【解説】「日本車は負けた」…“遅れ”取り戻せる? 2024年、日本のEVの展望は
2023年、「東京モーターショー」から変貌した「ジャパンモビリティショー」が開催された。来場者数は100万人を超え、関係者も「大成功」と口をそろえたが、「日系メーカーのEVへの遅れが目立った」との指摘も。2024年、日本のEVは巻き返せるか。
(経済部 戸田 舜介)
■「デザイン・技術とも日本車は負けた」…モビリティショーで突きつけられた“日本の遅れ”
2023年10月、これまで2年に1回開催されてきた「東京モーターショー」が生まれ変わり、自動車のみならず、未来の乗り物やスタートアップなどにも展示を広げた「ジャパンモビリティショー」が開催された。特に目立ったのは“未来のEV=電気自動車”の展示だ。例えばトヨタ自動車は、利用者のニーズに合わせて使い方を変えられるEVなどを提案。日産自動車は、完全自動運転の新型EVなどを展示した。
来場者数は100万人を超え、関係者も「大成功だった」と口をそろえたが、ある関係者は「デザイン・技術ともに、日本車が負けたことを突きつけられた。このままでは、円は売られて日本は終わってしまうだろう」と強い危機感を募らせた。いったい、日本車は“どこ”に遅れているのだろうか。
■「デザインも技術も中国の方が上」…BYDはナゼ強い?理由(1)
今回のモビリティショーで大きく注目されたのは、今回が初参加となった、EVで存在感を強める中国のBYDだ。先の関係者は、BYDのEVを見て「デザインも中国の方が先駆的。それだけでなく技術も、日本車は中国車に後れを取っている」と話す。
BYDは、EVの販売台数でテスラに次ぐ世界第2位。強みは、創業がバッテリーメーカーという点だ。そもそもEVの開発には、「高性能な電池」が必要不可欠で、その研究開発のための費用がEVの価格をつり上げる一つの要因となっている。
しかしBYDは自ら電池を生産できる体制を持っていて、さらにそれをグローバルに展開しているため、電池の開発コストがかかりにくい。そのため補助金を活用した場合、安い車種では300万円ほどで購入できるものもある。
■BYDはナゼ強い?理由(2)…「車体と一体化した」電池技術
BYDはさらに、開発するEVに「CTB=Cell To Body」とよばれる技術を採用している。漢字で表記すると『電池車身一体化』。
通常、電池は車体とは別に独立された物として作られ、後から車体に“組み込まれる”設計となっている。しかしBYDのこの技術では、漢字表記から推察できるように、タイヤやモーターが電池のプレートと「一体化」されている。
つまり、このタイヤとモーターと電池が「一体化」された“プレート”の上に、新しいデザインの車体を上からはめ込みさえすれば、「新車」が完成できることになる。まるで我々が気分転換で、スマートフォンのカバーを交換するような感覚で新車を世に放っているのだ。
そのため、新車の開発から発表まで数年かかる日系メーカーとは、“スピード感”が全く異なる。BYD関係者は「日本のEV市場はまだまだ小さい。私たちは、既存の日系メーカーと“EV競争”をするのではなく、むしろ、私たちが先頭に立って、一緒に市場を“つくっていく”という思いだ」と、まさに“王者”の語り口だ。
■日本でEVが進まないワケ(1)…“インフラ整備”
トヨタ自動車は、「マルチパスウェイ」という戦略を取っている。EVのみならず、ガソリン車も、ハイブリッド車も、「全方位」で研究開発を行い、「多様な選択肢」を提供しようとする戦略だ。ただ、あるトヨタ関係者は「はっきり言って、うちはEVで後れを取っている。これからスピード感をあげて巻き返しを図らないと、もっと遅れる」と語気を強める。
また、別のトヨタ関係者は、「EVを頑張らないといけないのはわかっている」としつつも、「なかなか充電施設が普及してこないため、開発したとしても、思ったように売り上げが伸びない」と嘆く。
経済産業省によると、国内で保有されているEVは22万台強。しかし充電施設は約3万口にとどまっていて、普及の妨げになっている。
こうした中、政府は充電施設などの設備投資を行った企業に補助金を出している。2023年度は300億円の予算を投じたが、2024年度は500億円を投じる。また2030年までに、充電施設を30万口まで増やしたい考えだ。
ある経産省関係者も「EV、水素自動車というより先に、充電施設をどうにかして増やさなければ、普及が進むはずもない」と、インフラ整備の必要性を強調する。
■日本でEVが進まないワケ(2)…日系メーカーは及び腰“雇用がなくなる”
さらに、日系メーカーがEVに振り切れない大きな理由がある。それは、EVに振り切れば、今までガソリン車に関わってきた技術者などの雇用が失われることだ。
ある試算では、現在製造されている車をすべてEVに切り替えた場合、30万人もの雇用が失われるという。
トヨタ関係者も「我々には雇用を守るという役割もある。どれだけEV開発が遅れているといわれようと、完全に転換することは考えていないし、やろうとも思わない。いずれ、我々が訴えていたことが正しかったと評価される日が来る」と「全方位戦略」の正当性を主張した。
一方で、ある政府関係者は「例えば“水素エンジン”の開発であれば、既存のエンジン技術は応用できるのではないか。雇用が失われるというなら、研修など、まずは“新しいやり方”を模索するのが大企業の務めだろう。やり方は色々あるはずで、このまま何もしないでは世界から完全に取り残される」と、日系メーカーの“及び腰”に苦言を呈す。
■2024年…どうなる“日本のEV”
乗用車全体のうちEVが25%の割合を占める中国と比べると、日本はいまだ2%にとどまる。しかし、ある経産省関係者は「EVの“次”は、水素やアンモニアなど、次世代エネルギーを用いた車の開発だ」と意気込む。
しかし、日本としてはまず“EVの遅れを取り戻すこと”が先ではないだろうか。2024年は、日本政府だけでなく日系メーカーに対しても、世界で繰り広げられるEV競争への“本気度”が問われる1年になりそうだ。