2024年は日本映画が躍進 映画評論家が選ぶ2024年のベスト3 『ルックバック』などを選出
山崎貴監督の『ゴジラ-1.0』や、宮﨑駿監督の『君たちはどう生きるか』のオスカー獲得、さらに劇場版『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』の興行収入が150億円を突破するなど、明るいニュースが目立った2024年の映画界。ゴールデングローブ賞の投票権を持つ映画評論家・松崎健夫さんに“2024年に公開された映画ベスト3”を選んでもらいました。
■単なるディザスター映画ではない “防災意識を高める”映画『ツイスターズ』
「この映画は竜巻の研究をする科学者の話なんですよ。竜巻が襲ってくるというよりは、竜巻にわざわざ向かっていくという話。特に日本は2024年も地震や台風の被害があって、災害に遭いやすい国だと昔からいわれているからこそ、この映画で描かれている“災害に対して我々がどう考えなければいけないか”とか、“科学的になにかそれを減らしていく方法がないか”とか、防災意識を高めるという意味でもこの映画を見るとすごくいいなと思う」
「ディザスター映画で物が壊れる、竜巻によって建物が吹っ飛んじゃうみたいなことだけ描いている映画じゃなくて、そこに暮らす人々のことをちゃんと克明に描いているからこそ、この映画の根っこを張った設定が我々に響くんじゃないでしょうか」
■話題漫画のアニメ化『ルックバック』 一律料金でも不満が出なかった理由
「漫画でできる表現とアニメーションでできる表現って違うと思うんですよ。(漫画とアニメを比べて)展開はそのままなのに、細かい表現が“これは漫画だからコマを割って表現できる表現だ”っていうものと、“動画だからできる表現だ”というものの差があって、基本的に原作に敬意を払っているので、あんまり印象が乖離(かいり)していないと多くの方が思ったと思う」
「この映画は60分にも満たない映画だが(当日券の)料金は1700円で一律。昨今、大人の入場料金は2000円になって高いといわれているので、今作でも高いという意見があるのかと思えば、SNSで“高い”って書いているお客さんはほとんどいなかったのが印象的だった」
「つまり(作品への)満足度が高かったということだと思う。観客が望むものであれば、『ルックバック』は興行収入が20億円もいっているので、なにか興行の在り方みたいなものを見直すきっかけになるんじゃないかなと僕は感じています」
■「2024年で唯一、涙腺が決壊した」 吉沢亮主演『ぼくが生きてる、ふたつの世界』
「この映画の最大の特徴は、設定自体は特殊に見えるのに、ものすごく普遍的な家族の話で、特に母親と息子の関係を描いた作品になっていて、ものすごくラストで感動する。僕は2024年で唯一、涙腺が決壊した映画だった」
「この映画に出てくるろう者の方は、実際にろう者の俳優を起用しているところがポイントで、『コーダ あいのうた』(2022年日本公開)という映画がアカデミー賞を受賞したことをきっかけに、キャスティングの在り方が変わったと思うんですよ。“ろう者を演じるのはろう者の俳優であるべきだ”っていう考え方がちゃんと日本にもやってきて、やっとこういう作品が映画の世界でも作られるようになったなと」
■日本映画のアカデミー賞受賞で映画界に変化は
2024年の日本映画界を振り返ると、アカデミー賞やカンヌ国際映画祭など、国際的な映画祭での日本作品の活躍が目立ちました。松崎さんは、評価された作品について“ある特徴”があるといいます。
「2024年はアカデミー賞で『ゴジラ-1.0』と宮﨑駿監督の『君たちはどう生きるか』が賞をとったことに始まって、日本映画が海外で評価されることを見聞きすることが多かった」
「最大の特徴は海外を目指して作ったわけじゃないのに、海外で評価されたという点だと思うんですよ。自国で作って自国の観客が見ても面白いものを作るのは大前提な気がする。そこで質の高い物をつくればおのずと海外に持っていったとしても、そこで高く評価されるんじゃないかということを、特に『ゴジラ-1.0』は教えてくれた気がします」
「『ゴジラ-1.0』の場合は作品そのものだけでなくて、アカデミー賞の場合はこれだけの予算でこれだけの映像を作ったのかっていう点が評価されたわけです。(受賞を受けて)2024年から始まったことが2025年以降に公開される映画に波及していって、(日本で公開された映画が)海外でも高い評価を得ていく映画に変わっていくんじゃないか」
【松崎健夫さんプロフィル】
映画評論家としてテレビ・ラジオ・雑誌などの様々なメディアで活躍。デジタルハリウッド大学特任准教授、日本映画ペンクラブ会員、国際映画批評家連盟所属、ゴールデングローブ賞の投票権を持つ。