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【皇室コラム】天皇陛下 沖縄とベルリンでかみしめた平和の貴さ

2022年6月23日 6:00
【皇室コラム】天皇陛下 沖縄とベルリンでかみしめた平和の貴さ
1987年9月19日/沖縄・ひめゆりの塔

沖縄戦が終結した慰霊の6月23日が今年も巡ってきました。その日に黙とうを欠かさない天皇陛下が、沖縄を初めて訪問されたのは1987(昭和62)年9月、27歳の時です。偶然にもその旅は、昭和天皇の病気が明らかになった日に始まって手術の当日に終わり、訪問がかなわなかった昭和天皇の無念さに重なる記憶でしょう。1か月半後には当時の西ドイツで冷戦の象徴「ベルリンの壁」も目にされ、その年は、戦争を知らない世代の陛下が世界的な視野で「平和の貴さ」をかみしめた注目すべき年でした。(日本テレビ客員解説員 井上茂男)

【皇室コラム】「その時そこにエピソードが」第18回〈天皇陛下 沖縄とベルリンでかみしめた平和の貴さ〉

■昭和天皇の病気に衝撃が走った日の出発

1987(昭和62)年9月19日の土曜日。昭和天皇のニュースに衝撃が広がる中で、浩宮時代の天皇陛下が初めて沖縄に向かわれる朝を迎えました。

「天皇陛下、腸のご病気」「手術の可能性も」「沖縄ご訪問微妙」――。朝日新聞が朝刊で報じたスクープを、テレビも、ラジオも、新聞も一斉に追い、ニュースは天皇の病状報道一色になりました。

その年は皇室にとって特別な年でした。9月に沖縄県で開催される第42回国体(海邦国体)の「夏季大会」に浩宮時代の天皇陛下が出席し、10月の「秋季大会」には昭和天皇が天皇として初めて沖縄を訪問、11月の「全国身体障害者スポーツ大会」(かりゆし大会)には当時の皇太子ご夫妻(上皇ご夫妻)が訪問される予定だったからです。

沖縄で開催される国体は全国一巡の最後を飾る大会でした。夏季大会は前年から浩宮時代の陛下が出席されるようになり、天皇の初訪問が実現するだけでなく、天皇家3代――親、子、孫が相次いで沖縄入りするはずでした。

戦後、昭和天皇は敗戦で打ちひしがれた人々を励ますために全国を回りましたが、米軍占領下の沖縄だけ残りました。メディアは“戦後巡幸の締めくくり”ととらえ、先駆けとなる陛下の時から大規模な取材態勢を組んでいました。そこに昭和天皇の病気です。同行を予定していた記者の多くは東京に残り、病状の取材に走りました。

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■県民の4人に1人が犠牲になった沖縄戦