【特集】絵本で伝えるヒロシマ 伝承者3人が絵本を制作 未来への伝承
原爆投下から78年余り。被爆地の今と将来のあり方を探る「つなぐヒロシマ」です。今回取り上げるのは、被爆者に代わって体験を語り継ぐ「伝承者」による新たな取り組みです。
学童疎開した先で振るわれた暴力。そして上空を覆うキノコ雲。この絵は、11歳で被爆した1人の男性の体験をもとに作った絵本の一部です。
手掛けたのは、菅昭彦さんと、沖本直子さん、中本実鈴さんの3人。広島市の「被爆体験伝承者」として、「あの日」の記憶を語り継いでいます。そして、その記憶を形として残したいとの思いで、1冊の絵本を上梓しました。
■沖本直子さん
「3人で話し合うと、いろいろ違っているという面もあるし、3人とも聞いたよねって確認出来たところもある。」
絵本の主人公・瀬越睦彦さんは、東京から広島に家族で疎開して被爆。晩年になり、その体験を証言し始めましたが、3年前に他界。今、3人の伝承者が語り継ぎます。
■中本実鈴さん
「たまに、どうだったかね、本人に聞いてみたいなということがある。」
瀬越さんの死後3年が経った頃に出来上がった絵本。3人がイラストや原稿・校閲などを分担し、完成に漕ぎ着けました。絵本には、広島から学童疎開した町でいじめにあった事や、原爆が落ちた瞬間などを26ページにわたり描きました。
■菅昭彦さん
「お母さんの顔は、無表情でろう人形のような顔をして青白く固まっていた。象徴的な印象に残る言葉で、我々の頭の中にはしっかり残っている。それを絵にしろというわけ。」
絵本には、瀬越さんへの畏敬の念が込められています。
この日、3人は瀬越さんが被爆した現在の南観音町にいました。劫火を逃れて歩いた道をたどる為です。閃光を見たのは、爆心地から約2キロにあった疎開先。朝食をとろうとした瞬間でした。
■3人
「たぶんこのへんじゃないかと。」
「ここからこういう風に逃げたんじゃないか。」
瀬越さんの体験を、自らに起きた事のように話す。その為にも、現場の訪問は欠かせません。
■3人
「知らなかった事がわかった。」
「聞いた話が、実際にあーここだったんだというのが実感としてね。」
記憶をたどり、現場で感じたことを3人で語り継ぎます。
11月、完成した絵本を初めて多くの人に披露しました。
■菅昭彦さん
「一番前に」
■瀬越英子さん
「え~、一番前?!」
瀬越さんの妻・英子さんが、亡き夫の伝承者による証言を聞くのは初めて。招待した20人と共に、絵本を贈りました。
■菅昭彦さん
「お父さんは仕事があるので東京に残ります。列車が動き始めるとお父さんは睦彦の手を取り、言いました。いいな睦彦。お母さんを頼んだぞ」
伝承者の菅さんが、絵本に掲載した絵を見せながら、証言します。
■菅昭彦さん
「今でも瀬越先生の声が頭の中で響きます。これからは、おまえらが原爆を伝えていく番じゃ。ええのう、ほんまにたのんだで。」
■瀬越英子さん
「感動しました、今日は。嬉しかった。来てよかった本当に。」
■菅昭彦さん
「伝わって受け取った人が、何を反応するのか、絵本を持って家の人に何を話すのか。私には分からない部分かもしれません。フィードバックがあれば、伝わったんだなと思う。」
78年余り前、ヒロシマで起きた出来事を伝える3人の伝承者。「絵本」という新たな手段を通して、今は亡き瀬越さんの体験がより多くの人に伝わることを願う、「令和の冬」です。
【テレビ派 2023年12月7日放送】