「三つ子の魂百まで」ってどう解釈する?抱きグセがつくって本当なの?親世代と祖父母世代の“常識”の違いにみる子育ての今と昔
時代と共に子どもと親を取り巻く環境や情報も変化し、子育ての“常識”も「昔」と「今」とで変化しています。筆者も今年第一子を生み、自分の親から聞かされてきたこととは全く違う価値観に戸惑う瞬間が多くあります。産婦人科での育児指導でまず驚いたのは、赤ちゃんのスキンケアについてでした。昔はお風呂上がりなどにベビーパウダーをまぶすのが一般的でしたが、今はベビーパウダーの多用は汗腺を塞いでしまうとして、ローションやクリームで保湿することが“常識”となっています。古くから言われる「三つ子の魂百まで」ということわざについても、だからこそ幼少期から「しっかりとしつけをすることが大切」なのか、「たっぷりと愛情を注ぎ、親と子の絆をより深めることが大切」なのか、解釈が多様化してきているような気がします。
今と昔の“常識“から紐解く世代間の子育てのギャップ
まず、古くから言われてきた「抱きグセ」について。祖父母世代にとっては“泣いている赤ちゃんをすぐに抱っこすると、抱きグセがついて抱っこをしないと泣き止まないようになる”というのが常識でした。実際私が、泣いている子どもをすぐに抱き上げようとすると、母親に「抱っこされないと泣き止まなくなるといけないから、少しは放っておいた方が良いんじゃない?」と言われます。
しかし現在、産婦人科では、赤ちゃんが泣いたときに親が応えようとすることで信頼関係が育まれるため、ためらうことなくたくさん抱っこしてあげるよう指導されています。
乳幼児保育などを専門とする松山東雲短期大学の加納章准教授は。
「抱きグセがつくということは無いし、いくら抱っこしても、し過ぎることはありません。基本的に意識が外に向いている子どもが抱っこを求めるのは、安心したいから。安心安全の確保は心の安定に繋がっていきます。また、ただ抱くのではなく、丁寧に愛情を注いであげてほしいです。ずっと抱っこするのは重いし、困るのは大人の方なんですよね。子どもの視点で考えてあげることも大切です」
「最新の情報が常に変わっていく中で、いつの時代も子どもに良かれと思ってやっていることに変わりはありません。ベビーパウダーも絶対良くないわけでなく、部分的につけるには有効なこともある。今、自分の子には何が必要なのかを考えてほしいと思います」
働く母親たちを悩ませてきた“3歳児神話”は
「3歳になるまでは母親が子育てに専念するべきだ」とする「3歳児神話」は、1951年にイギリスの精神医学者であるジョン・ボウルビィが、孤児院などの子どもたちに心理的発達の遅れがあることを調査し、『母性的な養育が欠けていることが原因』としたことが発端だと言われています。
加納准教授は、この母親に限定した理論の歪曲が、母親たちを追い詰める一因になってきたと指摘します。
「母親に限らず、父親でも祖父母でも、保育者でも、信頼できる“特定の大人”になりえます。現代は核家族化し、働きに出る母親も増えました。ただ、昔から母親も農作業などの仕事はしながらも、家族や地域の人たちの力を借りていたんです。子育てを母親ひとりが抱え込まないこと。今ならコミュニティに出ていき、保育所や子育て支援をうまく利用してほしい」
便利グッズの多用や親が干渉しすぎる現代は“子どもが育ちにくい”?
そのうえで、3歳までが、人格形成の基礎を作る大切な期間であるのは確かであると、加納准教授は強調します。
「子どもはコミュニケーションを取りたがっています。絵本を読むのもコミュニケーションの一つ。一緒に食卓を囲む“団らん”も一つ。ハイハイも慣れてきたら大人が障害物になってみたり、ふとんを丸めてみたりして、乗り越えられたときや上手くできた時は精一杯褒める。一緒にがんばること。『小さな失敗を繰り返し、大きな失敗に備える』という意味の“児やらい(こやらい)”という言葉があります。失敗も経験。現代は子どもの主体性に干渉しすぎて、子どもが失敗しないように、転ばないように先回りすることで、育ちにくい環境もある。あたたかく見守る中で様々な体験させることが自立に繋がっていきます」
低下する子どもたちの運動能力 重要なのは“幼少期に体を動かす経験”
さらに、3歳までの経験というのは、心の発達だけでなく、身体の発達にもつながります。
文部科学省が行っている「体力・運動能力調査」によると、現在の子どもの体力・運動能力は、その親世代である30年前と比較すると、ほとんどのテスト項目において下まわっています。
子どもの体力低下が問題視されて久しいですが、これは幼稚園児よりも上の年代に限ったことではありません。松山市の番町幼稚園・新野文織学園長は「この10年あまりで、幼稚園に入園する子どもたちの運動力が目に見えて落ちてきている」と警鐘を鳴らします。
「近年は、子どもの体を固定して座らせるイスや、部屋の中を歩き回れないように囲うサークルなど、便利グッズの多用や、危ないからと行動範囲を狭めることが体力作りの妨げになっている。昔は家の中でも自由に動き回り、日常的に体を動かすことで体力作りになっていたのが、今では体操などが習い事として取り入れられるようになってきたんです」
松山東雲短期大学・市河勉教授(身体的な発育発達が専門)は、「『走る、飛ぶ、しゃがむ、物を投げる、ぶら下がる』などといった基本的な動きを、5歳までに遊びの中で経験していないと、小学校や中学校のスポーツをする上で壁ができてしまう」と指摘します。
市河教授:
「今は特に、ボール投げが苦手な子どもが増えています。幼児期に『物を投げる』という経験をあまりしてこなかったと考えられます。ヒトの神経系や感覚器系は、3歳までに約60%、5歳までに約80%が成長を遂げるデータがあるように、幼い頃にいったん覚えた動きは身に付きやすいんです。今は体を動かす習慣がついている子とそうでない子の差が極端になっていると言えます」
「体を動かす習慣が無いと、転んだ時に手が出せず、顔をケガしてしまうなど、とっさの動きができなくなってしまいます。無理やり外遊びを強制するのでなく、擦りむく程度の小さなケガには大人が寛容になって、子どもが楽しく遊べる環境を作ってほしいです」
「スマホに子育てさせないで」 いつの時代も人の声やぬくもりで感性を育むことが大切
新野学園長は、女性の社会進出や技術の発達によって、子育てを取り巻く環境が変わろうとも、最も重要なのは、親との触れ合いや五感に働きかけることだといいます。
「働くお母さんが増えて大変になっているのも分かります。ただ、子どもは親の表情やボディランゲージからも多くを学んでいます。時にはスマホを置いて、子どもにたくさん話しかける。絵本を読み聞かせる。紙の質感を感じ、親の声を感じてもらう。あとは手料理。子どもを保育の施設に預けるお母さんたちの中には、ご飯を作る時間がないという方もいますが、おにぎりだけでも良いんです。炊き立てのご飯の香りをかがせてあげる。人のぬくもりで感性を動かすことが心と体の発達には不可欠です」
(取材・文 / 津野紗也佳)