球界最年長投手 オリックス・能見篤史兼任コーチが語るプロ18年目 6月編 ~阪神時代、鳥谷敬に「ピンチの時マウンドに来て」とお願いしてみた “新井さんは・・・違うんですよね”~
「能見、信じて~」登場曲であるGReeeeNの「刹那」能見バージョンが流れると、3万1855人が詰めかけた京セラドームは歓喜の渦に。
オリックスの能見篤史投手兼任コーチは「鳥肌立ちました」とうれしそうに語りました。
プロ18年目を迎えた能見投手兼任コーチに胸の内を語ってもらうこのシリーズ。
今回は阪神戦で登板した時の気持ちや阪神時代の思い出、オリックスの“かわいい後輩”宮城大弥投手、そして、18日にノーヒットノーランを達成した山本由伸投手について語ってもらいました。
――阪神戦での登板はいかがでしたか?
すごいありがたかったですね。粋な計らいというか、そんな感じだったんですけど、本当は僅差で行く予定だったんですよ。なかなかそういうわけにはいかなかったですけどね。
――試合前には行くと言われていたんですか?
一応「12球団勝利」という記録があったので、「僅差で負けてるところくらいで」というのは、(中嶋聡)監督も冗談で言ってたんですけど・・・冗談で言ってて本当に行かすんで(笑)そういう準備はしてたんですけど、点差が開いちゃったので、ああいう感じにはなりました。
(能見投手は16年間在籍した阪神以外の11球団から勝利をあげています)
――温かい拍手でしたね?
温かかったですね、非常に。鳥肌立ちましたもん。鳥肌立ったのは優勝したとき以来じゃないですか。
――その後、登録抹消となりましたが?
いろいろチーム事情にもよるのでね。僕が中心になって、という状況ではないですしね。そうなってはいけないと思うので、チームとしては、若い子がちゃんといるので、チームが困ったときとか、経験で埋められるな、というところで、ポンと入れてもらえるように準備はずっとしていますよ。
いい方向に行くように、準備はしてますし、チームとしてはそういう(僕が)入る隙がない状態ですね。若い子もいるし、いい選手がたくさんいるし、実力はみんな持っているので。あとはどう(実力を)発揮するかだけ。
でも、油断してたら(僕がとって)代わるよっていう(笑)
――ちなみに登板した阪神戦の時に鳥谷敬さんが解説で、能見さんのことを話していたそうですが?
らしいですね。全然、野球に関係ない暴露ですよね(笑)
――球場のお風呂場で白髪染めしていた話とかのようですが?
遺伝なんで、めちゃめちゃ(白髪)多いですよ。兄は真っ白です。弟もめっちゃ(白髪)あるんで。
――ここ1、2年は染めてないんですか?
いや、一応染めてるんですけど・・・なんて言うんですかね、(オリックスは)僕より髪の毛の色が明るい人間が多いので、僕があんまり目立たないというかね。白髪があろうが(笑)なのであんまりそこまで気にして染める必要はないかなと思ってます。
――阪神時代のお話を聞いてもいいですか?いまの髪の毛の話にしても目立つのがあまりお好きではないようですが、阪神時代はどうでしたか?
基本的に見られていることが多い球団なので、練習であったりとか、常に気が抜けない状態でした。練習で違った動きをすると記者さんとかに「きょうはこういう動きされてたけど?」というのを聞かれたり、結構見られてるなとは感じていましたね。
――ちなみに鳥谷さんとはプライベートでも?
鳥(谷)は普通に会話はするんですけど、プライベートはないですね。子どもが学校一緒なので、行事とかで会ったら、しゃべったりとかはするんですけど、基本的にお互いプライベートは干渉しないというか。
――グラウンドでは何か思い出などありますか?
ピッチャーって、ピンチの時はあんまり放ったらかしにして欲しくないんですよ。(野手から)声をかけて欲しいんですけど、そういうのがなかったので、逆にお願いして、「(ピンチの時は)来てくれ」というのは言ったことがあります(笑)
実際に来てくれるんですけど、「とりあえず来ました」という言葉だけ残して帰って行くとかね(笑)
――えっ、それってピッチャーとしては、心の支えになっているんですか?
