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「倒産を覚悟していた時期も」偶然見つけた“クラゲ”が救った加茂水族館 リニューアルから10周年

2024年9月9日 17:33
「倒産を覚悟していた時期も」偶然見つけた“クラゲ”が救った加茂水族館 リニューアルから10周年

山形県内唯一の水族館、鶴岡市立加茂水族館がリニューアルオープンしてことし10周年を迎えました。一時は経営がどん底にまで落ち込んだ小さな水族館はどのようにして世界一のクラゲ水族館となったのか。その歴史をひもときます。

鶴岡市立加茂水族館。県内唯一の水族館はことしリニュアルオープンから10周年を迎えました。200種類以上の生物が展示されている水族館の中でも目玉となっているのがクラゲです。直径5メートルを超える大型水槽などでおよそ80種類が展示され、世界一の数を誇っています。

仙台から「きれい。幻想的」「クラゲが神秘的で感動しました」

人々を魅了する世界一のクラゲ水族館の立役者となったのは館長の奥泉和也さんと前館長の村上龍男さんです。

「一種類ずつ増やしていって面白かった」「うん。面白かった。なかなか難しかったけど」「1種類増えると本当に飼育のほう自分でやっていたわけではないけど自分のことのようにうれしかった」

加茂水族館が世界一のクラゲ水族館となったきっかけ。それは1964年に建築されたひとつ前の建物の時のことです。

村上龍男前館長「建てられた当時、呼び物としてあったのが電気ウナギ。発電装置があって電気ウナギが電気を放つと電球がばーっと付く。それが最大の呼び物。内容が乏しい水族館だった」

当時、鶴岡市が運営していましたが1967年に沿岸地域の大型観光開発構想に組み込まれ第三セクターに売却されます。市の運営を離れた水族館の館長に就任したのが当時27歳だった村上さんでした。

村上前館長「来館者が20万人越えていたから小さい施設で飼育係も3人しかなかったし金がかからないようになっていたから利益がうんと出ていた」

しかし翌年、隣県の秋田と新潟に水族館がオープンすると客足が激減。

村上龍男前館長「隣県の水族館に客がどんどん流れていってこっちはガタガタと客が減っていった。それでも小さかったし利益は出てた。それを買った会社がみんな持っていくわけ全部。市を恨んだよ、ずいぶん。なんで売ったんだって」

アシカのショーやラッコの展示など様々な企画を始めましたが客足は戻りません。
村上さんが館長となって30年目の1997年。入館者は過去最低の9万人にまで落ち込みます。
施設のペンキを塗り直すことも、雨漏りを直すこともできなくなるほど経営が悪化していたとき、出会ったのがクラゲでした。

村上龍男前館長「奥泉君と来年は恐らく客はもっと減る今年限りの経営じゃないか、来年はだめだぜってよくしゃべっていて、倒産を覚悟してたときにあのクラゲに出会ったわけ」「75センチの水槽に生きたサンゴ入れて隣に同じ水槽を並べてサンゴ礁の魚を展示した。そこからサンゴの水槽からクラゲがわいてきた」

偶然、目の前に現れたクラゲ。それを網ですくい育てたのは奥泉さんでした。

奥泉和也館長「4ミリくらいのが30個泳いでいた。で村上名誉館長連れていって『これなんだ』と聞いたら『わからない』って。先輩の飼育係を連れて行って『これなんだ』って言ったら『わからない』って。分からなかったけどすごく面白そうなのでやった。最初は全然もう1週間も生きなくて大変だったけどお客さんに見せると大喜びされて」

客の手応えを感じた2人はクラゲの展示に力を入れます。

村上前館長「翌年、客があれだけ喜んだんだから少し増やそうぜとクラゲ5種類くらい展示した。それではじめて32、3年の私の経営の歴史の中で初めて客が増えたんだよ。どんなことしても増えなかったのが初めて増えた。自分たちの取り組みそれがものすごい力になった」

その後、奥泉さんが中心となり展示方法の改良や繁殖技術を高める研究を進めました。

「奥泉くんがあれやろう、これやろうと言ってくる。俺借金してきてやったわけ一生懸命提案してくるんだ」
「だいぶ失敗したけどほとんどが失敗だったけど」
「失敗して飼育の改造に50、60万かかるわけだよな。それはパーだよな腹の中じゃ金が動くんだよ。だけどそれをぐっと飲みこんでよし良いからまたやろうぜってそして進んでいったんだよ」
「めちゃくちゃよ、それをやらなかったら今ないよ。笑い事じゃないのよ本当は」「確かに笑い事じゃないな」

2002年には再び鶴岡市が水族館を買い戻します。2人は加茂水族館を世界一のクラゲの水族館にすることを決意します。

そしてクラゲとの出会いから15年。展示数は30種類ほどまで増え、展示種類数でギネス世界一に認定されました。

過去最高の来館者「あの年が27万人。古い水族館で過去最高、凄かった。渋滞で加茂の人たちに大分迷惑をかけた、道路。ずーっと電話が来ていた。『家から出ることも帰ってくることもできない。 どうしてくれるんだ』とか歩いていると住民が出てきていろいろ言ってくる。『悪い、悪い』って言いながら内心うれしくて、うれしくて。これだけ渋滞するほど客がきたということはものすごくうれしいわけね内心。」

その後も順調に客足が回復し、2014年に現在の水族館「クラゲドリーム館」がリニューアルオープン。

以前の水族館の4倍ほどの広さとなりクラゲの展示数は50種類まで増えました。そしてリニューアルオープンからわずか4か月で来館者が「50万人」を突破しました。

2014年当時の村上前館長「これだけお客さんが来てくれたのはクラゲで勝負したから。いい展示を心掛けてみんなでお客さんを喜ばせて帰す。これはやりがいがある」

この翌年、水族館の館長は村上さんから奥泉さんに引き継がれました。リニューアルオープンから10年、館内では人々が水槽の前で足を止め気持ちよさそうに水の中を漂うクラゲを眺めています。

ミノクラゲ前で「これ凄いじゃないか」「2匹持ってきて1匹だけ生きた。苦労した持ってくるの」「どこから?」「タイ」「タイに行ったのか?」「行った。3人で」「これ捕まえたの?」「捕まえた」「これ面白いじゃないかよ」

人々を魅了する世界一のクラゲ水族館は2026年度にクラゲの展示数を100種類に増やし面積を1.8倍にするリニューアルの計画が進んでいます。

奥泉館長「鶴岡市の方からも応援してもらってあっちこっち出張出させてもらってクラゲ全国で獲りまくっている。100種類を超えるようにしてもっといい展示、見栄えのする展示を追及していきたいと思っているので本当にワクワクドキドキです」
村上名誉館長「どこから誰が来ても規模、内容ともに素晴らしいものになるんだろうなとオープンの時は杖をついてでも腰が曲がっていても来るつもりですよ」

世界を魅了する県内唯一の水族館。さらなる進化を遂げようとしています。