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中村歌昇 “引き継がれる歌舞伎”への思い

2021年12月18日 19:16
中村歌昇 “引き継がれる歌舞伎”への思い

10代から30代の若手歌舞伎役者が歌舞伎界において存在感を増す今、若手をけん引し続けている中村歌昇さん(32)。歌舞伎座『十二月大歌舞伎』では、初役に挑みます。

舞台に立ち続ける中、2人の子供がいる父親としての一面も…。歌舞伎家ならでは、父親として息子への期待、そして今一番気になっていることまでをお聞きしました。


■「この舞台を通してつながっているんだな、また一緒に歌舞伎をやっているんだなと」

——11月『吉例顔見世大歌舞伎』第三部「花競忠臣顔見勢」では、市川猿之助さんが演出を勤められました、いかがでしたか。

「(猿之助の)お兄さんの演出のお芝居に出させていただくのは初めて。すごく全体が本当に見えていらっしゃる方なので、全体を見渡す力というものが結局、自分の演じる時に生きてくるところも多分あると思うので、そういったところも今回は楽しく、面白く勉強しています」

——先輩方からの教えで印象的だったことは。

「先輩方が毎月いろいろとおっしゃっていただけるということはすごくありがたいので、言われなくなってしまったら本当におしまいだと思う、それをどれだけ自分の糧にできるかっていうところですかね。貴重ですよね。舞台を通して先輩方、同世代、後輩…この舞台の演技を通してつながっているんだな、また一緒に歌舞伎をやっているんだなっていうのをすごく感じられて。それはコロナ禍になって新たに感じたような部分ではありますね」

 そして12月、歌舞伎座にて上演されている『十二月大歌舞伎』第二部「ぢいさんばあさん」。夫婦の愛情あふれる姿を描いた物語で、歌昇さんは宮重久右衛門役を初めて勤められます。その思いとは。

「(中村)勘九郎のお兄さん、(尾上)菊之助のお兄さんのお二人に色々お話を聞きながら一緒に作り上げていけたらいいなと思いますし、すごく素敵な心温まる作品ですので、自分の中で意識しながら、作品の中に自分がどう関われるかっていうのを考えていきながら演じていきたいなと思います」

「初役の時はやはり教わったものをその教えの通り忠実にやるということがすごく大事だと思います。2回目3回目からやっと自分の考えをその役に吹き込んでいく。先輩方が演じてきたものを勉強しながら、そういったところに気をつけながらやっていきたいなと思いますね」

——舞台のない時間の過ごし方は。

「子供が男の子2人なのですごく大変ですけど、それが今息抜きにもなっていますし、楽しかったりすることもあります。僕自身も男兄弟2人だったので、やっぱりケンカというか取っ組み合いじゃないですけど、そういうのも何でも経験だなと思ってなるべく見守るようにはしてはいるんですけど…、とりあえずうるさいです(笑)」

 自分自身が舞台に立つだけではなく、2人の子供の父親としての一面も。その大変さはまた違うそうで…。

——2019年に長男・綜真(そうま)くんが初お目見得、その時の心境はいかがでしたか。

「自分の父(歌舞伎俳優・三代目中村又五郎さん)もきっとそういう心境だったんだなというのをやっと感じることができましたね。初お目見得の時はまだ3歳だったと思うんですけども、花道で(中村)吉右衛門のおじさまに“坊よ、名前は。”って聞いていただいて、“小川綜真にござりまする、どうぞよろしくお願いします。”っていうだけだったんですけど。初めてお稽古場に行っていろんな先輩方…、大人しかいないですからね、そういった場に行って萎縮してしまって…」

 初めての稽古場に綜真くんは1回も声が出せなかったとのこと。本番でもしも言えなくてもいい、とりあえず出てくれるだけでも偉いと思っていたと当時の心境を語る歌昇さん。

「いざ本番で花道の七三(俳優が見得、形を決める場所)に行って、吉右衛門のおじさまに声をかけてセリフを渡してもらった後、しゃべるんですよね。すごいビックリしちゃって、その後僕が抱きかかえて引っ込むんですけど、もう僕、泣きそうでしたよ。よくやってくれた…(涙) 本当に一日一日できることがどんどん増えていってるので、なるべくいろんな経験をさせてあげたいなとは思っていますね」


■「夢は…ソロキャンプをやってみたいな」

——今、一番気になっていること、挑戦したいことは。

「そうだな…キャンプ!この前グランピングに行ったんです、家族で。すごく良かったですね。夢はソロキャンプをやってみたいなと。自分でコーヒーをミルで…、温かいコーヒーを…っていうのが、今の一番やりたいことかもしれないですね。テントもう買っちゃいました!次に寝袋とかっていうレベルまで来ています…!」

——最近の舞台、若手だけでの公演が増えていることについて。

「本当にありがたいことですけど、ただありがたいって言っているだけでは良くなくて、それなりの成果であったり…、やっぱり一緒に出ている人たちの評価っていうのもすごく大事だと思います。“前回教えて今回良くなったね”って先輩方におっしゃってもらうのが一番僕はありがたいなと思うので、そういった意味でも機会をいただいた時には本当に必死になってやりたいなって思います。——今ちょっと思ってもないこと言っちゃって半笑いになっちゃったんですけど(笑)カットで!(笑)」

——どのような歌舞伎俳優になっていきたいか。

「自分の信じてきたもの、自分が本当に大切に思っていることって、きっとみんなそれぞれ違うと思うし、それがお客様にとって良いのか悪いのかもきっと色々あると思うんですけど。でも僕はそれを貫き通せる人間でありたいなと思っています。もちろん自分自身も柔軟になって色々な発想、色々な考え方を持つということも大事ですけど、自分の本当に根っこにある、芯のところにあるものは絶対揺らがないようにして、自分自身が少しでも尊敬する人、そういう方々に近づけていければいいなと思います」


◇◇◇
先輩方から教えてもらう一方で、人に教えることも勉強であり、役の気持ちなど自分の考えを言語化することで、より自分自身を客観視して整理できるのではないかと、最近感じ始めたと語る歌昇さん。自分は感覚人間で、SNSでもただ単に好きなこと、伝えたいことを投稿しているとのこと。自然体であり、ありのままの自分で常に向き合っている歌昇さんに今後も注目です!


【中村歌昇(なかむら・かしょう)/屋号:播磨屋】
三代目中村又五郎の長男で、1994年6月『道行旅路の嫁入』の旅の若者で四代目中村種太郎を名乗り初舞台。2011年9月『舌出三番叟』の千歳ほかで四代目中村歌昇を襲名。


【市來玲奈の歌舞伎・花笑み】
「花笑み」は、花が咲く、蕾(つぼみ)がほころぶこと。また、花が咲いたような笑顔や微笑みを表す言葉です。歌舞伎の華やかな魅力にとりつかれた市來玲奈アナウンサーが、役者のインタビューや舞台裏の取材で迫るWEBオリジナル企画です。