夏の暑さで1頭あたりの乳量が約2割減少 酪農家の苦悩
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今年の夏は、全国的に記録的な暑さとなりました。特に宮崎市では7月30日に観測史上最高の38.2度を記録するなど、例年を大きく上回る気温が続きました。
宮崎市、都城市、延岡市、日南市では6月から8月の平均気温が観測史上1位となり、この影響はさまざまな産業に広がっています。
中でも酪農業は、生乳の生産量が減少し、繁殖に悪影響を与えるなど深刻な打撃を受けています。
約140頭の乳牛を飼育している松浦牧場(新富町)では、1頭あたりの乳量が例年よりも約2割減少しました。
通常、1日あたり30キロ程度の乳が取れますが、今年は2割減の24キロ前後にとどまっています。
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原因は、牛の体が暑さによってエネルギーを生命維持に使い、食欲が低下することにあります。
松浦牧場の松浦千博さんによると、牛は肩で息をし、8月の最も暑い時期には口を開けてベロを出すほどの状態になっていたとのことです。
こうした暑さの影響は、牛が妊娠するために必要なエネルギーも不足させ、受胎率を大きく低下させる原因にもなっています。
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松浦牧場では、牛の食欲低下に対処するために、餌やりの方法を見直しました。
これまで1日1回だった餌やりを、午前6時と午後3時の2回に分け、暑さで発酵して熱を持った餌を避ける工夫をしています。
また、牛舎内の温度を下げるために扇風機の風量を強化し、ミストシャワーを導入するなどの対策も行いました。
これらの取り組みにより、牛が熱中症で倒れるケースや、夏場に多発する乳房炎などの病気は抑えられたものの、乳量減少や受胎率の低下は避けられませんでした。
今後の生乳生産への影響
県内173戸の酪農家を管轄するJA宮崎経済連では、今年度は乳牛がおよそ400頭増え、夏場の乳量の増加を見込んでいました。
しかし、実際には計画を下回る生乳生産量となり、7月上旬から9月中旬にかけての生乳生産量は、計画の95%前後で推移し、予定していた生産量より少ない結果となりました。
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さらに、受胎率の低下は来年夏の生乳生産にも影響を及ぼす可能性があります。
牛が妊娠すると、約10か月後に出産し新たな生乳生産のサイクルに入りますが、今年は受胎率が低いため、来年の夏に生産量が減少する懸念があります。
暑さに強い牛の導入と今後の課題
宮崎県内で飼育されている乳牛の99パーセントは、暑さに弱いヨーロッパ原産のホルスタイン種です。
JA宮崎経済連では、今後、暑さに強い種牛の精液を用いた受精や、比較的妊娠しやすい受精卵移植といった対策を進めています。
今のところ、供給が需要を下回る事態には至っていないものの、酪農家にとってこの暑さは経営に大きな打撃となっています。
円安の影響で飼料価格や電気代が上昇し、厳しい経営環境が続く中、生産量の減少が追い打ちをかけています。
JA宮崎経済連の内田好祐さんは「生産者や生産者団体も含め、真摯に取り組むべき課題」と話します。
消費者が日常的に乳製品を消費することで、酪農家の安定した経営を支える一助となります。
JA宮崎経済連は、乳製品を積極的に消費して酪農家を応援してほしいと呼びかけています。