『ヒロアカ』の劇伴作家・林ゆうき キャラクターを音で表現 「連想させるものを重ねて」
■「死柄木を救いたい気持ちを入れたくて」主人公・デクを音楽で表現
『僕のヒーローアカデミア』は、炎を放つなどの超常能力“個性”を持つキャラクターたちが、その能力をいかし、人を助けるヒーローになることを目指す物語です。
2016年にアニメシリーズの第1期が放送され、最新シリーズとなる第6期は2023年3月まで放送されていました。第6期は、ヒーローとヴィラン(敵)が全面戦争を繰り広げる物語。林さんは6期の劇伴を制作するにあたり、そのシリアスな展開に合わせ、今までのシリーズを通して使用してきた劇伴に変化を加えたといいます。
――劇伴の制作過程を教えてください
アニメの場合は最初に打ち合わせがあって、監督とかプロデューサーとかと「こういう作品で、こういうふうに見せたい」「この年齢層に届いて欲しい」とか、(作品の)コンセプトを聞いて。そして、音響監督さんからメニュー表で「こんなふうな曲を作って下さい」と(具体的なオーダーが出る)。
――『僕のヒーローアカデミア』のメニュー表には、どのようなことが記載されていましたか?
(アニメ1期の)メニューなんですけど、主人公のデクくんのテーマの曲『You Say Run』には、「覚醒、ついにデクにも個性が。オールマイトのようにファンファーレ的イントロをまとって音楽スタート」、「アクションシーンでも使える」みたいな感じで書いてあるんです。
――6期はシリアスな展開が多いですが、劇伴はどのように制作しましたか?
音響監督からとんでもないことを言われて。6期ですよ、6回目で「主人公の新しいテーマ曲を作ってくれ」って言われたんです。今までずっと『You Say Run』というメインテーマを使ってきたのに。“メインテーマ変えるの?”って。監督から「(物語の)後半になって世界観がもっと複雑に壮大になってきて、新たな一面も、彼(主人公)が成長して学んで戦って培ったものとして使いたい」って言われて、悩みながら作ったんです。死柄木(しがらき)っていう主人公と相対するキャラクターがいるんですけど、彼のことを主人公のデクくんは「倒したい」じゃなくて「助けたい」っていうんです。その「助けたい」って気持ちが、彼がヒーローを志す原点なので、僕がやったのは、新しく作った(主人公の)メインテーマの一番最後の大サビの後に、死柄木くんのテーマ曲のメロディーの音符をひっくり返したのを入れて。デクくんはヒーローになって、死柄木はヴィランっていう敵になっているけど、一歩間違ったら自分(デク)もヴィランになってしまったかもっていう物語なので。ヴィランになってしまった死柄木を救いたいっていう気持ちを入れたくて、ひっくり返したモチーフを入れたんです。そういうことを提案するのが面白い。お客さんが喜んでもらえることを音楽で提案するのが楽しいですね。
――音符をひっくりかえすとは、どういうことでしょうか?
敵のモチーフが、“ド・レ・ミ”だとしたら、“ミ・レ・ド”にひっくり返して主人公の新しいテーマに入れたり。
――物語やキャラクターを音で表現するんですね。ほかに、特定のキャラクターを表現した曲はありますか?
6期でいうと『Dabi Dance』っていう曲です。荼毘(ヴィラン側のキャラクター)が彼の父親にひどい扱いをされてた事を皆の前でバラしてしまうシーンでかかる曲なんですけど。エンデヴァー(荼毘の父)になぞらえて、エンデヴァーのモチーフを入れて。(エンデヴァーが炎を放つ能力を持っていることから)パチパチパチパチと後ろで燃えている音がしながら、鳴るピアノを入れたり。轟くん(荼毘の弟)のモチーフなど、彼の過去を連想させるようなものをいっぱい重ねて。少年の笑い声とか、荼毘は泣きながら笑ってるんだろうみたいな音を入れて世界観を作っています。
■劇伴制作は「作っていて自分がワクワクしたら勝ち」
年間で数百曲以上もの劇伴を手掛け、オファーが尽きない林さん。オファー先からは「いい意味でオーダーと違う曲をもってくる」といわれることも多いといいます。劇伴制作において大切にしていることを伺いました。
――劇伴制作で大切にされていることはありますか?
