「信じ許すことを諦めない限り人生は開ける」ジェーン・エア~中島芽生の観劇コラム~
3月11に開幕のミュージカル『ジェーン・エア』の舞台稽古を観劇した日本テレビの中島芽生アナウンサーのコラム。ジェーンが生きた時代と、今につながる、“苦しみ”の先に感じた大切なこととは…。
■苦しみの先の慈悲深い幸せ…優しく導いてくれる作品
「自分はジェーン・エアのように、強く自分の信念を持ちながら、許し、愛することができるだろうか」
ミュージカル中、何度も投げかけられるこのメッセージに、身を裂かれるような苦しさを感じながら、ジェーン・エアと共に一生を歩む。そして見終わったあとに辿り着いたのは、教会で美しい讃美歌を聞いている時のような、いつくしみ深い幸せの場所でした。
いよいよ開幕するミュージカル『ジェーン・エア』の舞台稽古を拝見いたしました。
全てを手にしているけれどどこか孤独を抱える男性と、何も持たない、自分の強い信念と自立心だけで道を切り開いていく女性が、出会い、互いに共通するものを見出し、人生に影響を与えていく…。
まず、そんなこの物語の原作が書かれたのが1847年という事に驚かされました。
当時、女性の権利が今よりも認められていない中で、ジェーンが強く生きる姿というのは多くの女性を勇気づけたことが想像できます。そしてそれは現代の私たちにとっても同様で、共感できる部分が多くあります。
そしてそんな中、もうひとつの疑問も浮かび上がってきます。「なぜ今、この作品を上演するのか」。
コロナで困難が続いた日々と、ジェーンの生きた時代の苦しさが重なると共に、心無い言葉が誰かを傷つけたり、批判の声が増幅しやすかったり。そんな現代に対して、ジェーンの親友ヘレンがジェーンに教えた「赦すの それが正義よ」「抱こう 勇気を 愛するために」そんな言葉が優しく導いてくれているような気がしました。
この文学的であり繊細で強いメッセージを持つ物語を演じるのは、実力派のキャストの皆さんです。
まずジェーン・エアと親友のヘレンを演じるダブルキャストの上白石萌音さん、屋比久知奈さん。私が拝見したのは上白石さんのジェーン・エアでしたが、上白石さんから溢れる優しさと強さがまさにジェーンそのもので、力強い歌声が物語が進むにつれて変化し続けていることに心を奪われました。そして親友のヘレンを演じる屋比久さんの歌声は、ジェーンを導く存在として物語全体に響きを残します。このダブルキャストの2人が親友同士の役を双方演じることで、井上芳雄さんの言葉をお借りするなら「共鳴し、2人で全てを分かち合って」いて、だからこそ演技にも歌声にも真実味があるのだと感じました。
そして、言わずもがな、井上さんの素晴らしい歌声と演技力には圧倒されるばかりでした。複雑な人間性を見事に演じ、「生きた舞台を届けたい」と話されていたように、まさに舞台上でエドワードを生き抜いていらっしゃいました。
■宝塚歌劇OG4人が出演…何役をも緻密に演じ分け、美しい旋律で物語を綴る
さらに、アプレジェンヌでもインタビューをさせて頂いた、春野寿美礼さん、樹里咲穂さん、仙名彩世さん。
皆さん、いくつもの役を演じ分け、常に舞台上に立ち、様々な役を緻密に繊細に表現されていました。「聞く以上に難しい楽曲」だとお話されていましたが、その難しさを感じさせない美しい旋律で物語を展開させていくお姿は、実力派のキャストの皆さんだからこそできる技であると感嘆しました。
インタビューで樹里さんが「春野さんがトート閣下になる時がある」とお話していましたが、なるほど男役スイッチが半分くらい押された春野さんが登場するシーンもあり、宝塚ファンとしては「ひゃっ」となるので必見です。
そして宝塚OGである春風ひとみさん演じるミセス・フェアファックスも魅力的な役で、人を偏見なく、自分の心の声のまま愛することをごく自然に、打算なくできてしまう女性として、物語全体に愛の深みを加えてくれます。春風さんはフェアファックスの人生がどんなものだったのか観客に想像を掻き立てさせる見事な演技でした。
ジェーンのように自分の心に正直に、そして正しく正義だと思う道を選ぶことは容易ではありませんが、愛すること、信じ許すことを諦めない限り人生は開けると考えさせられる作品でした。見終わった後に心に吹く慈愛に満ちた風は、何か困難に直面した際に今後、自分の背中を押してくれるような気がします。
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【ミュージカル『ジェーン・エア』】
3月11日(土)~4月2日(日) 東京芸術劇場プレイハウス
4月7日(金)~4月13日(木) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
LIVE配信
《4月1日(土) 17:30公演》上白石萌音(ジェーン)屋比久知奈(ヘレン)
《4月2日(日) 12:30公演》屋比久知奈(ジェーン)上白石萌音(ヘレン)