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『選書サービス』記者が体験取材 書店員ならではの本の選び方

2023年4月2日 21:40
『選書サービス』記者が体験取材 書店員ならではの本の選び方
本と出会うための本屋・文喫の『選書サービス』を体験取材 副店長の及川さん

書店員が自分にあった本を選んでくれる『選書サービス』。今年オープンから5年を迎える書店『文喫』(東京・六本木)の選書サービスを日テレNEWSの記者が体験取材。担当していただいた副店長の及川さんに、どのように本を選んだのか解説していただきました。

『選書サービス』は、「店頭でお客様とお話ししているときに、“おすすめの本ないですか”“選んでほしいです”という声があったので、サービスとして始めようかということで始めて、想像以上に需要がありました」とお客さんの声をきっかけに開始したといいます。

文喫の『選書サービス』では、用意された『ヒアリングシート』の質問に回答し、その回答に応じた書籍を専門スタッフが選んでくれます。

今回記者(20代)が体験したのは店頭で選書された書籍を楽しめる、店頭受取コース(入場料込み・書籍代別で税込6000円)。事前にオンラインでの回答が必要なヒアリングシートには年齢・職業のほか、『選書テーマ』や『最近よかったと感じた本・映画・音楽について』など16の質問があります。ヒアリングシートを返送してから、2週間以降で希望の日程を指定し、店舗に案内されるという流れです。店舗では、そのまま気に入った書籍を購入することもできます。

■記者が体験 今回の選書テーマは“新しい視点”

●ヒアリングシートの回答内容(一部抜粋)
・選書テーマ
日常に広い視野を取り入れたいです

・テーマの選出理由
新生活にも慣れはじめ、良くも悪くも一定のリズムができあがりました。そんな日常を、新たな視点・少し変わった視点で見直すようなきっかけに出会いたいからです

・普段読む作家やジャンル
江國香織さんや村上春樹さんなどの小説がほとんどです

・最近よかったと感じた本・映画・音楽など
最近ではないですが2021年9月発売の雑誌『小説TRIPPER』に掲載された江國香織さん『川のある街』も印象に残っています。小学生の女の子の視点で描かれ、明らかに大人っぽい視点なのですが、小学生っぽさも残っていて、読んでいてふわふわした感覚を覚えています。

・自由記入欄
最近嬉しかったことは、近所に昔ながらの喫茶店があり、しかもそこの店主さんはいかにもおいしいコーヒーを入れそうな白ひげを生やした見た目だったことです。

小説を好んで読む記者が、今回選書のテーマとして設定したのは「日常に広い視野を取り入れる」こと。社会人として働き始めて3年がたち、良くも悪くも一定のリズムができあがってきた日常に、“新たな視点”や“少し変わった見方”を取り入れることを目的としました。指定した書籍のジャンルは読書経験のある国内外の文学作品のほか、普段なかなか手にとらない宗教、哲学、絵本などのジャンルも選択しました。

そんな記者に提示された5冊がこちら。
(1)『ブロッコリー・レボリューション』 岡田利規/新潮社
(2)『遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ』 スズキナオ/スタンド・ブックス
(3)『用意された食卓』 カニエ・ナハ/青土社
(4)『すべて名もなき未来』 樋口恭介/晶文社
(5)『言葉と歩く日記』 多和田葉子/岩波新書

今回、選書を担当していただいたのは、副店長を務める及川さんです。なぜこの5冊を選んだのか、取材に応じてくれた及川さんに解説していただきました。

最初に紹介された『ブロッコリー・レボリューション』。たまたま道ですれ違った少年の心情を主人公が語るなど、だれがだれ視点で物事を語っているのか曖昧になる物語が5篇収録されています。

及川さん:隣にいる人が本当は何を考えているのかとか、絶対にわかり合えない、ということを改めて気づかせてくれる。(そういうことを)取り戻すことも大事かなって思って。あとは江國さん・村上さんが好きと言うことで、“生活のディテール”みたいな描写がお好きなのかなって思いました。

次に紹介していただいたのは『遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ』。4章からなる1冊で、“近所”と簡単に言い表せてしまう範囲内にも、一生知り尽くせない世界が広がっている、近場でも冒険ができる、ということを改めて教えてくれるようなエッセーです。

一冊目同様、“新しい視点”というテーマに沿った選書ですが、それ以外にも選書理由があると言います。

及川さん:(ヒアリングシートに)喫茶店を最近見つけて嬉しかった、というエピソードもあったので好きそうかなと思って。本の中にも、初めて行く喫茶店でコーヒーを飲んで…みたいな話が入っているので。読んで、実際にやって楽しめる本です。

■“あえて外したもの”を選ぶときも

5冊の中では比較的薄く、表紙だけではどんな中身か推測しづらかったのが詩集『用意された食卓』。記者が普段詩を読むことはなく、ヒアリングシートに“詩”というワードは記載していません。

及川さん:今の自分が何を考えているかと向き合うのにすごく詩はいいなって思っていて。 新生活になれてきたというところで改めて“どういう風に生きたいんだっけ、どんな生活をしたいんだっけ”ということを考えたいときに、詩ぐらいのガイドがちょうどいいというか。“こうあるべきだ”ということを言い過ぎず、今自分がどうしたいか、と向き合えるのが詩のいいところかなと思います。この詩を読むというよりは、自分の思考を読むのにいいんじゃないかなと思います。

■選書は一人ひとりその人に合わせて

今回、ヒアリングシートには、雑誌『小説TRIPPER』という具体的なものも回答に入れました。提示されたものを実際に手に取ることもあるといいます。

及川さん:どちらかというと面白いと思っているっていうことの方を重視します。「その本が好きです」とだけ書かれていると、この本のどこが好きなんだろうって悩んだりするので、どの要素が好きか、つかみきれない時に読んだりします。正解があるわけではないので、悩みながら、勉強しながらやらせていただいています。

本を選ぶときには、どのようなことを意識しているのでしょうか。

及川さん:(今回の詩集のように)能動的に読みに行かないと読めない本というのも入れたいと思っていて。希望のテーマの斜めというか、ちょっと違う視点のものも入れることは意識しています。歯ごたえのあるものも入れるとかは、意識していますね。“ど真ん中”と“どうかな、でもおすすめしたい”というのを入れています。

■選書サービスを体験して…思いがけない本との出会い

今回は特別に、及川さんに選書の理由についてお話をしていただきました。選書には、その人が本に何を求めているのか、本を通して何を感じてほしいのか、というメッセージが込められていて、一人では出会えなかった本を開くきっかけを与えくれる機会となり、改めて読むことの楽しさを実感できました。