難航するトンネル工事 札幌延伸延期…まちづくりへの影響は?JR北海道にも打撃 北海道新幹線

「経済効果が先送り…」札幌延伸8年延期
2030年度末を目指していた北海道新幹線の札幌開業が、2038年度末以降に延期されることが正式に報告されました。
(有識者会議 森地茂座長)「大変難しい状況。これから掘るところの不確実性が多くある。そのなかでも分かる限りの情報で可能な工程短縮は何なのか技術的に議論した結果、2038年度末の見込みを立てて報告した」
(鉄道・運輸機構 藤田耕三理事長)「沿線の皆さまなど強い期待をいただくなか、完成開業が大幅に遅れる見通しとなったことを、建設を担う主体として心からおわびを申し上げたい」
開業延期に札幌市民はー
(40代女性)「(開業が)遅くなってしまうと、駅前がつまらない感じになってしまうと思う。地方から人も来なくなってさみしいなと思いました」
(80代男性)「元気だったら乗りたいですよ。でも自分の年齢を考えたら厳しいかなと」
秋元札幌市長は会見で、道内経済への損失を抑える必要があると述べました。
(秋元札幌市長)「過大幅な開業時期の遅れとなれば、新幹線の開業で想定される人の流れや経済効果が先送りされる。国としてマイナスの影響を小さくする方策を求めていく必要があると思う」
札幌延伸の整備に関する国の有識者会議のメンバーで、北海道大学大学院工学研究院の岸邦宏教授です。
(宮永キャスター)「札幌開業が2038年度末以降に延期されることをどう受け止めていますか?」
(北大大学院工学研究院・有識者会議メンバー 岸邦宏教授)「私は2つ立場があり、有識者会議のメンバーとしてはこれまで数か月にわたって議論を積み重ねた結果なので、妥当な結果と受け止めている。一方で交通計画の研究者としては、今まで2030年度の札幌開業を見据えていろいろな研究をやってきたが、やはり残念だという思いで受け止めている」
2038年度末まで開業が先延ばしとなった主な原因は、建設工事が複数の工区で難航していることです。
2016年3月、新函館北斗と新青森の間で一足早く開業した北海道新幹線。
「次は札幌へ」
2030年度末の延伸を目指して工事が進められてきました。
新函館北斗から札幌までは延長212キロ、その8割を占めるのが17本のトンネルです。
このうち、渡島トンネルでは軟弱な地盤の影響で工事が難航。
羊蹄トンネルでは2021年に巨大な岩が立ちはだかり、掘削が一時中断しました。
建設を進める鉄道・運輸機構は2024年5月、複数の工区で最大4年の遅れが発生したことなどを理由に、2030年度末の札幌開業が極めて困難と発表しました。
しかし、羊蹄トンネルはいまも難工事が続いています。
(鉄道・運輸機構 後志建設事務所 上松苑工事長)「ここからがシールドマシンになります。ここから先は本当に狭いところになります」
羊蹄トンネル有島工区の入り口から2.5キロの地点にあったのは、トンネルを掘るシールドマシン。
掘削で出てきた土砂を運ぶベルトコンベアや、トンネルの壁を作るためのコンクリートの配管が設置されています。
さらに進むとー
(鉄道・運輸機構 後志建設事務所 上松苑工事長)「ここはシールドマシンの先端部になっていまして、ここの壁より先が地山、山になっています。ちょうど目の前、数メートル先で岩塊、もしくは岩塊群がぶつかっていてトルクの上昇が発生していますので、岩塊の撤去を行っているような状況」
羊蹄トンネルの両側、有島工区と比羅夫工区から掘り進めていますが、2021年に比羅夫工区で巨大な岩が見つかり掘削が停止。
反対側の有島工区でも岩が相次いで見つかり、掘削できない状況が続いています。
(鉄道・運輸機構 後志建設事務所 上松苑工事長)「取り出した岩のごく一部なんですけど、大きい岩塊をいま置いている。かなり硬い安山岩で、こういった硬い岩塊ですと、大きさも含めてシールドマシンで掘削することが難しいので、事前に撤去している。この辺で98か所あって、そこの岩塊を全部取り除いている」
現在、直径2メートルほどの筒を地上から地中に入れて、岩を真上から除去する作業が続けられています。
(鉄道・運輸機構 後志建設事務所 上松苑工事長)「羊蹄山のこの付近の地質がかなり地下水位が高くて、かつ軟弱な山の中に安山岩のような岩塊がある。そういった地質になっていてかなり難しい山。開業の遅れに関しては、北海道新幹線を期待していただいた方には大変申し訳なく思っています。より1日でも早い貫通ができるように安全第一でいいものをつくれるように頑張っていきたい」
複数のトンネルで工事が遅れていますが、技術的な難しさはどんなところにあるのでしょうか。
(北大大学院工学研究院・有識者会議メンバー 岸邦宏教授)「現場のみなさんは相当大変な対応をしていると思うが、もともと2030年度に間に合わせるために、この工法でいこうとやってきていたのが、やはり自然相手で想定を超えてしまった。やってみなければわからないところがトンネルの難しさだと言われている」
(宮永キャスター)「また新たに巨大な岩が見つかった場合などは(開業が)さらに遅れる可能性もある?」
(北大大学院工学研究院・有識者会議メンバー 岸邦宏教授)「2038年度という見通しも、ある程度の岩塊は想定されているが、それを超える岩塊がまた出てきたら、さらに開業が延びると(報告書に)まとめられている」
有識者会議では札幌ー倶知安間の「部分開業」についても議論されました。
難しいのでしょうか?
