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【独自解説】ついに発足した石破新内閣、“意外な人選”の狙いと思惑 『幹事長』は古き良き自民党員、『外相』は首相を“たてられる人”…各所に影響する麻生太郎氏の存在感

2024年10月5日 8:00
【独自解説】ついに発足した石破新内閣、“意外な人選”の狙いと思惑 『幹事長』は古き良き自民党員、『外相』は首相を“たてられる人”…各所に影響する麻生太郎氏の存在感
カギは麻生氏?石破新内閣の思惑とは―

 2024年10月1日、内閣総理大臣に就任した石破茂氏。党幹部・閣僚人事に見る石破新首相の思惑とは?麻生太郎氏がカギを握るワケは?日本経済・外交政策の方針が問われる中、ついに始まった石破政権について、『読売テレビ』高岡達之特別解説委員が解説します。

■「なかなか珍しいケース」自民党・石破茂新総裁が行った2つの“型破り”

 石破茂氏は、2024年9月27日に自民党の総裁になりましたが、まだ一衆議院議員だった同年9月30日には解散する日を表明し、選挙をする日も決めました。これは、なかなか珍しいケースです。

 もう一つ珍しいのが、同年10月1日に内閣ができましたが、本来ならその日の朝刊で、政治部が渾身の力を込めて「全部の大臣が決まりました」とやります。しかし、前日の9月30日時点で、もう全て出ていました。ということは、結構前から、いろいろ打診があったのかなと思います。

 今回の人事は、政治を見ている人によってもいろいろ違いますが、私は「結構意外な人事をしているな」というところもありました。「どうせ好き嫌いだろう」「麻生さんは石破さんを許せないんだろう」と、いろんな評論家が言っていますが、私から見れば、やはりそれだけでは決まっていません。

■“街頭1000人伝説”も?小泉進次郎氏の『選対委員長』就任は予想通りに

 まず、党の四役という最高の幹部ですが、これは完全に目の前の『総選挙最優先シフト』です。その中でも選対委員長・小泉進次郎氏(43)と幹事長・森山裕氏(79)、この2人に注目です。

 小泉氏については、今回の人事が出る前から、私もこれしかないと思っていました。選挙で全国を飛び回ってもらいたいから、仕事があるので大臣は無理です。でも、全国を自由に回りつつ、かつ大切なのは、『自民党の最高責任者の一人』でないといけないということです。だから、党四役の一人として『選対委員長』を任せます、と。これは予想通りです。

 総裁選で地方を回っている時も、国会議員の人がよく言っていましたが、“街頭1000人伝説”などがあります。ものすごい役職の方が来ても、大目に見積もって100人という人もいる中で、好き嫌いはあるでしょうが、小泉氏が来ると皆さんのカメラが出ます。だから、「小泉氏には自由な立場で回ってもらいたい」ということです。

■“最大の目玉”森山裕幹事長は「全部決めた人」 麻生氏の『最高顧問』就任にも暗躍

 逆に、今回の最大の目玉は、森山裕幹事長(79)だと思います。「森山さん?あまりテレビで見ない」「79歳、結構お年じゃない」という人もいらっしゃるでしょうが、鹿児島の地方議員から叩き上げで、苦労人です。

 目の前の選挙を見た時、永田町では森山氏は「全部決めた人」です。次、まだ公認発表されていないとはいいながら、全国の選挙区で出る人が全部決まっています。その小選挙区を全部決めたのが、実は森山氏です。

 今回は10増10減、ややこしいところがありました。山口の安倍さんのところがなくなる、和歌山の二階さんのところがなくなるなどで、地方ではいろんな声があって「何なんだ!」となっていたのに、森山氏はそれぞれの土地へ全て行ってお酒を酌み交わし、話を聞き、「一つご理解を」と言って、全部決めてきました。

 また、今回、麻生太郎氏が『最高顧問』になりましたが、石破氏とは仲が良くないといわれています。そうでなくても、石破氏はこれから総理になるんですから、普通は電話で「役職を替わってください」「なってください」と伝えます。

 ただ、森山氏は“古き良き自民党員”ですから、麻生氏に会いに行ったんです。そして、「私のほうから一つお願いいたします」と言われたら、麻生氏も受けざるを得ないというところがありました。

■高市氏が固辞した『総務会長』には麻生氏の義弟が就任 人脈作りに有利か?