そうですよ(笑)一声かけてくれるだけで冷静になったりとかはあるんでね。「とりあえず来ました」「ありがとう」と返しました(笑)
――ピンチのマウンドの時にそんなことを話しているのは意外でした・・・
意外とね、見てる側からしたらピンチなので、いろんな言葉かけてるのかな、とかあると思うんですけど、そんなことないんで(笑)僕のワガママなのかもしれないですけど、マジメな声かけはいらないんですよ。ピンチの時、冷静じゃない部分があるんで。
(阪神時代)新井(貴浩)さんとかはパッてマウンド来て、「いい球いってるからな、大丈夫やぞ」って言うんですけど、いい球いってて大丈夫やったら、ピンチになってないんですよ(笑)
なので、僕はそっち(マジメ)系じゃないんですよ、言って欲しいのは(笑)
――逆にどんな言葉が欲しいんですか?
ピッチャーにもよりますけど、僕は冷静じゃないんで、「何してんスか?」「何してんの?」という方が、冷静になれると思うんですよね。あんまり(言葉が)耳に入ってこない状態なので、ピンチの時って。「いやいや、こんなん絶対打たれるよ」って言ってくれた方が逆にいいかもしれないです(笑)
――そういうチームメートって今までにいらっしゃったんですか?
いないんですよー。みんな、マジメなので。あとは年齢が上がってくると、後輩とかが(後ろを)守るのが多くなってくるのでね。僕は、逆の発想でいいと思うんですけどね。
――ピッチャーの方々って、そういう感じなんですか?
僕は意外と冷静ではなかったので、もし僕が野手やったら、そういう(マジメな)言葉をかけない。
例えば、僕がファーストを守ってます。で、(ピッチャーの)タイプによりますけど、言いやすい人だったりとか、ちょっと違う方(マジメじゃない方)でいったらいいかなとかいう時は、「僕のところ打たせてください。必ずエラーするんで」とかね(笑)
そんなときにその人が怒るのか、ちょっと笑うのか、それはちょっと(やってみても)面白いなと思うんですけど。
――山本由伸投手が18日にノーヒットノーランを達成されましたが、山本投手はマウンドではどんな選手と見ていますか?
由伸はね、どっちかというと、感情豊かなんですけど・・・基本的にあれくらいのクラスのピッチャーって、チームを背負ってるじゃないですか。なので、「チームを勝たせないといけない」というのも持ってるし、もちろん野手もそう思ってますが、あのクラスのピッチャーは僅差の試合が多いんですよ、相手チームもいいピッチャーなので。
去年もそうですが、例えば、僅差で終盤もつれてきました。抑えないといけないところで、エラーが出てしまったりとか、それがタイムリーになって、同点に追いつかれてしまった・・・僕も先発やってましたし、試合の重みは分かるので、そうなった時って「うわ、なんでここで」っていうのが顔に出ちゃうことがあるんですよね、「それはないな」って。でも由伸って(表情に)出ないんですよ。
逆に声かけるんですよ、野手に。
エラーが出ましたって時に、逆に自分から声をかけに行くんで「この子すごいな」って。それってなかなかできないんですよ、やっぱり背負っているものがあるんで。それはちょっとビックリしました。
――日本シリーズ(第6戦)でもありましたね?
(エラーした選手には)声かけにいくんですよね。それってなかなかできないもので、その立ち振る舞いってすごいなと思って。そういう姿勢ってできないんですよ。あの子はすごいです。
――山本投手はこだわりなどある選手ですか?
めちゃめちゃ持ってます。ぶれないです。
――具体的には?
自分で(練習とかの)計画も立ててますし、しないといけないものはぶれないので、そこは貫き通すというか、信念を持っている。
――コーチとしてはどう接しているんですか?
(背負っているものがあるとか)そうした部分を分かってあげる方がいいと思うので、投球がどうとかではなく「その立ち振る舞いはすごいぞ」と本人には言ったことがありますね。
――このシリーズを通して、うかがっていきたい宮城大弥投手との関係ですが、この前の阪神戦(12日、6回被安打6、奪三振4、与四死球3、失点4で3敗目)の試合後に会話などは?
しましたよ、めっちゃけなしました(笑)
――何か言葉は返ってきましたか?
