【思いも一緒に…】キノコの名物店を第三者に"事業承継" 高齢の創業者から引き継いだ34歳男性の思い 岩手県花巻市
10月のシリーズ「つなぐ」。1回目は、花巻市東和町にある山菜とキノコの専門店が舞台です。先代の店主が始めた地元商店街の名物店でしたが、あるじの体力的な理由から2023年、第三者に事業が引き継がれました。
花巻市東和町。土沢商店街にも秋がやってきました。ずらりと並んだ秋の味覚。初物のマツタケも!山の幸を販売している「土沢や(つちざわや)きのこやおいよ」は、1年で最も忙しい時期を迎えています。
客
「これで」
スタッフ
「ありがとうございます」
そうした中で、この文化を守り、未来へつなげようと新たな挑戦も始まっていました。
2002年にオープンした「きのこや おいよ」。地元の人たちが採ってきた山菜やキノコを買い取り、直売する専門店です。
創業者の及川忍さん。キノコ採りの名人としておよそ20年、自らも山に入り、お店を運営してきました。
しかし、及川さんは今年で80歳を迎え、体力の限界を感じる中、葛藤が続きました…。
及川忍さん(80)
「(地元のキノコ採りの仲間から)売るところがなくなるから続けてほしいと言われた。その人たちの思いもありやめたくなかった。それで事業承継を進めた」
及川さんは、お店の経営を第三者へと引き継ぐ「事業承継」を選択。セミナーの実施や面談を経て後継者が決まりました。
ことし4月から新たに事業を引き継いだのは、盛岡市の2WAY(ツーウェイ)というコンサルティング会社です。
株式会社2WAY 代表 佐藤陽一さん(39)
「うちで持っている通販システムという資産が全く生かしきれていなかった。通販の得意な会社に引き継いでもらいたいという話だったので、うちじゃないか!ということで」
現場を託されたのは菅原郁弥さん(ふみや)。前職で培った通信販売のノウハウを生かし、販路拡大を目指します。
しかし、山菜やキノコに関しては全くの素人。先代の及川さんと働けるのは残り半年。出来る限りの知識と技術を習得しなくてはなりません。
菅原郁弥さん(34)
「ありがとうございます。」
持ち込まれたマツタケやキノコは、その場で鑑定をして買い取ります。正確なチェックとスピードが大事ということですが…。
及川忍さん
「もっとスピードを上げてやっていかないと、追いつかなくなるよ 」
菅原郁弥さん
「やっぱり物の見極めが早い。僕は物をグルグルしたりやってるんですけど、これはダメだって触っただけでも分かる。やっぱり達人なだけに何かあるんですかね」
急ピッチの技術の継承ですが、及川さんが一番、大事にしていることがありました。
及川忍さん
「(地域に)支えられている。20年も経つとお客さんとのつながりがね。キャリアがあるキノコ採りたちとも信頼が出来き、それで成り立ってきた」
菅原郁弥さん
「やっぱり難しいなぁとは思います。及川さんがずっとやってきたことで信頼関係がある。及川さんの積み上げたものをそこも引き継げたらと思う」
新たなスタートを切った「土沢や きのこやおいよ」。菅原さんにとって「販路の拡大」は大きなミッションです。
関東を中心に各種レストランや料亭など、すでに数件のやり取りがあるようで…。
菅原さん
「香りのいいキノコを4~5種類1キロでちょうだいとか。焼いて使えそうなものとか…。やっぱり知識というのも必要ですよね。インターネットとかでレシピを見たりとか、勉強しながらやっている」
菅原さん
「人形ダケ、釈迦シメジ、マスタケ…」
だしがよく出るというキノコを箱詰めする菅原さん。この日は盛岡市の飲食店へ直接売り込みに向かいました。
菅原さん
「お邪魔します」「よくだしが出るキノコをお持ちしました」
和食 咲くら 阿部博久さん
「ほ?!」
菅原さん
「食べ方は酢みそとか。人形ダケはテイストは変わりますがリゾットとか。それだけ香りが良い」
阿部さん
「この辺は一般的じゃないよね?」
菅原さん
「そうですね、スーパーとかではなかなか」
阿部さん
「やる価値はあるかもしれませんね。我々もあまり知らない世界。教えてもらってお互いの相乗効果で。今後もよろしくお願いします」
菅原
「よろしくお願いします!」
菅原郁弥さん
「及川さんが何十年と積み上げてきたものをしっかり引き継ぎたい。思いも一緒に引き継ぎたい。時代に合わせた販売を広げていきたい。思いをつないでそれを広げていけるような形になればいいなと思います」
「事業承継」からつながった可能性。地元の魅力を育て、発信する場所が、新たな歴史を歩み始めました。