市街地に現れる「アーバンベア」増加 対応にあたる山形県猟友会は高齢化進み人手不足の現状
私たちの暮らしに身近な出来事の現場を取材し、その背景や影響を探る「THE現場検証」です。6月、山形県内ではクマによる人的被害やサクランボの食害が相次いで発生しました。こうした中、クマの捕獲を行う猟友会はいま高齢化による人手不足に直面しています。取り巻く現状を取材しました。
近年、人への警戒心がないクマの出没が増えています。
岩手大農学部・山内貴義准教授「レベルが上がったというか、新たなフェーズに入った感じ」
一方、長年クマと向き合ってきた猟友会はいま、高齢化によってクマに対応しきれなくなるケースも出ています。
県猟友会・悪七美男副会長「年だからね、なかなか山に行って指導とかできなくなってきているから」
記者リポート「こちらが男性が襲われた登山道。入り口には規制線が張られている」
6月20日、県内でことし2件目となる人的被害が発生しました。クマに襲われたのは兵庫県の71歳の男性で、男性は頭や肩から出血するけがをしました。自力で下山し命に別条はありませんでした。
ふもとの蔵王温泉街では、観光客に注意を呼びかけるなど、対応に追われる事態となりました。
鹿児島から(Q男性がクマに襲われた)「ちょっと待って、クマが出たって。もう登らない、遠慮します。しょうがない」
県内のことしのクマの目撃件数は6月23日時点で132件で、このうち、3割近い39件が市街地での目撃でした。”人に近い”場所に現れるケースが後を絶ちません。
こうした山から市街地に降りてくる「アーバンベア」と呼ばれるクマが増えている背景には何があるのでしょうか。
県内のクマの捕獲状況などが適切かどうかアドバイスを行う県特定鳥獣保護管理検討委員会のメンバーも務める岩手大学の山内貴義准教授に話を聞きました。
岩手大・山内貴義准教授「クマの行動自体が大胆になっているというか、アーバンベア自体は実は十何年前から言われていて、人慣れしているクマがいるという話はあったが、ここまで頻繁に出るっていうのはちょっとレベルが上がったというか、新たなフェーズに入ったのかなと」
園地の所有者「うわー枝を折ってるるよ」
5月、南陽市のサクランボ園地に入ったのは体長70センチほどの子グマ。無我夢中で食べ続けるクマに対し音を鳴らし追い払おうとするもー
夢中で食べるクマ「(パイプ叩く)おい!全然逃げねえ…」
園地所有者「ちょっと仕事もしづらくて、嫌ですね。できれば山に入っていてほしい」
岩手大・山内貴義准教授「通常、クマは臆病な動物。人の近くに寄らず音を出すと逃げると言われているが、あそこまで大胆な行動をしているということは、相当もう人に慣れている。人のことを全く怖いと思っていない。ああいう個体はおそらく捕まえて遠くに放しても戻ってきてしまう」
こうしたクマによる被害を防ぐ活動に取り組んでいるのが猟友会です。狩猟免許を持った人たちが会員になっていて、県内には市町村や地域ごとに16の組織があります。県猟友会は依頼のあった住民の園地に罠や電気柵などを設置したり、春先は雪山でクマを捕獲したりするなどの対策を行っています。
県猟友会で副会長を務める悪七美男さん(75)。悪七さんは猟友会に所属して50年以上になりますが、年々、思うような活動ができなくなっているといいます。
悪七さん「ここ西村山地区でも、毎年20頭近く捕獲しているけど、ことしはたった1頭だけ」
県内では、猟友会が春先に捕獲するクマの数がここ数年で半減しています。要因の一つと考えられているのが猟友会の会員の「高齢化」です。
県猟友会・悪七美男副会長「30代、40代の頃は、この山に行っていなかったら、ほかの山を見て帰ってこられた。2か所も山を見てこられた。高齢化して、今まで行った距離も倍の時間がかかって歩かなきゃいけない」
県猟友会の会員数はいまから40年余り前の1978年が最も多く、7000人以上を数えました。しかしその後は減少の一途を辿り、10年前の2014年に過去最少の人数となりました。近年はわずかに増加傾向にあるものの、1700人ほどにとどまっています。
世代別では、60歳以上が半数以上を占めていて、20代は全体の2%ほどです。時代の流れと共に若い世代で狩猟に興味がある人が少なくなったことが会員数の減少にもつながっていると考えられています。
県猟友会・悪七美男副会長「獲物を捕まえてみたい、クマを獲ってみたいと思う人は何の仕事をしていても出席するだろうけど、いまの若い人たちはなかなかそこまでいかない」
近年は、クマの捕獲現場などに参加する会員は60代から70代が中心です。75歳の悪七さんは自営の建設業の合間をぬって、猟友会の活動に参加しています。会社勤めの人にとっては猟友会との両立は時間的にも難しいのが現状です。
県猟友会・悪七美男副会長「今後は猟友会が減少していくんだと思う。 高齢化の人が辞めて若い人たちが入らない限りどんどん減っていくだけ」
岩手大・山内貴義准教授「人間のいろんな問題の隙をついて、野生動物はどんどん入り込んでくる。ハンターは経験を積んでいかなければならない。1、2年じゃ無理で、5年、10年かかる話なので長期的な人材育成を含めやっていく必要がある」
“人に近づく”クマが増えている一方、クマを捕獲する役割を担う猟友会の活動は厳しさが増しています。県内で去年、クマの出没が相次いだことを受け、村山市などはことし、猟友会に対するクマ捕獲の謝礼を大幅に引き上げました。こうした取り組みが始まったものの、猟友会の高齢化への対策や担い手の確保には課題が山積しているのが実情です。