長崎くんち【興善町】絢爛豪華 “能” 由来の本踊 歌舞伎の効果音で勇壮な連獅子×蝶の精の美《長崎》
今年の「長崎くんち」で、能の演目「石橋」を取り入れた「本踊」を奉納する興善町です。
諏訪の杜で絢爛豪華な奉納を目指します。
文殊菩薩の浄土で舞い踊る連獅子と、かれんで優美な蝶や楽の精たちを表現。
今年は6人の踊子と、4歳から10歳までの子ども踊子9人のあわせて15人が演じます。
興善町が奉納するのは「時秋 諏訪宮日 獅子賑」。
「能」の中でも格式の高い「石橋」をもとにした本踊で獅子の勇壮さと、蝶の精の美との対比、調和が見どころです。
「石橋」を象徴する紅白の獅子を舞うのは、『日本舞踊 藤間流』の名取り 藤間織月さんと藤間織貴祥さんです。
(白獅子 藤間織月さん)
「毛振りは一番だが、前回よりもさらに全体のまとまり感をご覧いただきたい」
指導するのは、前回 2014年から担当する藤間峰織貴 師匠です。
(藤間峰織貴 師匠)
「日本舞踊の古典的な美しさ、でもその中にくんちならではの新しい構成なども入れて届けたい」
稽古が本格的に始まった6月中旬。
腰の落とし方。間の取り方。
前回も獅子を演じた 藤間織月さんでさえ、感覚を取り戻すのに一苦労です。
(白獅子 藤間織月さん)
「物語を意識するように言われているが、動きに集中するとそれを忘れてしまう」
もうひとつの獅子「赤獅子」に初挑戦するのは、織貴祥さん。
目指す演技は…。
(赤獅子 藤間織貴祥さん)
「前回とはタイプが違う。勇ましい力強い獅子を目指して頑張っている」
興善町は、“音” にもこだわりがあります。
歌舞伎独特の効果音であるツケの音。
前回から取り入れた趣向で、獅子の迫力ある動きを引き立てます。
担当するのは、藤間織星さんです。
( 附け打ち 藤間織星さん)
「普段 音楽が好きで、音に興味がある。音で踊り全体を盛り上げるというところに大変共感し、やってみたいと思った」
前回より、派手に、そして大胆に。
附け打ちの第一人者で知られる山崎 徹さんを東京から招いて直接、指導を受けます。
(附け打ち第一人者 山崎 徹さん)
「首の振りだけじゃなく、右足が伸びている感じとか、くせみたいなのがある。そこを狙ってもらう」
獅子の動きに合わせようとしますが、思うようにタイミングがつかめません。
(藤間峰織貴 師匠)
「スピードを速くするとかではなく、力をぐっと封じ込めて。そこから上にあげていく」
この日の稽古は本番と同じ生演奏。
スピードやリズム感…。
それぞれの場所や雰囲気を感じながらの演奏。
その生の音にあわせて踊ることの難しさに直面していました。
(白獅子 藤間織月さん)
「やっぱり難しいと実感した」
(赤獅子 藤間織貴祥さん)
「録音と生の音では全然違う。タイミングや間の取り方というのが、今後の課題になる」
前回との違いを見せたいと意気込む織星さんは…
( 附け打ち 藤間織星さん)
「獅子の勢いをより増して、より華やかな感じを出すとか。タイミングよく入ると多分とっても気持ちいいはず。そのように入れられるとベスト」
7月。諏訪神社での初めての場所踏みです。
室内の稽古場とは異なり、凹凸のある石畳。
足元に気を取られ、動きが小さくなってしまいます。
初日の稽古は、約1時間。
(藤間峰織貴 師匠)
「きょうは何となく踊りどころではないというか、あまり美しくはなかったが、きょうの感覚をよく覚えて」
1か月間の稽古の成果が思うように発揮できず、新たな課題も。
(白獅子 藤間織月さん)
「外になると音も聞こえづらくなったり、足袋で室内で稽古するより足の滑りが違う」
ツケの音も屋外では、これまでよりも力を込めなければ納得のいく響きが出せません。
( 附け打ち 藤間織星さん)
「踊場はすべて石畳。手に来る衝撃が (床と)ずいぶん違う。まだまだお稽古と工夫が必要」
峰織貴 師匠は、踊子たちの意気込みに期待を寄せます。
(藤間峰織貴師匠)
「待ちに待ったというような気持ちがこもっていると思った。そのエネルギーをしっかりと本番に向けて発散し、素晴らしいものに変わっていくといい」
本番を1か月後に控えたこの日、獅子を舞う2人が心待ちにしていたのが、稽古用の「獅子の毛」です。
身長よりも長い毛は、重さが約3キロもあります。
(白獅子 藤間織月さん)
「まっすぐ立っているのが(きつい)。頭に重みが一転集中するので。下ろして振っている時の方が楽」
本番では30分間、この重さをコントロールしながら舞を披露します。
獅子の舞いをより豪快に、より大胆に魅せるツケの音。
めざす奉納は、目前です。
(白獅子 藤間織月さん)
「毛も来たので、あとは2人で毛をきれいに振れるように、意識しながら動いていきたい」
(藤間峰織貴 師匠)
「あと1か月しっかりと磨きをかけて皆様に喜んでいただき神様にも喜んでいただけるような奉納にしたい」
伝統を重んじながら進化を求め続ける興善町の本踊。
まちの期待を一身に、諏訪の杜で絢爛豪華に舞い踊ります。