ZHD・LINE両トップが語る未来(後)
今月、ヤフーの親会社のZホールディングスとLINEが経営統合し、日本最大級のIT企業が誕生した。日本テレビは、Zホールディングスの川邊健太郎社長と共同代表となったLINEの出澤剛社長に単独インタビューを行った。そこで語られた今後の戦略とは―
■「GAFAには『局地戦』で勝っていく」
インターネットのビジネスが「海外に今一極集中しつつある」という出澤氏の発言は、アメリカの巨大IT企業「GAFA」や中国の「BATH」に対する危機感だ。今回の統合はGAFAに対抗していくためのものなのか―
川邊「その通りだと思います。一社一社だと、GAFAに対して力及ばずで、どちらも敗れてしまうっていうのが、もう我々の本当に問題意識でした。ですので一緒になることで、サービスもより多くの方に使っていただけます。また、組織ですよね。お互いに良いサービスを作っているエンジニアが集結して、6000人以上のエンジニア集団になりますので、その力を使って、特に日本に住む人に対して、その課題の解決を優先的にやっていくと。それによってグローバルなサービスであるGAFAに『局地戦』できっちりと勝っていきたいなと思っています」
なぜ「局地戦」なのか? GAFAやBATHに対抗するというならば、世界での覇権争いである。「局地戦」では、日本でのイニシアチブを奪われないための「防御」優先とも受け取れるが―
川邊「日本は日本で局地戦です。ただ我々もLINEのアジアで強い地域も含めてやっていきますんで、徐々にそのグローバル展開になってくると思いますけれども、まずはやはり日本に住むユーザーに対して、GAFAよりも良いサービスを提供することが、まず最初にやるべきことかなと」
出澤「やはり競争するというよりは、会社としてというか、ユーザーから見たときにどうなのかが全てであって、我々の今回の統合も、1ユーザーの方からすると、それよりも『いいサービスを提供してくれよ』ってことだと思う。日本のユーザー、アジアのユーザーに根ざした形で、そこに集中して投資もしていいサービスを作るっていうことが、結果的に、我々が世界的なプレゼンスを得る」「まず力をあわせて、新しい領域にチャレンジしていくところで、一番大事なのはユーザーの目線で、ユーザーから見てこれ意味あるサービス一緒になってよかったね、と思っていただけるかどうかだと」
経営統合により日本最大級のIT企業となっても、GAFAと比較すると規模は圧倒的に小さい。Googleの親会社であるアルファベットの2020年の年間売上高は約20兆円。一方のZホールディングスとLINEを単純に足した年間売上高は約1兆3000億円にすぎない。Zホールディングスは、まず優位な市場で積極的な投資をして、成功モデルを別の地域に広げていくという戦略で、2023年度には売上高を2兆円へ伸ばす方針だ。
■「AIの技術を結集したサービスの提供を」
これまでの準備期間でシナジー効果の議論はできているという。では具体的に、どのように売上を伸ばしていくのか―
川邊「これはほんの一例ですが、例えば『防災』は、両社のAIの技術を結集します。日本は災害大国ですけども、災害時に、避難のナビゲーションをしたりですとか、復興時にはその人、その人の被災者1人1人にあったプランを提案したりですとか、本当にユーザーにカスタマイズしたものをお届けしたいなと。他にも例えば、今コロナ禍の中で旅行に行くときに、結構キャンセルになると不安というのが多いわけですけども、あらかじめそのときにキャンセル保険みたいなものを提供して、キャンセルになったとしてもキャンセル料を払わなくて済むですとか、あるいはポイントが付いて、その付いたポイントを投資信託に回して、お小遣いが増えるようにするんです。今までは投資信託やろうとなっても、何か証券会社まで行って買ったりとかしてたんですけども、我々の場合は、今やってるネット上でのいろんなアクションの中で、自然にそういう金融商品を使えるようにしていきたいです」
出澤「日本はこれからのいろんな課題から考えると、もっと金融が人々の生活の中にもっと自然な形で入っていくべきだと思う。両社ともに今、フィンテック、金融サービスはこれからユーザー利便性を大きく改善する領域なので、そこは両社で力を合わせて取り組みたいです」
AI開発や新たな技術を用いた、新しいサービスを始めるためには、研究開発が必須となる。対抗するGAFAは研究開発に力を注いでいて、例えば、AmazonやGoogleの親会社「アルファベット」の年間の研究開発費は3~4兆円だ。その額は売上高の約10%近くにものぼる。
Zホールディングスも、統合後には、AI開発などに対して、今後5年間で新たに5000億円を投資すると発表した。単純計算で1年間で1000億円の投資だ。
■「GAFAのまねっこはしない」
研究開発費が売上に占める割合こそGAFAに匹敵する10%だが、額そのものは圧倒的に小さい。川邊氏は、オリジナリティーの重要性を強調した―
川邊「GAFAのまねっこをするというのではなくて、我々のオリジナリティーで、ユーザーから圧倒的に支持されるという世界にしていきたい」
出澤「日本からインターネットに新しい1ページ、歴史を作りたい」
両社の議論は、今後、一気に加速し、新たなサービスの発表が続く見通しだ。ユーザーがより便利だと感じるサービスを提供し、シェアを拡大することができるのか。グローバルな戦いでの成果を期待したい。