにもありますし、福島でも伊勢エビがとれますよってことを知ってもらいたい」
◇◇◇
海面水温の上昇はなぜ起きたのか? その背景には、地球温暖化の影響があると専門家は指摘する。
異常気象や気候変動などに詳しい 三重大学 立花義裕 教授
「いろんな研究があるが、(海面水温の上昇の)ひとつには、偏西風の蛇行が一因だと思います」
専門家によると、通常の偏西風はほぼまっすぐに流れるが、現在は地球温暖化の影響で蛇行。この偏西風が海の中の海流にも影響を与えるという。
その結果、黒潮は北上し三陸沖の方へ。海面水温を異常な高さにしていると分析した。
その影響はいいことばかりではない。伊勢エビが名産の三重県では何が起きているのか。
◇◇◇
8日、バンキシャ!は、伊勢エビの名産地三重県・伊勢市へ。伊勢エビ料理の専門店では…
店員
「どうぞ。お造りです」
中サイズの「伊勢海老の活け造り」が7590円。
実はいま、困っていることがあるという。
伊勢海老料理専門店 えび勢 店長
「なかなか欲しいサイズがそろわないのが現状ですね」
「去年(2023年)が全然(伊勢エビが)とれなかったので」
三重県では2022年、伊勢エビの漁獲量が163トン(2018年は311トン)。4年でほぼ半分になってしまった。
三重大学大学院の松田浩一教授によると、伊勢エビが減少した理由は、海水温が高くなるなどして海藻が減少し、エサとなる生物が減ったことが原因のひとつだという。
こうした状況に、地元(南伊勢町)の水産会社は悲鳴を上げていた。10月1日に伊勢エビ漁が解禁され、いまが最盛期のはずだったが…
バンキシャ!
「(きょう)とれた量は?」
丸池 池村良平 代表取締役
「とれた量としては少ないですよ。いつもよりも全然。激減」
この会社では伊勢エビの発送なども行っているが、漁獲量が減少し、注文に対し数が足りなくなる日も。
池村 代表取締役
「伊勢エビが三重だけでそろわなくなってきているので、他県の伊勢エビも仕入れるようになってきたなっていうのは、数年前から変わってきている」
どうしても足りなくなった場合、他の県でとれた伊勢エビを取り寄せて発送。客には産地をしっかりと伝えているという。
「これがいまの現実かなというところですね。100%(三重の伊勢エビ)になることをこの先信じて、これからも頑張って、伊勢エビ屋をやっていきたいなと思っていますね」
漁師は苦しい胸の内を明かしてくれた。
漁師
「やめていく漁師がやっぱり多いですね。もうこのままだと生計が成り立たないって」
「とにかく個体数が減って1網に1匹かからない。それがみんなの愚痴ですね。さあいつ辞めようかと」
専門家の三重大学・立花義裕教授は、こうした地球温暖化が長引けば、私たちの食生活や漁業そのものが、変わっていくことが余儀なくされると指摘している。
*11月10日放送「真相報道バンキシャ!」より
◇◇◇
9日、早朝。
桝太一キャスター
「もう魚市場の電気がついている」
桝が向かったのは、宮城県・石巻漁港の市場。
「たくさんの魚がすでに水揚げされています。これなんか、これからおいしい季節じゃないでしょうか。立派なアンコウですね。そしてヒラメ、カレイも揚がっていておいしそうですね」
こうした三陸の海の“常連”に交ざっていたのが…三陸の海になじみの薄い生き物たち。
「その中に伊勢エビが入っていますね」
生息地の北の限界が「茨城あたり」とされていた、伊勢エビも。
桝キャスター
「伊勢エビをさっき見かけたんですけど、いるもんですか? この辺って」
宮城・大崎市 鮮魚店を経営
「普通はいません」
さらに、水揚げされていたのは…
桝キャスター
「おおお! タチウオだらけ」
西日本での漁獲量が多いことで知られるタチウオ。
「タチウオって東北でとれたことはあったんですか?」
石巻魚市場 佐々木 茂樹 社長
「今まではなかったです。ここ4~5年で水揚げが急激に増えた魚種のひとつです」
桝キャスター
「へえー」
宮城県では2024年、タチウオの漁獲量が、7日時点で451トン。これは10年前の約65倍だ。(2014年は年間7トン/宮城県水産技術総合センターによる)
いま三陸の海で、何が起きているのか。
◇◇◇
2023年6月からの1年間で、海面水温がどれだけ上昇したかを表すデータ(提供/東北大学・杉本周作准教授)。日本の三陸沖は、平均で6℃、海面水温が上昇。これは観測史上初めての記録で、世界で最も海面水温が上がった海になったという。
海洋や気象の変化に詳しい専門家は…
東北大学 杉本 周作 准教授
「最近よく使われる言葉として、『海洋熱波』という言葉があります」
桝キャスター
「すごい言葉ですけど、どういう定義なんでしょうか?」
杉本准教授
「(海洋熱波は)水温が高い状態が数日以上続くという、期間をもって定義されるものになります。三陸沖でこれだけ大きな海洋熱波が持続しているのは、非常に珍しいことだと思います」
◇◇◇
海洋熱波が起きている、その海に…桝が潜った。
桝キャスター
「不思議です、この光景は」
9日、桝が潜ったのは、宮城県女川町の海。
「三陸の海がどんな風に変わってしまっているのか、潜って見てきます」
