“振り向いたら奴がいる”大阪・びわ湖統合大会覇者で初マラソン日本最高記録優勝の星岳を恩師・中野監督が語る
27日、第10回大阪マラソン・第77回びわ湖毎日マラソン統合大会が大阪で開催。帝京大学のエースとして箱根駅伝で活躍した社会人1年目の星岳選手(23・コニカミノルタ)が、初マラソン日本最高記録となる2時間7分31秒の好タイムで優勝を果たしました。
2024年のパリ五輪代表選考レースのマラソングランドチャンピオンシップ(以下、MGC)の出場権を手にしただけでなく、今夏のオレゴン世界選手権代表選考の派遣設定記録(2時間7分53秒)も突破し、その有力候補に名乗りを上げました。
「彼はコロナ禍の大変な時に、すごくストレスもあったなか、キャプテンを務め上げました。気遣いもできるし、人柄が素晴らしい。人に応援してもらえるような人物だと思います」
大学4年間、星選手を指導した帝京大学の中野孝行監督に、星選手の人物像を聞くと、こんな答えが返ってきました。
宮城・明成高校時代、星選手は全国的に名前を知られた選手ではありませんでしたが、帝京大学に進学し、頭角を現すようになりました。しかし、入学当初は「小さいし、パワフルさもないし、ご飯もそんなに食べられないし、4年間もつのかなって心配でした」と中野監督は振り返ります。
そんな指揮官の心配をよそに、厳しい練習に耐え抜くと、大学2年時の箱根駅伝では10人のメンバーに滑り込み、初めての箱根駅伝で10区区間賞の快走を見せました。そして、翌年からはチームのエースとして花の2区を担うまでに成長し、チームの連続シード権獲得に貢献しました。
「決して超人ではないが、アベレージは高かった。どんなレースでも大崩れしないというのは、今回のマラソンでも生きたと思います。目立たないかもしれないけど、“振り向いたら奴がいる”というレースができる選手です」
星選手の持ち味について中野監督がこう評するように、1km3分ペースで大集団のまま進んだ前半は集団の中で目立たない位置に付け、集団の人数が徐々に絞られても、きっちりと先頭集団に食らいつきました。レース終盤には、その冷静さがいっそう光ります。35kmで優勝争いが3人に絞られてからも後方で勝機をうかがい、38kmでついに単独で先頭に立ち、勝利を手にしました。
「彼自身も“ここまで走れるとは…”と話していましたが、彼がどんな未来を描くかは、私にも見えてはいませんでした。大学4年間において、マラソンで結果を出すための指導をしてきたわけではありませんから。ただ、将来大きな三角形を描けるように、その底辺を大きくすることをしてきました。伸びしろは無限大ですよね」(中野監督)
当初は2028年のロサンゼルス五輪を目標に掲げていた星選手でしたが、社会人1年目にして、早くも世界への扉を開こうとしています。
星選手の他にも、箱根駅伝OBの活躍が光りました。星選手と終盤まで優勝争いを繰り広げた山下一貴選手(三菱重工、2時間7分42秒)、浦野雄平選手(富士通、2時間7分52秒)は、それぞれ駒澤大学、國學院大のエースとして箱根路を沸かせた選手たちです。ともに社会人2年目。2時間7分台の好記録をマークし、2位、3位と健闘しました。
社会人1、2年目の若い選手の台頭があった一方で、経験豊富な岡本直己選手(中国電力、明治大学OB)と今井正人選手(トヨタ自動車九州、順天堂大学OB)が、それぞれ5位、6位と存在感を示し、MGCの出場権を獲得しました。ともに37歳で、岡本選手は自己ベストかつ37歳の日本最高となる2時間8分4秒。今井選手も2時間8分12秒のセカンドベストをマークしました。
さらに、マラソン114戦目となった川内優輝選手(あいおいニッセイ同和損害保険、学習院大OB)は、9位ながら2時間8分49秒の好タイムで走り、ワイルドカード(対象レース2本平均が2時間10分以内)でMGC出場を決めました。