芥川賞「ハンチバック」市川沙央さん 「読書バリアフリー」訴える重度障害者 当事者の視点で
第169回芥川賞・直木賞の受賞者が発表されました。芥川賞の受賞作「ハンチバック」は、重度障害者の視点から描く物語です。会見で市川さんは、作品を書く原動力は、「読書バリアフリー」が進むことだと語りました。
◇
19日、純文学中編・短編作品に贈られる芥川賞が発表されました。今回、受賞したのは重度障害者の作家・市川沙央さん(43)です。
芥川賞受賞 市川沙央さん
「芥川賞を目指していなかったので、驚いています」
筋力などが低下する筋疾患の「先天性ミオパチー」という難病を患っています。
芥川賞受賞作「ハンチバック」は、市川さんと同じ病気の井沢釈華が主人公。障害者の生活を克明に描くと共に、健常者の暮らしに向けた皮肉を、ユーモアを交えて描いています。
「奥から湧いてきた痰をふたたび吸引して取りきると脳に酸素が行き渡って気持ちが、いい。」(「ハンチバック」から引用)
市川さんは会見で、作品を書く原動力について、次のように語りました。
芥川賞受賞 市川沙央さん
「私が一番訴えたいのは、やはり『読書バリアフリー』が進んでいくことです」
「読書バリアフリー」とは、視覚障害者など誰もが読書を楽しめる環境を整えるようにすること。作品の中には、こんな表現がありました。
「私は紙の本を憎んでいた。目が見えること、本が持てること、ページがめくれること、読書姿勢が保てること、書店へ自由に買いに行けること、―5つの健常性を満たすことを要求する読書文化のマチズモを憎んでいた。その特権性に気づかない「本好き」たちの無知な傲慢さを憎んでいた。」(「ハンチバック」から引用)
自身の経験から、今の社会の読書環境について市川さんが伝えたいこととは…
芥川賞受賞 市川沙央さん
「芥川賞に重度障害者っていうのが受賞するのも、あまりなかった。初だと書かれるんでしょうが、どうしてそれが2023年になって初めてなのか。それをみんなに考えてもらいたいと思っております」
また、直木賞には垣根涼介さんの「極楽征夷大将軍」と、永井紗耶子さんの「木挽町のあだ討ち」の2作品が選ばれました。
◇
佐藤梨那アナウンサー
「今回の芥川賞、どのように感じられましたか?」
辻愛沙子・クリエイティブディレクター(『news zero』パートナー)
「読書のような日常の中に当たり前にあると思っていたことも、誰かにとってはすごくハードルが高いものなんだと、改めてハッとしました。バリアフリーと聞くと、例えばスロープや点字ブロックのような大きな設備を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、生活のあちこちに、そういう無自覚な不均衡があるということに、まず気づくことが大事だなと思います」
佐藤アナウンサー
「会見で市川さんは、当事者の作家があまりいなかったことも小説を書いた理由だと語っていました」
(7月19日『news zero』より)