いや、認めないんですよ。「今だけです」とかね。でも「(阪神戦)来年までないで」と返しておきました。認めないところは僕も(投手だし)分かるので、余計カワイイですね。
――宮城投手は去年、すい星のごとく現れて、勝ち星を重ねてという感じでしたが今年は去年と違うところはありますか?
違いはちょっと出てますね。去年あれだけ(13勝4敗)勝ってるので。自分の中でハードルは上がっているはず。「今年もそれくらいやらなきゃいけない」とかね。
でも、バッターの対応は変わるんですよね。去年を踏まえて、どんな傾向があって、というのは記憶に残るので、そこからちょっとでもボールの質が落ちると、バッターは対応できてしまうので。「去年よりはうまくいってない」と本人は思ってると思います。
いまは、マイナス要素がどんどん出てきているはず。「打たれたくない」とか「コースをしっかり投げないといけない」とか、いっぱい条件をつけちゃう。条件をつけると苦しくなる。「これをしたらあかん」「あれをしたらあかん」と。限られたことしかできなくなるので、カウントが悪くなったりとか、そういうのがちょっと見えるんですよね。
でも、それも勉強のうち、成長していく過程なのでいいんです。そこまで考える必要もないし、もっと大胆に行っていいのにな、と僕は思うんですけどね。
――若い選手はいろいろ経験して、なんだかんだでまた原点に戻ってくることはよくありますよね?
その通りなんですよ、結局戻るんですよ。苦労して、「ああじゃない」「こうじゃない」ってなるんですけど、戻るんですよ。「結局、これなんだな」というのは出てくると思う。
苦労した分だけスキルが上がって、原点に戻るんで引き出しは増えると思います。なのでここからは失敗の方が多いと思いますよ。
――失敗を恐れるなと?
成長しかないのでね。ただ、窮屈に守りに入った投球だけはして欲しくないなと思います。
――宮城投手とは親子みたいですね?
そういやこの前、僕のグラブをはめてたんですよ。僕ははめてもらって全然いいんですけど・・・僕がいないときにはめていて、帰ってきた時に「これ、使えねぇ」みたいなこと言われて。
――能見さんはなんて返したんですか?
そのグラブは試合では使ってないので、「試合では使えないのよ、それ」って言っておきました(笑)
――ちなみにきょう(取材日は6月21日、宮城投手の登板日)の宮城投手は?
きょうは先発なので全然声かけてくれないんですよ。
――能見さんはご自分が先発の時はどうなんですか?
あんまり入り込みたくないんですよ。試合の30分前とかで、緊張するのはいいけど、なんか練習中から「きょうは・・・」みたいな感じはシンドイじゃないですか。若いときはそう(宮城投手のよう)やったんですけど、よくよく考えたら、自分がしんどいだけなので。
投げる日は変わらないですよね。緊張しても投げる日はキャンセルにはならない。だったら、もうちょっとリラックスして切り替えて(試合に)入る方が精神的にも楽かなと思うんですよね。
――それは宮城投手には伝わっているんですかね?
どうですかね・・・きょうはいじったんですけど、「全然話しかけて来ぇへんな」って。「なに緊張してんの」みたいなこと言ったら、「いや・・・」とか言うんですよ。だけど、普通にいじりました(笑)
■約束の8勝まで・・・
取材日のソフトバンク戦で、宮城投手は7回1/3、被安打5、奪三振8、与四死球2、失点2で6勝目を挙げています。能見投手兼任コーチと宮城投手は、宮城投手が今季8勝したら、寮まで宮城投手を迎えに行く、という約束をしています。
その約束まであと2勝となり、能見投手兼任コーチも“うれしそうに”焦っている様子が見られました。
「宮城ね、本気で言ってるんで(笑)迎えには行きますけど、(車に)乗せるかどうかは分からない。迎えには行きますよ」とにやり。
「(8勝したら)何時に迎えに行くからとは言うけど、(僕の車に)乗せるとは約束していないんで。宮城も車持ってるんで、寮に迎えに行って、素通りでいったろと思ってます。『とりあえず来たよ』って(笑)」
ピンチでマウンドに来た鳥谷さんのような言葉を発した能見投手兼任コーチですが、この約束の行方はまた、“追跡取材”したいと思っています。