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【虐待】「SOSを否定しないで」…当事者の声を伝える映画

2023年4月14日 20:28
【虐待】「SOSを否定しないで」…当事者の声を伝える映画
ドキュメンタリー映画『REALVOICE』を企画・監督した山本昌子さん

警察庁によると、去年、全国の警察が児童虐待の疑いで児童相談所に通告した18歳未満の子どもの数は、11万5762人と過去最多でした。虐待を受けた子どもへのケアがますます大きな課題となる中、虐待を受けた子どものその後に密着したドキュメンタリー映画が公開されました。

虐待を受けて施設などで育った若者約70人の”リアルな声“を映し出すことで、「大人になっても、虐待の苦しみは終わらない」というメッセージを伝える映画『REALVOICE』。

12日、都内で行われた試写会には、企画・監督を務めた山本昌子さん(30)、メインキャストの阿部紫桜さん(20)、主題歌を提供した歌手の加藤登紀子さんが登壇し、トークショーを行いました。

◇「まずは知ってほしい」そのために無料で公開

企画・監督を務めた山本さん自身も、生後4か月で育児放棄を受けて乳児院に保護され、その後児童
養護施設で育ちました。

現在は、虐待から逃れたなどの理由で孤独を感じている人に自宅を開放する「居場所事業」を行っています。

事業を通じて、児童養護施設などの社会的養護を離れた後に、多くの人が虐待の後遺症や孤独に苦しんでいると気づいた山本さん。

山本さん:
まずは知ってほしい。私たちの声に耳を傾けてくれる、それだけですごくありがたいし、それこそが、今知ってもらうっていうことがこの日本で大切なことかなと感じています。

仲間たちの“リアルな声”を多くの人に知ってほしい。映画を企画すると、全国約70人の当事者が集まりました。
映画は、より多くの人に見てもらえるよう、公式サイトなどで無料で公開しています。

山本さん:
(映画制作を)やろうって言ったときに、自分から「やりたい」って手を挙げてくれる子が多くてすごく驚いたんですね。でも、やっぱり自分の(虐待を受けた)経験を私たちが肯定できるチャンスって、人のためになった瞬間しかないと思っていて。

親に理不尽に殴られた理由をいくら考えても分からない。理由なんて出てこない。何で自分が愛されなかったのか分からない。

それでも、過去の自分は救えなくても未来の子どもたちに繋げたい。本当にみんなそういう思いだと思っています。

◇大人になっても続く苦悩…虐待を受けても簡単には切れない縁

トークショーに登壇した阿部紫桜さん。約1年間の密着を通し、大人になっても続く苦悩を伝えました。

映画のなかで阿部さんは、虐待を受けてもなお母親を「大好き」と話し、義理の父親の死を経て、落ち込む母親を支えるか、母親と絶縁して自分の人生を優先するか、葛藤する姿が描かれています。

阿部さん:
母親の態度によっては絶縁しますし、その覚悟を持って映画に出演をさせていただいているので。もう自分は自分だし、これからの人生自分は他の人に邪魔をされたくないので。

映画を母親が見てどういう態度を取ってくるか。それによっては関係をそのまま継続していくんですけれども、親がすごく否定的な意見であったり、「あなたが悪い」と言ってきたら、もう絶縁しようかと思っています。

◇加藤登紀子さんが提供した主題歌『この手に抱きしめたい』

主題歌の『この手に抱きしめたい』は、今回山本さんの思いに賛同した加藤登紀子さんが、無償で提供しました。

加藤さん:
ここ(作品中)に描かれていないけれども、「本当はあなたを愛しています」「遠くからあなたを見守っています」っていう。お母さんの側からのメッセージのような感じがしましたね。お母さんの声を、歌を通して聞いてほしい。

◇虐待のSOSには「そんなことがあるわけない」ではなく「あるかもしれない」と考えて

映画を通し、虐待された人たちの苦悩を描き、問題を提示した山本さん。

山本さん:
みんなが虐待のSOSを出しているのに否定された経験から、もうSOSを出したくないと感じている子は多いと思っていて。多分防御本能だと思うんですね。聞いている側の。

「そんなことがあるわけない」とか「作り話なんじゃないだろうか」「嘘なんじゃないだろうか」とか。受け止められず嘘だと片付けようとしている自分にみんなが気づく、そこがとても大切だと思っていて、「そんなことはあるのかもしれない」。そう、想像を働かせていってくれる方が増えるっていうだけで変わってくると思っています。