再エネ普及カギはエネルギーデモクラシー?
世界的な気候変動問題を解決するため、国内外で進む再生可能エネルギーの導入。しかし、日本ではコスト面など課題も。その解決の一手と注目される「エネルギーデモクラシー」とは?
■企業などで進む電力の再エネ切り替え
今月、日本サッカー協会(JFA)は、東京都文京区にあるオフィスビル「JFAハウス」などで使用する全ての電力を太陽光やバイオマス発電など再生可能エネルギーに切り替えたと発表しました。
いま世界の企業や団体などでは、自ら使う電力を再生可能エネルギーで賄うことを目標とする世界的な企業連合「RE100」への参加が加速していて、日本からはことし8月現在で59社が参加しているといいます。
その背景にあるのが、世界で拡大する「ESG投資」。環境や気候問題への取り組みが、投資家の判断に大きな影響を与え、また、再生可能エネルギーへの切り替えができなければ、世界的な大企業などのサプライチェーンからはじき出されかねないという危機感も漂っています。
例えば、IT大手の「アップル」は2030年までに使用するすべての電力を再エネにするとしていて、取引先に対しても使用する電力のすべてを再生可能エネルギーにするよう求め、導入できていなければ取引しない考えです。
こうしたなか、再生可能エネルギー導入を目指す企業などが増える一方、直面する課題の一つが「コスト」の問題です。
■なぜ再エネはコスト高?
7月、経済産業省は再生可能エネルギーの発電コストについて、「着実に低減が進んでいるものの国際水準と比較すると、依然高い状況にある」との認識を示しました。いったいなぜなのでしょうか。
電気はその場に留まることが出来ないため、発電量と使用量を常に等しくする必要があります。その需給のバランスが崩れると、場合によっては停電が発生してしまいます。
太陽光や風力などの再生可能エネルギーは、天候などに左右され発電量が一定ではありません。そのため、発電量が不足するときには火力発電などで補うため、追加コストがかかります。
また電力会社は、電気の需要を予測しながら、どのくらい発電すべきかの調整を24時間365日しなくてはなりません。そのため、発電事業者に発電を依頼する手間や人件費など様々なコストがかかってしまいます。
8月、経済産業省が2030年時点での発電コストを発表しました。事業用の太陽光発電は、立地の制約などを考慮せずに機械的に算出した場合は最安値になるものの、日照が不安定な日本では、それを補うコストを上乗せて試算すると、陸上風力や原子力などよりも割高になるということです。
■日本初の民間電力取引所
「デジタルグリッドプラットフォーム」
コストが割高であっても、脱炭素化の流れの中で再生可能エネルギーから生み出される電気を利用したい。こうしたニーズに応えたのが、「デジタルグリッドプラットフォーム」。
これは日本初の民間が運営する電力取引所で、ベンチャー企業「デジタルグリッド株式会社」が去年2月からサービスを開始。今回、JFAが再生可能エネルギーによる電力を購入するために利用したのもこのサービスです。
デジタルグリッドプラットフォームの「キモ」は、これまで電力会社が行っていた需給バランスの複雑な調整を「AI」が全て自動で行うことで電力の取引コストを抑え、「発電事業者」と「買い手」が直接電気を売り買いできる点です。
これによって、買い手にとっては電気料金の削減が見込めるうえ、電力会社を通さずに再生可能エネルギーを直接調達できます。
作り手にとっても、買い手と長期の直接契約を結びやすくなり、来年以降、固定価格買取制度(FIT)が終了したあとも、安定的な事業継続や意欲的な設備投資を行えるメリットがあるといいます。
■「電力DX」がもたらした「電力の民主化」
これまで大規模な電力会社と発電事業者がメインプレーヤーだった電力業界。しかし「電力のDX化」により業界地図は変化していく可能性があります。
この電力取引所を運営するデジタルグリッド社の豊田祐介社長は「これまで発電事業者に対しての買い手といえば電力会社が一強でした。そこに企業が買い手として直接参加するのはDXがないとできない仕組みです。
電力をDX化することで、様々な売り手と買い手が自由に電力のマーケットに集うことになる。このような“電力の民主化”を図っていきたいです」と意気込んでいます。
政府は、2030年度に、温室効果ガスの排出量を2013年度と比べて46%削減する目標を達成する目標を掲げています。そのため、再生可能エネルギーを「主力電源」として「最大限の導入を促す」としています。
電力のDX化によって、発電家も需要家も電力ベンチャーも自由に電気を売買する、まさに「エネルギーデモクラシー」が、再生可能エネルギーを最大限導入する一手になるかもしれません。