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物価高対策より賃上げ 経済界の頭の中は? 日本製鉄と経団連に聞く

2022年8月16日 22:31
物価高対策より賃上げ 経済界の頭の中は? 日本製鉄と経団連に聞く
日本製鉄・橋本英二社長(従業員10万6000人。トヨタなど自動車メーカーに鉄鋼関連製品を納める)

これだけの物価高では、個人消費の好調を維持するのは難しい。だからといって、「物価高対策」で小麦やガソリンの高騰を抑えたところで、対処療法にしかならない。物価が上がっても消費が鈍らないようにするには、物価上昇分を超える賃上げが必要だ。

では、賃上げについて、経済界の有力者たちはどう考えているのか?産業界をリードする二人に聞いた。

■企業物価の上昇 賃上げに不可欠

――物価が上昇している中で、日本全体の賃上げはどうしたら実現するか

日本製鉄・橋本社長
「今の日本の企業物価の水準(企業間の取引価格)では、海外からの調達が難しくなっている。国内の企業物価をあげていかないといけない。『鉄鋼』対『自動車』もそうだが、物価をあげていかないと海外から必要なエネルギー資源が買えない」
「企業物価が上がるということは、最終的には消費者への価格が上がるということ。従って賃上げしないと経済が循環しない。だから、『賃金をなるべく抑えよう』というのは今後企業にとってむしろリスクになる」

――賃上げのためにも企業物価を上げる必要があるという認識を広く共有できなければうまく回らない。

日本製鉄・橋本社長
「昨年度、日本製鉄は自動車業界に対して値上げを行った。『海外発の要因でコストが上がった分は(発注側の自動車業界も)応分に負担するのが当たり前でしょう』と、去年そう言ったときには『そんなこと言ったって20何年そうやっていないから』と」
「『では、適正価格じゃないなら安定供給できませんよ』ということで、量を絞ると物議を醸したけれど、それでちゃんと取引価格はあがりました。うち(日本製鉄)がそうしたから、今、他の業界もそういう風になっている」

――日本全体で、賃金はどれぐらい上がらないと好循環しないか

日本製鉄・橋本社長
「まず企業物価がどれぐらい上がっていくかが一つの目安。(※7月の企業物価指数は前年同期比で8.6%増)。(賃金上昇率は)いずれ超えていかないと循環しないでしょう。だからガソリンの補助にはあまり賛成じゃない。あれで物価の上昇が見えなくなっている」

――3年後、日本全体で経済の好循環できるぐらいの賃上げはどれぐらいのレベルと考えるか

経団連・大橋副会長
「平均賃金ということでいくと、中小の賃金レベルは大企業の7割というレベル。非正規の賃金が低いのも事実。中小企業と非正規の賃金をあげていくのが非常に大事だと思う。経団連の加盟企業は大企業が多い」
「(コロナ禍で)飲食業など厳しいところは別として、かなりの大企業が賃上げしてきた。中小企業にどうやって賃金を引き上げてもらう機運をつくってもらうか、そこはそうシンプルでない。大企業と中小企業のサプライチェーンの取引価格の修正、原材料費などが上がっている部分をどう取引価格に織り込むか。各会社がやりましょうと言っている」
「また、中小企業庁の下請けGメンも動いているので、そこでそれなりの価格調整が行われていけば中小企業の方も(賃上げの)原資がそれだけ増えてくる。ただインバウンドが中心の飲食や宿泊などの業界は苦しいので引き上げられるかは一概に言えない」

――取引価格の見直しはコストの増加分だけだと下請けの利益も拡大しないし、賃上げまで行かない。

経団連・大橋副会長
「(価格改定は)会社ごとの取引交渉の中で決まるもので、原材料費以外でもいろいろな要素を織り込めればその分ば原資になる。また、新しい資本主義と言っている中で、どうしても投資家の方はROE(自己資本利益率)などが何パーセントかを見るが、それだけじゃない企業への評価が必要。『人への投資』『環境への投資』などいろいろなことをどう評価するかだ」

――大企業は中小企業が賃上げできるように支援は進んでいるのか。

経団連・大橋副会長
「(企業が社長名で取引先への姿勢を宣言する)『パートナーシップ構築宣言』を表明する企業の数がかなり増えている。その方向性に行っている」

――パートナーシップ構築宣言でどんなことが行われているか

経団連・大橋副会長
「たとえば大企業と中小企業で支払い条件を、キャッシュ率をパーンと上げるとか、全額キャッシュにするとか、手形の期間をワッと短くするとか。価格交渉の協議に応じるとか。中小企業がちゃんと臆することなく対等にフェアな立場で交渉できるように取り組んでいる。中小企業は利益もそうだが、資金繰りの問題も大変大きいのでそこの改善の必要性もある」

――取り組みが進んでいるという実感は?

経団連・大橋副会長
「パートナーシップ構築宣言を行う企業が増えたのは進んでいると思うが、十分かは今ちょっとお答えしづらい」


※7月22日に取材 軽井沢にて

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