北海道の海に大量のフグ 漁獲量が急増 フルコースも提供 海水温上昇が原因か
気候の変化にともない、北海道で漁獲量が急増しているのが「フグ」です。
しかし、フグといえば西日本で食べられている印象が強く、北海道では食材としてあまり親しまれていない現状があります。
そんな「フグ」を有効活用する取り組みが始まっています。
定置網に大量のフグ 北海道で漁獲量が急増
北海道南部の函館市です。
近年、海である変化が起きているといいます。
元気に体を動かしているのは大量のフグ!
地元の名産であるイカをとるために仕掛けた定置網に入っていたということです。
(撮影した漁師 熊木祥哲さん)「海水温の上昇で、マイワシのほかにサバ、そしてフグがかなり揚がっています」
さらに、オホーツクの網走でもー
地元の漁業関係者を驚かせるほどフグがたくさん獲れていました。
(北見食品工業 田中京佑さん)「ここ数年2~3匹は入っていたのですが、ことしは100倍くらい入っているのではないか。あまり馴染みのない魚だったので我々は驚いています」
実はいま、道内でのフグの漁獲量は増加傾向にあります。
なかでもここ数年は急増していて、10年ほど前と比べて10倍近く獲れた年も出てきています。
フグの本場・山口県を上回る全国一の漁獲量
さらに都道府県別でみると、北海道は2位の石川県の倍以上獲れているほか、フグの本場・山口県と比べても圧倒的に多い漁獲量となっています。
そんなフグをさっそく活用しているのが、函館・五稜郭にほど近い居酒屋です。
この日、店に入荷していたのは「フグの王様」とも呼ばれるトラフグ!
実はこれも地元・函館の海で獲れたものです。
料理の腕をふるうのは、東京でおよそ30年前にフグ免許をとった店主です。
トラフグのほか、真フグやゴマフグもさばいて完成したのが…
「てっさ」に「鍋」、「カルパッチョ」など、まさにフグのフルコースです。
(根本記者)「函館市内で獲れたトラフグをいただきます。コリコリとした食感があって、薬味にポン酢が絡まっておいしい味わいが口の中に広がります」
(旬味 千 中里勇さん)「ここ5年くらいじゃないですかね。店が(地元のフグを)提供するようになったのは」
(根本記者)「周りで免許持っている人は?」
(旬味 千 中里勇さん)「僕の知る限り1人もいないですね」
海水温が上昇 クロマグロが獲れた日も
なぜ急に道内でフグが獲れるようになったのでしょうか。
(東海大学生物学部 山口幹人教授)「各研究機関が水温を定期的に調査していて、徐々に高まっているというデータはあります。天然の魚の資源は自然界で増減を繰り返す。それといま注目を浴びている気候変動・温暖化の問題と重なって、どちらが効いているかというのはなかなか分離しにくい問題だが、その両方が関わっている可能性があります」
こうした海の変化は各地で起きています。
日高のえりも町です。
例年であればサケの水揚げがピークを迎える時期ですが…
この日獲れた秋サケはわずか20匹ほどでした。
(えりも鮭定置網部会 佐藤勝部会長)「いままで経験したことがないぐらい悪いね」
網走でもサケを狙っていたはずが、船の上にはさまざまな種類の魚が!
よく見るとブリがたくさん混じっています。
そしてなんと、暖かい海を好む大きなクロマグロが網走で獲れた日もあったといいます。
釣り人の竿にかかる魚も変わっているといいます。
(函館市民)「昔はこんな小さいフグだったのが最近大きい。そして一年中釣れる。昔は秋くらいだったんだけど」
たくさん獲れても道民にはなじみが薄いフグ
しかし、道内ではフグに対してなじみが薄い印象です。
(札幌市民)「一切食べません、食べたことないです。食当たりするイメージがあるから。昔の人がそう教えてくれた」
(札幌市民)「札幌にはおいしい魚が(フグ以外にも)たくさんある。免許と毒を処理する人に直接処理してもらわないと」
食べる文化がないことに加え、さばく人が少ないことも道内でフグが普及しない理由になっているといいます。
(道 食品衛生課 根本卓弥課長補佐)「北海道は免許制度をとっていなくて、フグ処理者試験を行って、その合格証書をもって認定するという形をとっている。試験制度が始まったおととしと去年では、20人の方だけということになります」
フグを有効活用 加工法の研究が始まる
そのなか、これまでフグを扱ってこなかった水産加工業者が新たな挑戦を始めています。
朝から油で揚げていたのが。道内で獲れたフグ。
(従業員)「おいしい。全体的にさっぱり系。白身だからね」
この水産加工業者は、地元の漁師から届くフグなどのいわゆる「未利用魚」を調理して試食し、おいしい加工法などを研究しています。
(福田海産 福田久美子さん)「フグは冬場なので鍋の材料に使いたい。十分これでも出汁は良いのではないかと思うので、鍋料理を提供していきたいと思います」
あまり使われてこなかったほかの魚は、一部が商品化され、新たなプロジェクトとして地元を中心に親しまれています。
このようなフグなどの「未利用魚」を提供している漁師も、活用法をさぐっていこうと意気込んでいます。
(撮影した漁師 熊木祥哲さん)「地産地消でまず地元の人に食べてもらう活動をしなきゃなと強く感じています。いろんな人と一緒になってやれればマチも元気になるし、みんな潤っていくのかな」
フグの陸上養殖も 新たな特産品に
そして、フグは札幌のとなり・江別市でもー
(根本記者)「いまや道内でフグが獲れるのは海だけではありません。こちらのビニールハウスの中にもフグが泳いでいます」
中に並んだ大きな丸い水槽。
カメラを沈めてみると…
大きなトラフグが泳ぎ回っています。
実は、海のない江別で陸上養殖が行われています。
ここで育ったフグは、同じ敷地内のレストランで振る舞われていて、誰でもフグのコース料理を食べることができます。
(ココルクえべつ 岡本祝総合施設長)「将来的にはふるさと納税の返礼品などで販路として活用できたら」
さらに、トラフグの養殖は北見市でも行われています。
いけすに使っているのは温泉水。
水温や水質がフグの養殖に適していて、1キロから1.5キロほどに育ったフグは、近くの飲食店などに卸しているということです。
新たな活用法が研究される「フグ」。
漁獲量の増加や養殖の普及で、北海道の新たな特産品になっていくかもしれません。