音楽を作っている感覚はなくて、映像と一緒に楽しめるコンテンツを作っているといいますか。劇伴の面白いところって、映像と一緒になった時に、1秒(曲)をずらしただけで全然印象が変わったりとか、鳥肌が立つような瞬間が作れたりするので。最終的に映像に合わさった時に、イメージ通りのものとかイメージ以上のものができた時が楽しいし、そういう感覚を、監督にも作品を見てくださるファンの人にも味わってもらえるようにと思いながら作ることが多いです。
――人の心を揺さぶるコンテンツを作るために意識されていることはありますか?
『ヒロアカ』とか『ハイキュー!!』みたいな、よくオファーをいただく作品のアクションシーンやメインテーマは、作っていて自分がワクワクしたり、筋トレしたくなるなって思えたら勝ちだなと思っていて。作っている時に体が自然と動き出すような、自分がトレーニングに使いたいとか、ダンスしたいって思えるようなもの。リズムだけとかコードだけ(の段階)でも、そう感じとれたら“多分このメインテーマうまくいく”っていうのがあるので。そこの直感というか、自分が楽しくなったりとか、めっちゃいい感じになってきたって思えると、正解なのかなと思っています。
■劇伴フェス開催へ 『SPY×FAMILY』や『NARUTO-ナルト-』の楽曲も
劇伴作家として第一線で活躍する林さんは、新たな活動を続けています。29日には国立代々木競技場第二体育館で、林さんが出演する劇伴フェス『東京伴祭 -TOKYO SOUNDTRACK FESTIVAL- 2023』が開催されます。林さんのほか、アニメ『SPY×FAMILY』の劇伴を手掛ける宮崎誠さんや『NARUTO-ナルト-疾風伝』の劇伴を手掛ける高梨康治さんも出演。アニメ映像と共に、それぞれの作品の劇伴が演奏されます。
2022年9月にも、京都にて同じ出演者で劇伴フェスを開催した林さん。過去にあまり前例のない劇伴のフェスを開催しようと思ったきっかけや、『東京伴祭』への意気込みを伺いました。
――前回、京都で劇伴フェスを開催したきっかけを教えてください
コロナが一番世間で騒がれていた時に、実家の京都に帰ることがあったんですけど。ゴーストタウンみたいになっていて、寂しかったのを覚えているんです。十何年、劇伴のお仕事をさせてもらってたんですけど、恩返しができないかなって思って。僕らの作ったアニメ作品は、世界中で見ていただいていて、愛してもらっている。作品だけじゃなくて、音楽だけ集めたようなコンテンツで海外からお客さんを呼べるものを自分たちで作れないかなって思ったんです。
――京都での劇伴フェスでは、いかがでしたか?
京都市の人に見に来てもらったら「こんなすごいことだなんて思ってもいませんでした」って言ってくださって。(出演した)宮崎さんも「めっちゃ楽しいし、是非また次回も」って言って下さって。僕がステイホームしてた時に思いついて、友達とか友達の作家に話したりとか、スタッフに絵空事のように話していたことが現実になって、夢見た言葉を話して仲間を集めたらかなうんだっていうところが一番うれしかったですね。
――29日開催の劇伴フェス『東京伴祭』への意気込みをお願いします
日本アニメの劇伴フェスを作って、何か変えていけたらと思って自ら発信したんですけど。全ての音楽出版の人とか権利元の人たちがコンサートに対して前向きな意見をくださって。アニメの日本のチームでタッグを組んで、(たくさんの人に)見てもらえるようなコンテンツを作れたらいいなと思います。