 そして、財務大臣だった鈴木俊一氏(71)が『総務会長』に決まりました。『総務会長』といえば、高市早苗氏が断ったといわれている役職です。確かに、『幹事長』に比べれば権限は少ないです。

 でも私は、「高市さん、お受けになっても良かったのにな…」と思います。というのは、次もまた総裁選に出るんだったら、とても苦労するのが人脈作りだからです。

 高市氏もやっておられましたが、いろんな政策を作ってくる『政務調査会』から、国会に出す手前の関門が『総務会』です。ここで難しいのは、居並ぶ“うるさ型”。もう文句を言う人だらけです。それを、絶対に全会一致でまとめていたいと。

 だから、そういう意味では、今いろんな人脈が弱いといわれているんだったら、人脈を作るのが一番良いです。つい何代か前に、福田達夫氏が50代でこれをやっていたというのは、将来を見据えてということです。

 さて、その“うるさ型”ですが、長年『総務会』で「この人が反対したら怒鳴り声で大変なんだよ」といわれている国会議員を、一人ご紹介します。石破茂氏という人です。

 だから、その“うるさ型”を説得する力量を、鈴木氏にやっていただくと。なぜかというと、麻生氏は鈴木氏の義兄、ご親戚だからです。鈴木さんは麻生さんと近いので、「そういうところは、ちょっと見てくれるわけ?」という意図もあります。

■大臣の中でも重要な三人『外相・防衛相・経産相』 外相に求められるのは“首相をたてられる人”?

 大臣の顔ぶれの中で大変重要な三人、外相・岩屋毅氏(67)、防衛相・中谷元氏(66)、経産相・武藤容治氏(68)の話をします。

 外務・防衛は、石破氏がとても得意なので、「いや、君たちは一生懸命考えているかもしれないが、そういうことではないんだ」と、口を出したいんです。

 岩屋氏は、外務副大臣をやったことがありますが、外交が専門ではなくて、防衛大臣もやっていました。意気は非常に良いです。どういう人なのかというと、外務大臣とはいえ結局は“首相をたてる人”で、ここが大切なところです。

 なぜかというと、安倍氏・菅氏・岸田氏の3代にわたって、外交は「トップの仕事」になってしまったからです。外務省は、大臣もいらっしゃいますし、ちゃんとした役所です。でも今は、“外交はトップが直談判”の時代です。

 トランプさん然りゼレンスキーさん然り、トップ同士が会って話を決めるんだという風潮になっているので、そういう意味では、最終的に石破氏の出番をたててくれるということが大切です。

 そして、問題の防衛相です。石破氏は、防衛予算にも物凄く力を入れています。

 中谷氏は元自衛官で、現場の声を代弁できる人です。早くして辞めたとはいえ、防衛大学校を卒業しました。現場からの「総理はそうおっしゃいますけど、そういう気持ちではないんです」ということを、元々自衛官の制服を着ていた人に言われたら、これは逆に、石破氏の失敗を防ぎます。

■経営者出身・武藤経産相は『青年会議所』元メンバー 麻生氏とも深い繋がり

 そして、経済です。2024年9月30日の日経平均株価は、最大時間内は2000円で、相場的にいうと暴落しました。経済記者が解説していた中でも、「経済政策をどうしたいかが見えない」「何にお金をかけて何で儲けるかが見えない」という話がありました。

 経産相・武藤容治氏は岐阜の3区で、父は自民党の元幹部でしたので、岐阜ではよく知られた人物です。しかし、武藤氏は少し特異な前歴を持っていて、経営者出身です。昔は自民党にも多かったですが、今は元官僚の方でも「父親の地盤を引き継ぐ」という人も多いです。

 武藤氏の前歴は、建材商社社長・名古屋のFM局取締役・酒造会社社長など幅広くやっていましたが、基本的には中小企業の社長です。

 日本には全国に『JC(青年会議所)』という組織があり、中小企業の次代を担う経営者たちが集まって、地域を盛り上げようということをやっています。武藤氏も、そこの一人でした。

 そして、「俺も昔やっていたんだよ」という方が一人います。麻生太郎氏です。しかも、この方はトップだったんです。今も、全国の中小企業の若手経営者からの情報が集まると言われている方で、当然武藤氏は麻生派です。

 武藤氏が経産相になったからといって、どういう経済政策をするかは、まだわかりません。しかし、市場が落ち着くという予想が出ているのは、武藤氏が経産省と協力して打ち出してくる政策が、岸田前首相の路線の継続であるならば、つまり金融緩和も少し曲がり角にして、賃金も上げて…ということで、変わらないということです。

■アポイントメントを後回しにされる?選挙急ぐワケは米・大統領選か

 最後に、ゆっくり国会をやると言っていたのに、なぜ慌てて10月27日に総選挙なのかというと、カレンダーを見れば一目瞭然です。

 11月5日に、アメリカ大統領選挙があります。石破氏は、“トップ外交”に行かなければいけません。

 この大統領選挙の前に、できれば、今のところ少しあやふやだといわれている権力基盤を固められれば…という思惑があります。予定通りに行くかどうかはわかりませんが、選挙に勝って、安定政権になるぐらいの数を取っておきたいということです。

 アメリカ大統領は、当選が決まったら世界中から「会ってください」とアポイントメントが来ます。安倍元首相がすぐに行ってトランプ前大統領と会えたのは、あの時、安倍元首相は選挙に強く、トランプ前大統領も「長く続く強い政治家だ」と思ったから会ったわけです。

 そうなると、「私は長続きできる人です」という成績を持っていかないと、アポイントメントを後回しにされます。日本がどう思われているのかは、そのうちわかります。(『読売テレビ』高岡達之特別解説委員)

(「かんさい情報ネットten.」2024年9月30日放送)