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脱炭素に向けた高い壁 原発の行方は?

2021年5月29日 13:07
脱炭素に向けた高い壁 原発の行方は?

「新しいフェーズに入った。」
政府関係者は日本のエネルギー問題について、このように話す。2050年の脱炭素社会実現に向け、政府は中間点の2030年度に、温室効果ガスの排出量を2013年度と比べて46%削減する目標を打ち出した。

この“実現できるかどうか”といわれる高い目標を達成するための、エネルギー政策の基本方針が「エネルギー基本計画」だ。この計画は3年ごとに見直しをするが、今年の見直しにあたっては、日本のエネルギー問題の大きな壁が立ちはだかっている。


■注目される2030年度の「電源構成」

電力を生み出す電源には、石炭や石油を使う火力発電、太陽光や風力を使う再生可能エネルギー、そして原子力発電などがある。

日本での総発電量における各電源の割合=「電源構成」はエネルギー基本計画の肝のひとつで、その方針によって炭素の排出量が大きく変わる。

2018年度版のエネルギー基本計画では、2030年度の電源構成を、△再生エネルギー22~24%、△原子力20~22%、△火力56%、としていた。

今回、これを見直して大きく脱炭素を進める必要があり、新しいエネルギー基本計画は6月中にも決定する見込みだ。

日本テレビの取材では、政府は22~24%だった再生可能エネルギーの割合を36~38%をめどに増やし、原子力発電を現状維持で2割程度に、そして炭素排出量が多い火力発電は今の計画の56%から4割程度に減らすことで調整している。

脱炭素に向けて、電源の中心を「火力発電」から「再生可能エネルギーと原子力」に大きく転換するが、実はそれぞれに課題が浮かび上がっている。


■再生可能エネルギーの限界は

まず、環境に優しいとされる再生可能エネルギーについては、「最大限導入する」ことが政策の大前提となる。風力・地熱など様々な形がある中、短期的に導入を増やせるのは太陽光発電だ。

しかし、経産省幹部は「太陽光はすでに頭打ち」と話す。平地の少ない日本では、設置できる場所に限りがあるという。

仮に2050年に再エネを5割~6割導入するとしてシミュレーションを行うと、建物の屋上などを限界まで太陽光発電に活用し風力発電とあわせても、足りない、という試算がある。

この不足分を太陽光で補おうとすると、全国の市町村すべてで、25mプール40個規模の発電用の土地を平均65か所ずつ用意するイメージだという。

また、シミュレーションによると、再生可能エネルギー頼みでは電力を生み出すコストも今の2倍近くになるとされ、“日本の製造業の競争力が落ちる”との声もあがっている。太陽光パネルの発電効率を上げて、発電した際のコストを格段に下げるなど、技術的な転換が不可欠となる。


■原発の行方は?

一方、今の計画と同程度を考える原子力発電はどうか。福島第一原発事故の後に電力各社は全国で27基の稼働を申請してきたが、実際に再稼働した原発は9基。2030年度に電源構成の2割を担うには、27基ほぼすべての再稼働が必要だとされる。

しかし、原発の安全性に不安を持つ国民の声は今も大きく、また、「核のごみ」は最終処分場が決まらないままたまり続けている。

処分場の選定をめぐっては、北海道の寿都町・神恵内村での調査に対し、猛反発の声もあがっている。ただ、カーボンニュートラルを達成するためには、発電力が安定し、すでに技術も確立している原子力発電を稼働せざるを得ないという意見も強い。

気候変動問題について話し合う有識者会議では、原発の問題を指摘する意見がある一方で、「今ある原発のリプレース(たて替え)の検討に着手すべき」との声が相次いだ。


■原発の将来像を示せるか

脱炭素に向けて、大きく舵をきった日本。現状を考えれば再生可能エネルギーだけでなく、原子力の議論は避けて通れない。今のまま10年もたてば、原発をたてる技術が失われていく恐れがあり、原発の部品を作る現場からは、「原発をやめるにしろ、たて替えるにしろ、早く方針を決めてくれ」との悲鳴が上がる。

政府関係者は、「カーボンニュートラルを打ち出したのに、実現できる方針を示さないならば、日本の責任問題に関わる」と話す。

政権内には原発に関して明記することに慎重な意見もあるというが、懸念は、批判を恐れて原子力政策がうやむやとなることだ。まずは2030年度に向けて原発の将来像を明確に示す、政府の覚悟が問われている。

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