“白いダイヤ”争奪戦…ウユニ塩湖に異変 “脱炭素社会”のカギ「リチウム」 中国も獲得に躍起
「地球沸騰化の時代がきた」と言われるなか、国連では20日、気候変動対策を話し合う会合が開かれました。「脱炭素社会」実現へカギを握る資源のひとつが、「白いダイヤモンド」とも呼ばれる「リチウム」です。その激しい争奪戦により、豊かで多様な自然に深刻な影響が出始めています。
南米・ボリビア南西部のウユニ塩湖では、雨期には、水面に映る鏡張りの絶景が見られる。世界中で人気のこの観光地で、今“ある異変”が起きているといいます。
ウユニ塩湖近くの住民
「少し心配です。将来どうなるのか、私たちに説明すべきです」
その心配の種は、NASAが撮影した衛星写真に捉えられていました。ウユニ塩湖の一部に、不自然に四角く区切られた場所があります。ここでいったい何が行われているのか。
カメラは日本の“裏側”、南米大陸へと向かいました。
アンデス山脈に囲まれ、標高4000mを超える高地を走ること8時間あまり。やがて地面が真っ白な“塩の大地”、ウユニ塩湖にたどり着きました。
衛星写真の場所には、リチウム生産の新たなプラントが建設されていて、近づくことはできませんが、その奥ではリチウムの採掘が行われていました。
その希少性から“白いダイヤモンド”とも呼ばれるリチウム。電気自動車やパソコン、スマートフォンなどのバッテリーの原料となります。
リチウムイオン電池は、太陽光などの再生可能エネルギーを効率よく蓄電できることなどから「脱炭素社会」実現のカギとされています。
そのリチウムが溶け出した大量の地下水が、琵琶湖のおよそ16倍、世界で最も大きな塩湖であるウユニ塩湖の下に眠っているのです。
米地質調査所によると、塩湖が点在するボリビア、チリ、アルゼンチンの国境地帯は「リチウムトライアングル」と呼ばれ、世界の埋蔵量のおよそ6割が集中。近年、各国による激しい争奪戦が起きています。
中でもリチウムの確保に躍起になっているのが、電気自動車への転換で世界をリードする中国です。これまで本格的な開発が行われてこなかったウユニ塩湖でも近年、巨額のチャイナマネーが投じられ、開発が加速しています。
観光と塩の生産が主な産業だった地元の村の住民からは、「ボリビアはリチウムによって発展するでしょう」と開発を歓迎する声があがりました。その一方で不安の声も出ています。
ウユニ塩湖の観光ガイド
「観光業に携わる私たちは、景観が損なわれるのではないかと少し心配しています」
ウユニ塩湖周辺の住民が心配するのは、リチウム採掘に伴う環境の変化です。実際、何が起きるのか。カメラは、リチウムの生産が進む隣国・チリの現場を訪れました。
NNNアタカマ塩湖・橋本雅之
「非常に乾燥した砂漠地帯の一角に、水色や黄色の水がためられた池がずらっと並んでいる場所があります。ここが世界最大級のリチウム生産場です」
チリ北部にある塩の大地、アタカマ塩湖。その地下からくみ上げた大量の水が、東京ドームおよそ1000個分の広さの人工池にためられていました。約1年間かけて蒸発させた地下水は、リチウムが濃縮した状態に。精製工場で余分な物質を取り除く工程を経て、リチウムになります。
精製工場の工場長
「リチウムの需要は急速に伸びています。2030年までに非常に大きな成長が見込まれます」
世界的に脱炭素の流れが加速する中、増産の必要に迫られるリチウム。ただ、塩湖の地下水を大量にくみ上げる生産方法が、周辺の環境に与える影響は深刻でした。
8000年以上前からアタカマ塩湖の水資源とともに暮らしてきた先住民、“アタカメーニョ族”。村の環境担当、アンドレアさんが案内してくれたのは、“アタカメーニョ族”にとって神聖な鳥であるフラミンゴが生息する水辺です。
しかし、リチウム生産のための地下水のくみ上げが原因で、水辺の水位が1年に1センチずつ下がっているといいます。
その結果、この場所に500羽以上生息していたフラミンゴは、この10年で30羽ほどに激減しました。
“アタカメーニョ族”アンドレアさん
「この水辺は2028年に干上がると予測されています。無力感…怒り...悲しみを感じています」
マベル村長は、水資源が減ったことで、“アタカメーニョ族”が放牧しているリャマにも影響が出ていると話します。
“アタカメーニョ族” マベル村長
「リャマが食べるのは緑の草だけです。乾いた草は食べないのです」
リャマの毛で作ったマフラーやセーターは、先住民にとっては貴重な収入源。しかし、エサとなる植物の生育が悪く、放牧できるリャマの数が減り続けているといいます。
“アタカメーニョ族” マベル村長
「ここに住む私たちは死ななければならないのでしょうか。ここから出て行かなければいけないのでしょうか」
専門家は、リチウムの生産方法を見直さなければ“手遅れ”になると指摘します。
アントファガスタ大 ドラドール氏
「重要なのは(本当に)必要なリチウムの量を知ることです。今のまま大量のリチウムを生産するには限界があります」
今月5日、“アタカメーニョ族”はチリ政府に対し、リチウム生産に使う塩湖の水の量を規制するよう申し入れました。
“アタカメーニョ族” アンドレアさん
「人々が携帯電話を見るとき、コンピューターを使うとき、人の犠牲があり、水の損失があることを理解してください」
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いかに環境を守りながら、持続可能な形で開発を進めるか。リチウムが眠る南米の塩湖は難しい課題に直面しています。