「そろそろ水底につきます。だいたい水深は15メートルくらいですね」
桝がみつけたのは、様々な海の生き物たち。
「あー、いました、いました! “女川のアイドル”ダンゴウオちゃんです。この子はもう女川の海の象徴ともいえる存在ですよね」
「あー、ミナミハコフグの幼魚だ、かわいい! 私の一番好きな魚です」
中でも桝の目を引いたのは…
「ハタタテダイだ! いやー、こんなのもいるのか」
三陸の海には生息しないとされてきた、カラフルな“南の魚”。
「11月の三陸の海に。不思議ですね、この光景は」
するとそこに…
「あれ、伊勢エビですね。しかも、まあまあなサイズでは」
水温20℃前後の暖かい海を好む伊勢エビが。
「これくらい大きいサイズになるのは珍しいですね。伊勢エビの子どもが黒潮に乗ってくることは知られていますけど、東北の海に定着しちゃっているんですかね」
「おーい、ここは伊勢じゃないぞ、三陸だぞ」
さらに…
「あ、ここにもいるぞ! ここにも伊勢エビがいます」
伊勢エビが、三陸の海で成長していた。
「いやー、不思議な光景でした。『何でおまえいるの?』っていうのが結構いましたね。三陸の海に潜っているのであってるよな? しかも11月…」
一緒に潜った地元のダイバーは…
ダイバー 高橋正祥さん
「伊勢エビもやっぱり増えましたね。年々サイズが大きくなってきている」
桝キャスター
「今まではこんなに普通に見かける感じではなかった?」
ダイバー 高橋正祥さん
「5、6年前くらいから小さい伊勢エビはいたんですけど、大きくなってきたのは初めてかなと思います」
「生き物も変わってきていると正直感じます」
◇◇◇
8日、隣の福島県でも。(いわき市/いわき・ら・ら・ミュウ)
バンキシャ!
「大きい伊勢エビがたくさんいます」
1キロを超えるほどに大きく育った伊勢エビ。
福島県では伊勢エビの漁獲量が年々増えていて、2023年はおよそ9.3トンに。6年前の15倍以上になっている(福島県水産海洋研究センターによる)。
2023年7月にオープンした店では、多くとれるようになった伊勢エビを、“磐城イセエビ”と銘打って販売。名産品にしようと動いている。
上野台豊商店 上野台優 代表取締役
「伊勢エビだと伊勢のイメージが強いので。伊勢だけじゃなくて、いわきにもありますし、福島でも伊勢エビがとれますよってことを知ってもらいたい」
◇◇◇
海面水温の上昇はなぜ起きたのか? その背景には、地球温暖化の影響があると専門家は指摘する。
異常気象や気候変動などに詳しい 三重大学 立花義裕 教授
「いろんな研究があるが、(海面水温の上昇の)ひとつには、偏西風の蛇行が一因だと思います」
専門家によると、通常の偏西風はほぼまっすぐに流れるが、現在は地球温暖化の影響で蛇行。この偏西風が海の中の海流にも影響を与えるという。
その結果、黒潮は北上し三陸沖の方へ。海面水温を異常な高さにしていると分析した。
その影響はいいことばかりではない。伊勢エビが名産の三重県では何が起きているのか。
◇◇◇
8日、バンキシャ!は、伊勢エビの名産地三重県・伊勢市へ。伊勢エビ料理の専門店では…
店員
「どうぞ。お造りです」
中サイズの「伊勢海老の活け造り」が7590円。
実はいま、困っていることがあるという。
伊勢海老料理専門店 えび勢 店長
「なかなか欲しいサイズがそろわないのが現状ですね」
「去年(2023年)が全然(伊勢エビが)とれなかったので」
三重県では2022年、伊勢エビの漁獲量が163トン(2018年は311トン)。4年でほぼ半分になってしまった。
三重大学大学院の松田浩一教授によると、伊勢エビが減少した理由は、海水温が高くなるなどして海藻が減少し、エサとなる生物が減ったことが原因のひとつだという。
こうした状況に、地元(南伊勢町)の水産会社は悲鳴を上げていた。10月1日に伊勢エビ漁が解禁され、いまが最盛期のはずだったが…
バンキシャ!
「(きょう)とれた量は?」
丸池 池村良平 代表取締役
「とれた量としては少ないですよ。いつもよりも全然。激減」
この会社では伊勢エビの発送なども行っているが、漁獲量が減少し、注文に対し数が足りなくなる日も。
池村 代表取締役
「伊勢エビが三重だけでそろわなくなってきているので、他県の伊勢エビも仕入れるようになってきたなっていうのは、数年前から変わってきている」
どうしても足りなくなった場合、他の県でとれた伊勢エビを取り寄せて発送。客には産地をしっかりと伝えているという。
「これがいまの現実かなというところですね。100%(三重の伊勢エビ)になることをこの先信じて、これからも頑張って、伊勢エビ屋をやっていきたいなと思っていますね」
漁師は苦しい胸の内を明かしてくれた。
漁師
「やめていく漁師がやっぱり多いですね。もうこのままだと生計が成り立たないって」
「とにかく個体数が減って1網に1匹かからない。それがみんなの愚痴ですね。さあいつ辞めようかと」
専門家の三重大学・立花義裕教授は、こうした地球温暖化が長引けば、私たちの食生活や漁業そのものが、変わっていくことが余儀なくされると指摘している。
*11月10日放送「真相報道バンキシャ!」より
最終更新日:2024年11月16日 19:57