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【物議】退職金控除“優遇”が雇用の流動化を妨げる?政府の懸念に疑問の声「完全に騙されています、『この控除がなくなったから転職しよう』となりますか?」税理士監修の試算で見えた驚きの“増税額”とは―

2025年3月26日 23:00
【物議】退職金控除“優遇”が雇用の流動化を妨げる?政府の懸念に疑問の声「完全に騙されています、『この控除がなくなったから転職しよう』となりますか?」税理士監修の試算で見えた驚きの“増税額”とは―
退職金税制“見直し”に怒りの声

 政府は今、退職金に対する課税の見直しについて議論を進めています。江戸時代、奉公人に同じ屋号で商いを営む権利を贈る『のれん分け』から始まったともいわれる退職金制度。昭和の高度経済成長期には終身雇用とセットになり、サラリーマンを支えてきました。そんな退職金が、一体なぜ時代に合わなくなったのか?政府の思惑は?弁護士・嵩原安三郎氏の解説です。

■『退職金』税制見直しへ?石破首相の発言に波紋

 2025年3月5日、参院・予算委員会で石破首相は、「雇用の流動化が妨げられないような退職金の課税のあり方とは何だろう…拙速な見直しはしないが、慎重な上に適切な見直しをすべきだ」と発言しました。2025年度の見直しは見送られたものの、来年度も議論は継続するということです。

 退職金税制の見直しについて、街の人からは「退職金を手にして、第二の人生を考える人がほとんどだと思う。課税対象が増えると結構キツイ」「夫の退職金を当てに、家を買っちゃった。ローンの返済と老後の資金など、堅実に使いたい」といった声が聞かれました。一方、「退職金を勤続年数で決めるのではなく、実績や会社に貢献することによって評価される制度があると、働いている側もやりがいになるのでは…」といった意見もありました。

■結局また増税?現行と仮定で試算すると、納税額に約39万円の差

 現在、日本の退職金制度は、長く勤めれば勤めるほど“お得”な制度になっています。退職金の控除額は、勤続20年以下の場合は1年につき40万円で、勤続年数20年なら800万円。一方、勤続20年を超えると1年につき70万円となり、勤続年数20年分の800万円に加え、20年超~の勤続年数×70万円が控除されます。

 具体的にどのぐらい変わるのか、税理士・寺西雅行氏監修の下、『勤続35年・退職金2000万円(一括受け取り)』で試算しました。

 現行では、最初の20年までは800万円(40万円×20年)、その後の15年分は1050万円(70万円×15年)が控除され、残りは150万円(2000万円-800万円-1050万円)に。今の制度では、残った額の2分の1が課税対象となるため、75万円から住民税・所得税などが引かれ、納税額は11万3287円です。

 一方、“20年の区切り”が撤廃されたと仮定した場合、1400万円(40万円×35年)が控除され、残りは600万円(2000万円-1400万円)に。課税対象は300万円となり、納税額は50万6752円です。

■控除=転職を妨げる?政府の説明に疑問「あと10年勤めたら控除額が上がるから…とは考えない」

 退職金の課税を見直す理由について、石破首相は「退職金とは長期にわたる勤務の対価の後払い。控除は勤務が長ければ長いほど多く、退職するのをやめようかという話になっちゃう」と、転職を妨げる一因なのではないかと疑問を呈しました。

Q.石破首相は、「長く勤めたほうが得だから」と転職しにくい環境を作っているのではないかと懸念しているようですが、どう考えますか?
(弁護士・嵩原安三郎氏)
「完全に騙されていますよ。『この控除がなくなったから転職しよう』となりますか?もともと40万円の控除はすごく良い制度で、長く勤めたら、さらに控除が優遇されるというものです。企業にとっては、長く勤めてくれる人がいたほうが良いので、この制度は残したほうが良いです。

また、転職は、もっと短いスパンでするものです。10年目ぐらいで転職を考えたときに、『あと10年勤めたら控除額が上がるから…』とは考えませんし、20年目の人が21年目に突入するときに悩むことはあるとしても、それはレアケースです。だから、この制度が流動化を妨げる要因になっているという話は、僕はウソだと思います。

しかも、退職金自体が法律の制度ではないので、今の会社と次の会社では退職金が違って、次の会社のほうが大きいこともあります」

Q.「20年以上頑張ってきたのに、こんな仕打ち受けるのか」と、転職を考える人が出てくる可能性はありませんか?
(嵩原氏)
「次の転職先では一から退職金の積み立てが始まるので、金額はぐっと小さくなるため、長く勤めた人は、それも踏まえて自分の将来設計を考えます。だから、実例としては、『この制度があるから一律で転職を阻害する』とは考えにくいと思います」

 日本大学経済学部・安藤至大教授は、「今までのことを全部無視して、いきなり税率を変えることはなかなか難しく、社会的にも受け入れられないと思う。制度変更は、10年以上の期間をかけて見直す必要がある。ただ、次世代のために、中高年以上の世代には多少の“痛み分け”をしてもらうことになるのでは」と話していました。

(「情報ライブ ミヤネ屋」2025年3月7日放送)

最終更新日:2025年3月26日 23:00
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