地元で愛され40年の歴史に幕…「なくしてはいけない」昔ながらの弁当屋“閉店と復活”の物語
今やコンビニやスーパーなどでいつでも手軽に弁当が買える時代。
一方で、出来立てアツアツで、その店ならではの味を提供する昔ながらの弁当専門店ってあなたの町にもありませんか?
無くしてはいけない店がある。1軒の弁当店をめぐる、閉店と復活の物語を取材しました。
白ごはんが進む、鶏のからあげに…ビッグサイズのとんかつ…申し分なしのボリューム!
宇和島市で1984年開業「お弁当のクック」
愛媛県宇和島市新田町、住宅や学校が並ぶエリアの国道沿いにその店はあります。
「お弁当のクック」。創業者の河野陽二さん、77歳です。
「お弁当屋さんが他にもなかったの。やってるとこが3軒だけやったからね」
まだ、宇和島にコンビニや弁当専門店が少なかった、1984年に開業しました。
河野さんは知人に店の経営を引継ぎましたが、食材費や人件費高騰などのあおりを受け、去年10月、40年の歴史に幕を閉じました。
昔からの常連客:
「(閉店は)辛かったですね。子どもの頃から結構食べてたもので。宇和島に住んでる以上ほとんどの人が食べたことがある味だと思うので」
一度は途絶えた「クック」の味。それを何とかして復活させることはできないかと動き出したのが…
クックは「青春の味」!閉店を知ったファンの男性が
「クック」にほど近い場所で生まれ育ち、現在は松山市の会社で役員を務める福岡崇之さん、41歳です。
福岡さん:
「大層に言うと青春じゃないけど、必ず何かをしている時に友達と夜食べたり昼食べたりしてたんで、パッとそういうことが思い浮かんで。閉まったらだめなんじゃないかなという気持ちが僕の中では大きかったですね」
福岡さんは地元の友人と手作業で店内を改装。スタッフを集め閉店からおよそ2か月後、「クック」を再オープンさせました。
福岡さん:
「自家製のいろんなスパイスとワインだったりとか調味料を加えたものをここから1日近く漬け込んで、明日以降にこれは提供する」
Q.レシピは一緒?
福岡さん:
「仕入れ先もすべて一緒ですね。どうしても経営側が変わったので味が変わったんじゃないかって そういったところもあると思うんですけど、僕らは以前の味にどう近づけるかとか元に戻すかというのを先代と考えながらやってます」
看板も以前のものを忠実に再現。店内には…
福岡さん:
「僕たちが継ぐにあたって先代の方から、近くに小中学校が多いんでそういう子たちのために駄菓子をジュースを置いてほしいということで、じゃ僕たちも置きますと」
1日100食以上を提供!昔からの常連客たちは
お昼時、店内は最初のピークを迎えます。
昔からの常連客:
「新しくなってからまだ1回きょうで2回目なのかな。学生時分は友達とワイワイする時にちょっと小腹すいたから自転車で一生懸命ここまできて買ってましたんで」
こちらは部活帰りの中学生。
「僕は小学校の頃から」
「僕は中学校入ってから」
Q.ここが無くなったときは?
「そりゃ弁当どこ買いに行くかみたいになりますね」
昔からの常連客:
「すごくありがたかったですね。もう食べられないのかなと思ったら復活したって聞いて。そこまで味も変わってなくて」
毎日100食以上の作りたて弁当を提供しています。
「ここのお弁当が好き」な気持ちを同じように感じてほしい
この日、創業者の河野さんが新生クックを訪ねました。
河野さん:「(前回会ってから)1か月経っとらん」
福岡さん:「ちょこちょこ気使って様子見に来てくださるんで」
リスタートを切った「お弁当のクック」は伝統の味を受け継ぎつつ、しょうが焼き弁当や、人気の揚げ物が4種類入ったスター弁当…アジフライの入ったお弁当など、少しずつ新しいメニューも増やしています。
福岡さん:
「年配の方来られた時に幕の内ある?とか聞かれることあるんで、ゆくゆくは鮭弁当みたいな…油ものばっかりじゃないですか」
河野さん:
「なんでもしたら良い」
クックの閉店を知った福岡さんは、地元のツテを頼って河野さんに会い、自分の胸の内を伝えたといいます。
福岡さん:
「自分の(クックを)なくしてはだめという気持ちだったり、可能であれば僕が何かの形で残したいということを伝えて」
河野さん:
「うれしいというかね、やってくれる人がおるなと思ってね。昔宇和島に住まわれとってこの店に買い物に来られとったからね、ほんでどうぞということになった」
福岡さんのチャレンジを、河野さんは父親のような眼差しで見守ります。
河野さん:
「商いは一緒。何やっても一緒。一生懸命やることよ」
福岡さん:
「僕たちが子どもの頃からこのお弁当が好きだとか、そういった気持ちをこれからの世代にも同じように感じてもらえるように、お弁当作りと接客とそういうお店を作っていきたいと思います」
宇和島で長年親しまれた味を絶やさぬよう、「クック」はきょうもお弁当の物語を紡ぎ続けます。