(北大大学院工学研究院・有識者会議メンバー 岸邦宏教授)「新函館北斗から札幌までという1つのシステムで新幹線ができるところが、今度は札幌と倶知安の間ですべてのシステムをとなると、例えば車両基地の新たな設計変更や、電力の設備も変えなければいけないなど、そのあたりを分析すると実はそんなに短縮ができるわけではなく、逆に全体の開業にさらに影響を与えると議論してきた。なので実際には(部分開業は)厳しい」
新幹線開業を見据えて札幌駅周辺の再開発などが進められていますが、開業の延期でまちづくりにはどんな影響があるのでしょうか。
(山岡記者)「JR札幌駅の東側では、北海道新幹線駅の札幌延伸に向けた工事が着々と続けられています」
2030年度末の札幌開業を見据えて進められてきた新幹線の工事。
札幌駅の東側には、創成川をまたぐ形で新幹線の駅、さらにバスターミナルも入る新たな複合商業ビルが建設され、各地を結ぶ交通ネットワークの中心になります。
開業時期の遅れはまちづくりへの影響が大きいと、これまで秋元市長は懸念を示してきました。
(秋元市長)「民間の投資も非常に大きくなっていくので、その目標値として新幹線が開業する前にいろいろなものを完成していこうといままで動いていることは事実。その時期が変更ということになれば影響が少なからずあるかもしれないと危惧している」
後志の倶知安町でも建設工事が進められています。
札幌までは在来線で2時間かかるところを、新幹線が走ればわずか25分。
新幹線駅はいまの駅の場所につくられ、さらに駅前広場や交流施設も整備されます。
開業の遅れにより、計画の変更を余儀なくされるといいます。
(倶知安町まちづくり新幹線課 桜井昌之課長)「今後またスケジュールの調整や変更など、開業時期がしっかりと示された後に考え直さなければならない状況になっている。マチ自体も新幹線が来ることによって、住民の生活や店など暮らしが大きく変わりますので、延びたということはまさに残念なこと」
交通ネットワークという部分では、新幹線札幌駅を中心として、道内各地を結ぶという構想でしたが、それが遅れることに対してどのような影響がでるのでしょうか。
(北大大学院工学研究院・有識者会議メンバー 岸邦宏教授)「数年前のJR北海道の路線存廃問題を経て、北海道全体のネットワークを作っていこうということで、道庁を中心に取り組みが進められているが、いつを完成の目標にするかは並行在来線の問題や貨物鉄道をどうするかということも含めて、まずはそこの部分の議論を、もしかしたら見直さなければいけなくなるという影響はあるかもしれない」
道の試算では、開業後10年間でおよそ2兆6000億円の経済効果があるとする一方、事業費は当初の計画から6450億円増えて、2兆3150億円に膨れ上がりました。
開業延期で、さらに費用負担が増える可能性もあるのでしょうか。
(北大大学院工学研究院・有識者会議メンバー 岸邦宏教授)「いまやっている需要推計にはインバウンドが含まれていない。なので事業費の見直しも必要だが、本当に新幹線による効果を改めて見直すことも必要だと思う」
開業延期で大きな打撃を受けるのが、JR北海道です。
開業後の2031年度に経営自立を目指していましたが、見直しが必要でしょうか。
(北大大学院工学研究院・有識者会議メンバー 岸邦宏教授)「経営の自立は、道民にとっては持続可能な鉄道ネットワークが維持されることだと思う。たとえばいま、北海道各地で鉄道の利用促進やこれから費用負担の議論が始まってくると思うが、そこの部分が止まってしまうことはあってはならなくて、われわれができることは引き続きやっていかなければいけないというところが大事だと思う」
新幹線がない空白期間のマチづくりをどう進めていくか、今後は考えていく必要があります。