【解説】利上げは来年早々? トランプ大統領就任で日銀は?
また、国内外の政治が大きく動くなか、来年の金融政策はどうなるのか? 経済部・宮島香澄解説委員が植田総裁の会見をもとに読み解く。
■植田総裁会見のポイント
――日本銀行の植田総裁の記者会見について、経済部の宮島(香澄)解説委員とお伝えします。金融政策決定会合は、たった今植田総裁の記者会見が終わりました。どんな内容でしたか?
宮島:今月は多分利上げはしないだろう、でも来月はするだろうという空気が広がっている中での会見でした。植田総裁が来月についてどう言うかが非常に注目されたんですが、これは1月に利上げしそうだという強い印象はあまり感じませんでした。
会見のポイントはこちらです。
12月の決定会合では今の大規模金融緩和策を維持しました。ただ、委員1人が利上げを提案しました。やり取りの中で、今回はなぜ利上げをしなかったのかに関心が集中したんです。
一つは今後の賃金動向について、もう少し情報が必要、としました。それから、利上げを阻むものとしては、アメリカの次のトランプ政権の経済政策がどうなってくるのか、この不確実性が大きいという話がありました。
さらに質問に答える形でしたが、アメリカの状況や春闘がいつわかるのかという質問に、大きな姿がわかるのは3月から4月と。これは利上げは先なのかなって思ってしまいました。
もちろん総裁は、大きな姿が全部わからなくてもモメンタムがよければ上げるということを前提としては言っているんですけれども、印象として、すぐ上げる感じではないという印象を持ちました。
それから、期待インフレ率の上昇もゆっくりだと、そして見極めが必要だと話しました。会合の前の日銀の幹部の発信も、物価が跳ね上がってしまうという心配は示されていませんでしたし、1月になれば賃金のデータも増えるのでまだ考えやすいというメッセージでした。1月も可能性高くないのかなと思うような会見でした。
■会見をうけて円安進む
――総裁の会見を受けて円相場はどうなっていますか?
今、こちら、総裁の記者会見の間だけで1円50銭ほど円安になりました。日本時間の未明には、アメリカが金融政策で、利下げをもうちょっとペースを落としていくというメッセージで、朝の段階で結構円安になっていました。
今日昼ごろ、今の大規模緩和維持というのが決まってそこで60銭から70銭ぐらい円安が進み、今の記者会見の最中に1円50銭。昨日に比べますと、今2円77銭円安になっています。
こちらはこの1年の円相場ですが、7月にものすごい円安になった時がありました。その後、一旦円高にはなってきたんですけれども、また最近円安が進んでいます。
■海外や政治状況の影響は?
――今回の判断には海外や政治の状況も影響したんでしょうか?
宮島:日本にしても海外にしても、今政治が不安定だということがあります。もちろん、日銀は独立しているので、政治が直接影響しているとは言いにくいんですが、影響していると思います。
まず日本は石破政権が少数与党になりまして、今、来年度の税や予算を決める話し合いをしているんですけれども、例年と全然違う状態になっています。年内に大きなところが決まらない、あるいは年明けに協議をするのでは、と。
政治から金融政策に関して口出しはされにくいかもしれないですけど、ここで利上げをしたら「余計なことするな」という声も出てくるのかもしれません。不安定な状況だと、利上げのしにくさはあると思います。
それから海外、これは会見でも言ってますけれども、トランプ政権が何をやるか、重要で確実性がないところだと言っています。トランプ氏の政策は、ドル高になりやすいものが並びますが、でもドル高はよくないとトランプ氏は思っています。政策を出しながら全然違うことを言うかもしれない、不確実な状態だと思います。では1月に就任した後はそれが落ち着くのかいうことがあります。
また、大きくはないかもしれませんけれども、韓国で大統領が戒厳令を出すということがありました。韓国通貨のウォンが値が大きく落ちたというわけではないですが、騒動と日銀の利上げが一緒になったりすると、何かのタイミングで通貨危機なども起こりかねないのではという心配もあります。
――今回の会合では、過去25年の金融政策について振り返るレビューの結果も発表されましたね?
宮島:はい、これはちょっと難しいんですけれども、これまで25年間やってきた金融政策がどうだったのかという分析の成果が示されました。ポイントはこちらです。
非伝統的な金融政策、ゼロ金利政策、量的緩和、イールドカーブコントロール、金融政策が次々と出てきましたけれども、これがどうだったのかということです。
現時点では全体として見ればプラスの影響と、レビューはしています。ただ副作用は遅れて出ることもあるので今の段階で言い切れないと。マイナスの影響が大きくなる可能性があるとしています。
それで、非伝統的な金融政策の手段は、昔からやっていて今もやっている短期金利を動かす伝統的な金融政策に比べますと、効果は不確実だということです。
さらに、黒田総裁時代などの大規模金融は、やってみたけれども、当初想定した程度の効果を発揮しなかったとしています。
結果として、やはり、「可能な限りゼロ金利政策に直面しないような政策運営が望ましい」というのが今回のレビューの結果です。
つまり、トータルとしてゼロ金利政策になってしまったら、そこからいろんなことをやっても本当に難しいということです。
だから、金融政策をする日銀としては、やはり金利を上げたり下げたりして物価を調整する、そういうカードを持っておくことが大事です。日銀としてはその金利ののりしろを作っておきたいと示すことになったと思います。
■来年の金融政策はどうなる?
――来年の金融政策はどうなるでしょうか?
宮島:こちらは来年の日程です。
今回利上げはなかったけれども、きょうのお話ですと1月もどうかな、と思います。20日にトランプ氏が大統領に就任して、今よりは不確実性はなくなるかもしれないですが、次々にどんな政策が出てくるからわからないということはあると思います。
3月には来年度予算が成立するはずです。今の政治の状況で、どうなるのかという心配もあります。成立したらここで、少数与党では厳しいということで、政権がもしかして衆院選に打って出るのではないかという話もあります。
選挙が近い時期は金利をあげにくくなるかもしれませんし、来年は参議院議員選挙があります。もちろん選挙があったら利上げができないわけではないんですけれども、政治の状況・景気・経済の状況を注意して見なければいけません。
野党は、金利を上げると中小企業が非常に厳しくなると言っています。また、金利を上げると、住宅ローンの金利は少しあとから上がってきます。そういったことがどのくらい影響するのか。来年はどんな年になるのか、経済はどうなるか、来年も注目したいと思います。